表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
日本再興機関ESPセクション ー虚空を超えてー  作者: 島田小里
第4章 憲人

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

95/316

22.いつも通りの夕食

 麻里奈がテラスに走っていくと、そこにはソファーで眠る憲人の姿があった。きちんとブランケットを布団代わりにして眠っているので、風邪の心配は無さそうだ。

 勢い良く、憲人にただいまの挨拶をしようとしていた麻里奈は、とっさに声を抑える。

 憲人が寂しい思いをしていたらどうしようとか、泣いてたらどうしようとか思っていたが、心配は杞憂だったようだ。

 唯一心配なのは、この時間にお昼寝していると夜眠れないのではということだが、憲人が寂しい思いをしないよう、真維が気を利かせて起こさなかっただろうことは解ったので、とりあえず夜のことは置いておく。

 それはともかく――。


「か、かわいい~~~!!」


 子どもの寝顔とは、こんなにもかわいいものなのだろうか。いや、きっと憲人だから特別にかわいいに違いない。

 麻里奈はすかさずウィンドウを立ち上げ、憲人の写真を撮り始める。カメラを取りに行く時間がもったいないので、ひとまず真維の個人フォルダーに記録として撮っておく。


「癒される~~~」


 すっかり任務の事など忘れ去った麻里奈が憲人を眺めていると、譲と克己とるいざがテラスを通過していったが、麻里奈の目には入らなかった。

 そうしてしばらく麻里奈は憲人を眺めていたが、そろそろ起こさないと、本当に夜、眠れなくなってしまうと思い、憲人に呼びかけた。


「憲人、ママが帰ってきたわよ~」


 実際のところ、憲人のおかえりを麻里奈が聞きたかっただけとも言うが、そんなことは知らない憲人は、もぞもぞと身じろぎして、目を開けた。


「うー」

「憲人、おはよー」


 まだ寝ぼけているようで、憲人は目をパチパチさせていたが、少しするとようやく、麻里奈を見た。


「まりな? にんむは?」

「終わって帰ってきたところよ。憲人、ただいま」

「ただいまー?」


 こてんと首を傾げて、憲人が聞く。それに、麻里奈が答える。


「どこかから帰ってきたら『ただいま』って言うのよ。そうしたら、『おかえり』って返すの」

「ふーん」


 憲人は、解ったのか解ってないのか良く解らない返事をしたが、麻里奈は構わずただいまと繰り返した。


「おかえりー」


 憲人がにっこり笑って言った。

 それに心を打ち抜かれたようで、麻里奈が悶絶している。


「やっぱり、うちの憲人が一番かわいい!」

「かわいいー?」

「うん、かわいい!」


 そう言うと、麻里奈は憲人をギュッと抱きしめた。


「まりな、くるしーよー」

「いいの! 憲人を補充しないと動けないんだから!」


 良く解らない理屈を言って、麻里奈は憲人のほっぺにすりすりする。


「なんか、いたいよー」

「あ、そういえばまだお風呂入ってなかったわ」


 パッと憲人を放し、麻里奈が冷静になる。

 挨拶はできたので、憲人と存分に触れ合うならお風呂に入ってこなくては。けれど、まだ誰も来る気配はない。

 克己がるいざが来れば、憲人を任せてお風呂に行けるのだが。

 仕方なく、そのまま4人が留守中の話を聞く。


「憲人は何してたの?」

「えっとねー、まいとおえかきしてた」


 言われてみれば、いくつかウィンドウが開きっぱなしになっている。


「これは?」

「それは、じ?のれんしゅー」

「もう字の練習かあ。確かに必要よね」


 麻里奈は頷くと、憲人を見た。真維の分析によると、そろそろ5歳くらいの身長らしい。早い子どもはもう、多少の読み書きができるようになる年頃だ。


「そろそろお勉強しなくっちゃね」

「おべんきょー?」

「そうよ。読み書きだけじゃなくて、今度、農作業も教えて上げるわね」

「お前は何の英才教育をするつもりだ」


 不意に上から声が降ってきて驚いた。


「克己! 驚かせないでよ!」

「普通に歩いて来たんだけどな。それより、お前風呂まだだろ? 入ってこいよ。憲人は見てるから」

「ありがとう。じゃ、行ってくるわね」

「まりな、どこいくの?」

「お風呂に入ってくるだけよ。すぐ戻るわ。克己と良い子にして待っててね」

「はーい」


 克己はキッチンに入ると、冷蔵庫から麦茶をコップに注いで持ってきた。


「ゆっくりあったまってこいよ」

「はーい」


 言いながら、麻里奈は部屋へと走っていった。

 それを見送ると、憲人が克己の服の裾を引っ張った。


「ん? どした?」

「かつみ、おかえりー」

「おお、麻里奈が教えたのか。ただいま」


 言葉を返すと、憲人は嬉しそうに笑う。

 子どもはやっぱかわいいな。

 克己はそう思い、憲人の隣に腰掛けた。






 今日の夕食は、さわらと温野菜の照り焼きがメインで、ご飯に油揚げとネギとワカメの味噌汁、ポテトサラダ、もやしとにらと鶏そぼろの炒め物だった。

 おそらく、真維が任務の後と言うことで気を使ったのだろう。肉らしき肉や、赤いものは使われてはいるが、主張してこないレベルだ。

 これで、赤い料理やステーキや焼き肉など出された日には、麻里奈はともかく、るいざは食べられないかもしれない。克己も、食べはするが微妙な気分になることは間違いない。

 そして、全体的に薄味で、卓上調味料を使うようになっていて、憲人にまで配慮されている。

 憲人はそろそろ普通の食事でも良いのだが、念の為まだ薄味の食事を用意していた。


「お魚の照り焼きも良いわね! 白身魚だから、引き立てあって美味しいわ!」


 麻里奈が言うと、譲の席に座っている真維が嬉しそうに微笑んだ。


『喜んで貰えて良かったわ』

「もやしとにらのも美味いよ。ご飯が進む!」

『ピリ辛にしたかったら、唐辛子の千切りもあるわよ』

「それも美味そうだけど、今度にしとく」


 克己は勢い良くお茶碗を空にしては、おかわりをしている。


「いつもにまして、よく食べるわね」


 るいざが言うと、克己が少し考えた。


「なんか、能力使うとすげー腹減るんだよな」

「脳筋なんじゃないの?」

「失礼な!」


 麻里奈が横から茶々を入れるが、お腹が空くのは麻里奈も同じだった。

 と、るいざがキッチンから緑茶を取ってくる。


「これ、お茶漬けにしても美味しいと思うのよね」

「たしかに。るい、余ったら俺にもお茶ちょうだい」

「はい、どうぞ」


 賑やかな食卓に、見ているだけだった憲人だが、なんとなく嬉しそうだ。

 麻里奈がそんな憲人に気付いて聞いた。


「どうしたの、憲人?」

「んー、なんかたのしー」

「そう?」

「うん! みんないるっていい!」


 言葉にはしなかったが、お留守番が寂しかったのだろう。いつも通りの夕食、いつも通りの日常。それが一番大切で守りたいものなのだと、麻里奈たちは改めて思った。

2000PVありがとうございます!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