第2話「俺、魔術師になりたい!」
「お母さん。俺、魔術師になりたい!」
ハイゼンがギルドからの依頼で出ていった隙に母親であるゼレーナにそう告げた。
なぜ、ハイゼンがいないタイミングを狙ったかというと、おそらく反対されるからだ。
ハイゼンは"剣士"として活躍してきた。
だからこそ、息子である俺にも"剣士"になって欲しいと願っているはずだ。
なのに、俺が魔術師になるなんてハイゼンに言ったら間違いなく反対される。
そんな俺の無茶な宣言にゼレーナは優しく話しかけてくれた。
「いいわね。魔術師。あなたがなりたいっていうならお母さんは止めないわ。ただ、お父さんにもしっかり
そのことを言うのよ」
なんて優しいんだ。
もしかしたら、ハイゼンのように剣士になりなさい!って言われると思っていたが、意外にもすんなりと俺の意見を聞いてくれた。
しかし、どちらにせよハイゼンには言わないといけないのか。めんどくせぇー。
──────
俺の魔術師になる宣言をしてから約1日。
今日はハイゼンが一日中家にいるので、夕食の時に俺の思いを打ち明けることにした。
下手したら家族団欒の時間がぶち壊れる可能性があるが、こういうのは早めに言っとくべきだ。
「バルトー。あなたー。ご飯できたわよー」
「「はーい」」
どうやら夕食の準備が出来たらしいので、各々がリビングに集まり席に着く。
「3人とも揃ったな。じゃあ祈りを捧げるぞ」
ハイゼンがそう言ったので胸の前で手を組み、黙祷をする。
この世界では食事する前に豊穣の神である
『サードル』に祈りを捧げる習わしがある。
もしこの祈りをしなかったら、一生ご飯が食えなくなるらしい。知らんけど。
「よし。じゃあ食べよう」
「その前にお父さん。俺から話がある」
「なんだバルト?
お前がそんな畏まって話すなんて珍しいじゃないか?」
ハイゼンがほんの少しだけの戸惑いを纏った顔でこちらを見つめてくる。
5年間一緒生きてきたが俺の前で初めて見せる表情だった。
でも、そんな表情をされても俺は動揺せず、呼吸を整えて、
「俺、魔術師になりたい!」
ハッキリとそう告げた。
何一つ包み隠さず、簡潔に。
「そうか、魔術師か⋯⋯わかった。じゃあ魔導書を買わないとな」
「え?」
予想外の返答に、俺は固まってしまった。
「反対しないの?」
「反対なんかするもんか。お前がなりたいっていうなら俺はそれを全力で手伝うだけだ。まあ、俺は魔法を教えれてないから魔導書を買い与えてあげるくらいしかできないがな」
意外だった。
てっきり猛反対されると思っていた。
最悪の場合、家を追い出されることまで覚悟していたのにその覚悟がバカみたいだ。
「ほら2人とも。早く食べないと料理が冷めるわよ」
「おっとそうだった。よし、じゃあ食べるか」
その後、俺達は家族3人で家族団欒の時間を過した。
───ハイゼン───
「あなた、よかったの?あれだけ剣を教えてあげていたのに」
夜も深けて、飲み物を持ったゼレーナが俺に話しかけながらイスに座る。
「いいんだよ。あの子が自分から目標を掲げて頑張ろうとしてんだ。それを邪魔するなんて親のすることじゃないさ。
それに、あの子には俺と同じような思いをさせたくない」
俺は別に剣が好きだから剣士になった訳では無い。幼少期はバルトと同じように魔術師になろうと考えてる時期もあったぐらいだ。
だが、両親からの期待という圧力に負けて、自分の思いを心の奥深くに閉じ込め、剣士を目指した。けど、両親を憎んだことは無い。
両親が俺を剣士として、冒険者として育ててくれなかったら、今の可愛い妻を迎えることができなかった。だからどちらかというと感謝してるぐらいだ。
「そうね。あなたらしい。じゃあ魔導書を買ってあげるの?」
「うーん。正直ちょっと俺の小遣いじゃなー」
俺の毎月の小遣いは20000アルド。
対して、魔導書の値段は約15000アルド。
息子のためとはいえ、さすがに躊躇する額だ。
「でしょ?だからバルトのために貯めていた貯金を使っていいから」
「え、いいのか?でもあれはバルトが学校に行くため貯めたお金だろ?魔導書に使って───」
「つべこべ言わないの。学校に行くにしても魔導書を買うにしてもあの子のためになるんだから。その代わりちゃんとした魔導書をかってきてね」
「わかった。じゃあ明日の朝からにでも買いに行くよ」
近くの本屋だと品揃えが悪いから、首都の方まで馬車に乗っていくか。
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