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私の居場所

 ―――――十一月三日、いつも通り修行場にいた。

 

 しばらく影さんと睨み合う。

 風で周りの草が揺れる音がする。


 次の瞬間、一歩を踏み出した。影さんを中心に円を描くように走る。

 それに合わせて、影さんは手に持った五個の小石を、私に向かって投げてきた。

 正確に投げられた小石はすべて、体の近くを通り過ぎる。


 影さんの手の中に投げる石がないのを確認して一気に近づこうと、直進した。

 すると、それを読んでいたかのように影さんは隠し持っていた一つの石を投げようとした。

 が、その前に足に魔力を流し地面を蹴る力を上げて、一気に近づく。

 影さんの目の前まで移動し、投げようとした石を手から弾く。

 そして、魔物の弱点である胸の部分に触れようと手を前に出す。

 けど、影さんは私の腕を掴みガードした。


 そのまま――――。


「えっ――――」


 影さんに足をかけられ、その場でひっくり返された。

 

「うッぐぅぅぅぅぅぅ……」


 私は思いっきり頭を地面にぶつけて、しばらく痛みに悶えた。

 

 ▼△▼△


「手加減してくださいよお~」

「死なない程度にしてるつもりなんだけどな」


 え……あれで、手加減なの……いつか、私修行中に死んでもおかしくないよ。


 まだ、痛みの残る頭の部分を手で撫でながら家の方向に歩く。


 最近は修行が厳しくなっている。最初の方は投げられた石を躱しながら影さんに近づき魔物の弱点である胸を触るだけだったのに、今は胸に触ろうとするとさっきみたいに反撃してくる。

 最初は石を投げるだけだった影さんの動きが、攻撃を躱すようになって、反撃してくるようになった。それの、おかげで私は強くなったような気がするけど。


「そういえば今日、バイト休みだろ」

「そうですね」

「だ、だから昼頃、一緒に出掛けないか?」


 影さんは頬を少し赤く染めて、視線を逸らした。


「いいですよ。暇ですし」

「わかった……昼頃迎えに行く」


 影さんもしかして、慣れてないのかなこうゆうの。

 

「ふふ……」


 ぎこちなさそうに誘う影さんの姿が面白くて笑い声が漏れた。


「なんで笑ってるんだ」

「何でも、ありませんよ」


▼△▼△


 今日は私の誕生日、影さんはそれを知っての誘いだったのか、それともたまたまなのかわからないけど、楽しみだ。


 そろそろ十二時になる。昼頃に迎えに行くって言ってたし、そろそろ来るだろう。

 白い長袖に茶色の長いスカートを穿いて、準備万端いつ来ても大丈夫。

 

 そわそわとしながら部屋の中をうろうろしていると家のチャイムが鳴った。

 すぐにドアを開けて、顔を出した。

 

「よ、よう」

 

 手を上げて、影さんらしくない第一声を上げる。


「は、はい……」

 なんて返したらいいかわからず、ぎこちない返事をする。

 

「よし、とりあえず行くか!」

 

 少しの間を得て、影さんはそう言いながら先 を歩き始める。

 

「わかりました。ちなみにどこに行くんですか?」

「え……ちょっと待ってね」

  

 背中を向けて、影さんはスマホを覗くとまた振り返る。


「霞は昼食べたか?」

「食べてないですね」

「よし、とりあえず駅前でご飯を食べよう。俺が奢ってやる。てか、今日は全部、俺の奢りだ!」

「本当ですか!?」

「本当だ。一応、金は持ってるからな。とりあえず行くぞ」


 なんか、影さんのテンション変だな。何か隠してるのかな?

 

 こうして私と影さんは、バスと電車で移動して約一時間、久しぶりの都会の駅までやってきた。そして、お腹が空いたので今はファミレスに入っている。


「おいしい!」


 私の目の前には、チーズインハンバーグが置いてある。これを、白いご飯と一緒に食べると最高に美味しい。

 

「うまいな、たまにはこうゆうのもありだな」

 

 影さんはデミグラスハンバーグをバクバクと口にたくさん入れてほうばっている。

 

 ドリンクバーで取ってきたコーラを一口飲んで、窓越しで空を見上げた。

 

 都会の空は変な色だな。

 

 ここは、普段遠くから見る東京の中心を囲っている半球状の赤いオーラの内側だ。だから、空の色が変に見えるのだ。


「かふみどうひた?」

 

 食べながら、影さんは声をかけてきた。


「空の色が変だなって思って」


 口に入れた物をゴクリと飲み込み、空を見上げる。


「別に普通だけどな」

「私にはこの目があるせいで変に見えるんです」

「そっか、ここは東京のあの建物に近いから、結界の内側なのか」

「結界……?」


 その言葉に首を捻り、聞き返した。

 影さんは水を一口飲んで、話した。


「結界には色々種類があるけど、この東京に張ってある結界は魔物を内側に入れないようにするものだと聞いてる」

「そうなんですね」

 

 つまり、結界は内側に居ることで身を守ったりすることができるものなのか。でも、色のついた雲とかと一緒で私は好きじゃない。汚れてるように見える。

 

 その後、デザートでチョコのパフェを食べて、店を後にした。


 ▼△▼△


「まだ、二時だけど、どうする?」

「どうしよう……」


 都会にきたら、いつも麗華と食べ歩きしたり服を見たりするけど、影さんときてるし、何したらいいかわからないな。


「俺のことはいいから霞が好きなところ行こうぜ」

「え、いいんですか?」

「いいよ。そのために来てるし」

「わかりました。好きなところ行きます」


 今日の影さんは何考えてるかわからないけど、深く考えてもしょうがないしやりたいようにやろう。


 影さんの前を歩き、目的地に向かった。

 

