1.突然の解散
初めての作品です。
目標は続ける事と完結させること。
「green tea poleが解散ですって?」
小松翔は、朝一番で机に叩きつけられたメールを見つめ、目の前が真っ白になった。翔は、人口80万人程度の地方都市の市役所でシティプロモーションを担当する公務員だ。この市で10年ぶりに開催される大規模な記念イベントの主催を任されていた。街全体を盛り上げるために、なんとしても成功させなければならないイベントだ。しかし、その目玉として誘致したはずの邦楽ロックバンド「green tea pole」が、まさかの解散を発表してしまった。
「そんなバカな…」
green tea poleは、老若男女を問わず大人気のバンドだ。特に地元の若者たちにとっては憧れの存在であり、彼らの登場がこのイベントの成否を決めると言っても過言ではなかった。翔は震える手でメールを再度読み返すが、冷酷な事実に変わりはない。「急遽、バンドの解散が決定いたしましたため、イベント出演をキャンセルさせていただきます。」たった一行が、数ヶ月間の努力をすべて無駄にしてしまったのだ。
「小松くん、ちょっといいかね。」
その時、背後から聞こえたのは、課長の「高木」の声だ。翔は心臓が跳ねるのを感じながら、慌てて振り返る。上司に対して、今の状況をどう説明するべきか――。
「あ、はい、どうされましたか…」
「green tea poleの件、聞いたよ。どういうことだね、これ?」
どういうことも何も、翔自身が一番困惑している。だが、上司にそのまま伝えるわけにはいかない。必死に頭を回転させるが、何もいい案が浮かばない。
「い、いきなりの解散で、こちらも驚いておりまして、今後の対応を…」
「対応だと?つまり、君が頼んだアーティストが解散して、代わりの手配もまだしてないってことだろう?」
鋭い指摘に、翔は身を縮めるように感じた。
「す、すみません…。ただ、これだけの有名アーティストに代わるバンドを、この短期間で見つけるのは…」
「それが君の仕事だろう!イベントは目前だ。市民の期待を裏切るつもりか?」
課長の言葉が胸に突き刺さる。翔は心の中で絶望的な状況に歯ぎしりするが、今の自分に反論する力はない。
「わかりました。すぐに手配を進めます。」
課長に深く頭を下げた翔は、再びパソコンに向かって途方に暮れた。green tea poleの代わりになるアーティストを探す?そんな時間はない。それに、これほどの人気を持つバンドを引き受けてくれるアーティストが、果たしているのか――。
昼休み、翔は肩を落としながら休憩室に向かった。こんな状況でも、とにかく腹は減る。だが食欲が湧かないのは言うまでもない。
「おーい、小松!」
その時、聞き慣れた軽い声が背後からかかった。翔の同期で、別の部署に勤めている「山下徹」だ。同期入庁の仲間だが、役所内でも有名なお調子者で、特に女性に目がないことで知られている。翔とは性格こそ正反対だが、不思議と馬が合っていた。
「山下か…。ちょっと最悪の事態が起きたんだよ。」
「ん?どうしたんだよ?顔真っ青じゃねぇか!」
山下の軽薄な口調に、翔はため息をつきながらも口を開いた。
「green tea poleが解散したんだ。記念イベントも白紙だよ。」
「はぁ!?マジかよ?あのgreen tea poleが!?」
山下の驚きに、翔は少しだけホッとした。green tea poleがどれほど有名か、山下が知っていることに救われた気分になったのだ。
「そうなんだよ。俺たちのイベントに呼ぶために、ずっと交渉してたのに、結局このザマだ。しかも、代わりを探す時間もほとんどない…。」
「いやいや、それヤベぇだろ!でも、どうすんだよ?」
翔はしばらく考え込んだ。そして、突然思いついた提案を口にした。
「山下、楽器とかできるか?」
「え?楽器?」山下は突然の質問に、きょとんとした表情を浮かべた。「まあ、昔ちょっとギターいじってたことはあるけど、なんで?」
翔は一か八かの賭けに出ることにした。green tea poleの代わりを探す時間がないなら、自分たちで作り上げるしかない――それも、職員によるバンドだ。
「俺たちでバンドをやろう。green tea poleの代わりに。」
山下は大爆笑した。「ははっ、冗談だろ!?無理だって、俺たちがバンドなんかやって成功するわけねぇよ!」
「分かってる。でも、他に方法がない。やってみるしかないんだ。」
翔は真剣な目で山下を見つめた。その真剣さに気づいたのか、山下は一瞬驚いたような表情を浮かべたが、やがてニヤリと笑みを浮かべた。
「マジかよ、小松…。まぁ、面白そうじゃん。乗った!」
その軽い返事に、翔は心の中で小さく安堵した。山下を仲間に引き込めたのは、一歩前進だ。だが、まだまだ問題は山積みだ。メンバーが足りないし、実際に成功する保証もない。これから先、どんな困難が待ち受けているのか――それを思うと不安が募る。
「他に心当たりはないか?」翔が尋ねると、山下は考え込むように眉をひそめた。
「今んとこ、すぐには思いつかねぇけど…まぁ、俺が手伝ってやるよ。意外と人脈広いからさ!」
「そうか、助かるよ。」翔は感謝しながらも、心の中では焦りが消えなかった。山下が協力してくれるのはありがたいが、イベントまでの時間はわずか6か月。そんな短期間でバンドを結成し、さらに演奏を成功させるなんて――気の遠くなるような話だ。
「やれることをやるしかないか…」
翔は心の中で自分を奮い立たせ、再び歩き出した。
更新頻度頑張ります。
温かい目で見守っていただけると嬉しいです。
恐らく、各話2,000字〜3,000字くらいになるかと思います。