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日本再興機関ESPセクション ー虚空を超えてー  作者: 島田小里
第4章 憲人

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26.白いもや

「どうだ?」


 譲の問いに、麻里奈は目を閉じたまま眉間にシワを寄せる。


「……見えない」

「OK。じゃ、メディカルチェックだけするぞ」

「はーい」


 目を開いて、麻里奈はしょんぼりと肩を落とした。

 最近は、譲がメディカルチェックの機器を改造したため、テラスの椅子に座ったままの状態でも、メディカルチェック出来るようになっていた。その代わり、腕にバンドのような機器を取り付ける必要があるが、移動を考えるとこの方が楽である。


「終わったぞ」


 一分程でメディカルチェックは終わった。

 分析はこれからだが、パッと見、風邪の前と比較しても変化は見られない。


「すっかり風邪は治ったようだな」

「うん。もう平気よ」

「それは良かった。健康が何より大切だからな」

「うん? そうね」


 さらりと言われたわりに、妙に重みがあって、麻里奈は流したが、るいざが思わず聞いてしまった。


「随分、深い言葉ね。誰か健康が気になる人が居るの?」

「……いや、居ない」


 譲はそう言うと、メディカルチェックのバンドを外して、麻里奈に聞いた。


「何か思い当たるような変化はあるか?」


 これも毎日の問いである。


「うーん……、今日はなんだか、もやがかかってるって言うか、風邪のせいでぼんやりしてるのかと思ってたんだけど、なんだか違う感じがして」

「それは常にか?」

「うん。このところずっと、薄い布がかかっているみたいな感じがするの」

「ふむ」


 譲が腕組みして椅子に座り直した。

 とりあえずるいざは、譲のコーヒーを注ぎ足しておく。

 すると、それを見ていたかのように譲はコーヒーを一口飲んだ。

 そして、麻里奈に言った。


「もしかしたらそれが、能力が発現するのを邪魔しているのかもしれない」

「……そう言われてみればそうかも」


 麻里奈は少し考えると、言った。


「でもね、このもやみたいなの、日に日に薄くなってる気がするの。もしかしたら、これが完全に晴れたら、能力が使えるようになるのかも?」

「その可能性が高いな」


 譲も同意する。


「だとすると、風邪による免疫反応の可能性が高いから、もうしばらくかかりそうだな」

「えー!?」


 麻里奈が残念そうに言った。


「可能性が出てきただけで、十分じゃないか。高望みは良くないぞ」

「それはそうだけど~」


 麻里奈のもどかしい気持ちも解るが、こればかりは待つしかない。自己免疫が働いている間だとすると、長期戦も視野に入れないといけない。

 譲はそう考え、スケジュールについて見直しの検討をしたが、事態は思わぬ方向へ転んだ。

 翌日の能力チェックで、麻里奈の能力が少しだけ発現したのだ。


「なんか、うっすらと見えるような見えないような……あ、たまに見える! トレーニングの最初の頃みたいな感じ」


 その言葉に、克己とるいざがホッと胸をなで下ろした。


「やっとかよ」

「そんな事言われても、しょうがないでしょ!」


 思わず零れた克己の言葉に、麻里奈が勢い良く噛み付いた。

 麻里奈が風邪を引いてから3週間、能力が使えない期間は約2週間だった。

 その間、麻里奈も苦悩したが、克己とるいざもやきもきしていたのだ。

 安堵したるいざは、机に突っ伏してしまった。


「良かった~」


 るいざの言葉に、譲が冷静に言った。


「まだ完全に戻ったわけじゃないぞ。元のラインまで戻るかどうかが問題だからな」

「それはそうだけど、でも少しくらい安心させてくれても良いじゃない」


 譲の言葉にるいざが唇を尖らせた。

 その横で麻里奈は、張り切って言った。


「今日から、また最初みたいなトレーニングをすれば良いのかしら?」

「いや、まだだ」


 譲が麻里奈に言った。


「完全に使えるようになるまでは、無理はしないで、能力も使わない方が良い。うっかり暴走したり、思わぬ能力に目覚めている可能性もあるからな」

「そっか。結構危険な状態なのね」

「その通り」


 譲が肯定すると、克己が笑って、麻里奈に言った。


「まあ、能力の有る無しに関わらず、ある意味危険な人物だけどな」

「ちょっと、克己、それどういう事よ!?」

「おっと、口が滑った」


 ここ数日、麻里奈に冗談を言うこともはばかられていたので、ここぞとばかりに克己が悪のりする。いつもはそれを諫めるるいざも、今日ばかりは、その様子を微笑ましく見ていて、止める気配はない。

 やっといつもの日常が戻ってきた気がする。

 そう思うと、自然と笑顔になるのだった。






 そして、それは唐突に訪れた。


「あ」


 麻里奈の言葉に、憲人が麻里奈を見た。


「どうしたの?」


 現在は、農作業の真っ最中。牛や豚の餌を出していたところだ。

 そんな最中にも関わらず、麻里奈は憲人に答えるより先に、ウィンドウを開いて譲に繋いだ。


『どうし……』

「能力、戻ったわ!」


 譲の言葉を最後まで聞かずに、麻里奈は叫ぶように言った。


『は?』

「だから、今、急に能力が戻ったの!」

『……それは良かったな。ちなみに何してたんだ?』

「普通に農作業をしてたわ」

『で?』

「なんか急に、もやが晴れた感じがして、視界が広がるっていうか、良く解んないけど、戻ったって感じがしたの!」


 麻里奈自身も、上手く説明出来ないようだ。

 が、譲には通じたらしく、譲は時計を見ると、麻里奈に聞いた。


『今からトレーニングルームに来れるか?』

「行けるわ!」

『OK。第2に来てくれ』

「すぐ行くわ!」


 通話を切ると、麻里奈はピッチフォークを放り投げて、憲人に言った。


「憲人! 後はよろしくね! お母さんはトレーニングに行ってくるから!」


 憲人は目をパチパチさせながら、それでもなんとか頷いた。


「行ってらっしゃい」


 麻里奈はそのままダッシュして、トレーニングルームへ滑り込んだ。

 第2トレーニングルームへ入ると、そこには譲がすでに居た。

 そう言えば今の時間は、克己のトレーニングだった気がする。

 譲は、麻里奈の呼吸が整うのを待って、目を閉じさせた。


「俺は見えるか?」

「見えるわ」

「これは何本?」


 麻里奈の前に、譲が3本指を立てて見せると、麻里奈はすぐに答えた。


「3本」

「住居ブロックの3階の奥に表示板があるのが見えるか?」


 今度は少し間があった。それは、見えないからではなくて、戸惑ったからだ。


「……真維の、『麻里奈ちゃんおめでとう!』ってヤツ?」

「そう、それ。透視は問題無さそうだな」


 麻里奈は目を開くと、譲に言った。


「発火も試したいわ!」

「OK。基礎から行くぞ」

「うん」


 トレーニングルームに的がいくつか現れる。

 それめがけて、麻里奈は炎を繰り出した。

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