 私が、向かった場所はよく麗華と一緒に来た服屋だ。

 最近、寒くなってきたから服の整理をしたら、長袖や長ズボンが少ないのに気づいた。だから、冬に着る服が欲しい。出来れば私に合う可愛い服が欲しい。


 店内に入り、何種類か服を選び試着室に入った。

 

 私は、背が低く、自分から見ても大人っぽいファッションは似合わないと思っている。だからといって、可愛い系のファッションもなんか違うなと思ってしまうので、いつも、シンプルな服のデザインを選んでいる。

 

 全部で三種類の服を着て、これから影さんにどれがいいか見てもらうのだ。

 ちょっとしたファッションショーが始まった。


「よし、まずはこれを着てみよう」


 バッとカーテンを開けて、姿を見せる。


「お~」

 と、影さんは棒読みに近い声を上げる。


 暗めな色で上下をそろえた服を見せた。


「う~ん、なんというか暗いな、もっと明るい服着た方が似合うんじゃないか?」


 結構、的確なことを言ってくれるんだ。

 

「わかりました。後、二着あるので教えてください」


 そう言って、カーテンを閉めて次の服に着替える。


「よし、次はこれにしよう」


 白い長袖に、長い淡色のスカートを穿いた。

 

 カーテンを開き、一回転して見せる。


「ほ~」

 と、さっきよりも表情を変えて声を上げる。


「さっきの奴より全然いい。やっぱ霞には明るい服が似合うなあ。でも、色が薄いから地味にも見える。もう少し明るい色とか来てみたらどうだ?」

「は、はい。ラスト一着なので……」

 

 さっき以上に高評価だったみたいだけど、なんか影さん、すごい真剣に私の服を選んでる。

 

 また、カーテンを閉めてラストの服に着替える。


 最後に着た服は、今着てる白い長袖の上に淡色のセーターを着て、だぼだぼとした茶色のズボンを穿いた。


 カーテンを開き、同じようにくるっと一回転して見せる。


「お~!」

 と、影さんはこれまでで、一番の反応を見せる。


「今、着た中で一番いいと思う。一番霞に合ってる」

「わかりました。これにします!」

 

 私は影さんの感想を聞いて即答した。


 全部で一万を超えた服を買い、影さんと一緒に店の外に出た。


「高かったな……」

「奢ってくれてありがとうございます!」

「どういたしまして……」


 影さんは財布の中を悲しそうに眺めた。


 今日は全部奢ってやると言ってくれたけど、流石に気を遣った方がよかったかもしれない。


「そろそろ帰るか」

「そうですね。今から帰れば丁度いい時間になりそうですし」

「ゆっくり帰るとするか」

 

 ▼△▼△


 空はすでに茜色に染まってる。夕焼けが私たちを照らし、二つの影を作った。

 そんな、静かな帰り道を私と影さんが歩き進む。 

 

「霞……」


 影さんの声が耳を通る。


「なんですか?」

「生活には慣れたか?」


 そんな何気ない質問に私はすっと出た言葉を紡いだ。


「最初は色々、大変でしたけど、今ではもう慣れましたし、学校に通って絶望する日常なんかよりずっとこっちの方が楽しくて好きです」

「そっか……」

 

 影さんは、チラっとこっちを見て微笑んだ。


「でも、修行の時は手加減してくださいよ」

「考えとく」

「それ、本当ですか?」

「わからん。今、適当に答えた」

「もー」

 

 そんな会話をしてると、気づいたら家の前に着いていた。


 数ヶ月前なら、今の生活を想像できてないだろう。毎日、下を向いてずっと絶望してた毎日が、変化した。

 私は今、毎日が楽しい。


「おい、霞こっちだよ」

「え……?」


 ワイルティ―の裏に回ろうとすると、影さんに呼び止められる。


「家はこっちですよ?」

「頼みごとがあるから、ワイルティ―に来てほしい」

「わかりました」


 閉店の文字が書いてある板がドアノブにかかっている。影さんの後に扉を開き中に入る。

 チリンと鈴の音が鳴り、喫茶店特有の匂いが鼻を包んだ。

 

 その時、パンッと何かの破裂音が響いた。


「「「誕生日おめでとう!」」」

 香さん、知晃さん、店長が同時にそう言った。


「え?」


 驚いて目が大きく開いた。


 丸い机の上に、ろうそくが刺さったケーキが置いてある。


「今日、霞ちゃんの誕生日でしょ。だからみんなで準備したんだよ!ほら、こっちの席座って」


 香さんが近づいてきて、ケーキの目の前の席に促す。


 ケーキに刺さったろうそくに火をつけながら知晃さんが、話しかけてきた。


「誕生日会の準備するために、影には雨下さんを連れ出してもらったんだ。影ってそうゆうの苦手だから僕が色々、アドバイスしてあげたんだけど楽しかった?」

「はい!それはもちろん」


 ちょくちょく、スマホを見ていたのは知晃さんからのアドバイスを見てたのか。


 また、電気が消されて目の前のろうそくに火が灯っている。

 

「霞ちゃんろうそく消して!」

「はい!わかりました!」


 顔を近づけて、ふーっと息を吹きかける。

 十七と書かれたろうそくを合わせて、十本の火を消した。


 そして、みんなが口を揃えて言った。


「「「「おめでとう!」」」」


 みんながぱちぱちと拍手をした。


 私はずっと、こんな居場所が欲しかった。

 

 魔力が少なくて、弱い私を受け入れてくれる居場所が……。


「みんな、ありがとう!」


 こんな楽しい、日常が続くといいな

三章 最高の友達

 

また、溜めて投稿します。

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