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日本再興機関ESPセクション ー虚空を超えてー  作者: 島田小里
第4章 憲人

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21.緊急出動⑤

 譲は手近な建物から内部を透視しつつ、奥へと進んでいくが、今のところ人の気配が無い。


「さっきの兵士がラスト? ……なわけ無いよな」


 ここの拠点は、いくつかの建物が集まった物が点在している。

 大きく分けると克己たちが行った、一段低い場所と、現在譲が居るやや小高い丘の場所である。

 下は恐らく作業メインの兵士達の宿舎で、上に司令官クラスが居ると、譲は踏んでいた。

 その証拠に、先程沙月が来た際に追加で現れた兵士は戦闘慣れしており、かつ、このあたりの建物から現れた。

 拠点を一つ一つ見落とさないよう探すが、やはり人の気配はない。


「おかしいな」


 こうなると、逆に危険な予感がしてくる。

 譲は念のために、るいざに呼び掛けた。


『そっちはどうだ?』

『あっ! 今ちょうど交戦中!』

『能力妨害装置は無かったのか?』

『あったけど、壊せたわ。今はさっき、そっちから来た増援と戦っているところ』

『大丈夫そうか?』

『うん。なんとかなりそう。そっちは?』

『ボス探し中だ。大丈夫そうなら、もう少し探してみる』

『頑張って!』

『ああ。そっちもな』

『ありがと』


 どうやら向こうは問題無さそうだ。

 譲は一呼吸整えると、沙月が去った方角へ足を向けた。

 近い拠点は全て見たが、人も物も見あたらなかった。

 残るは、やや離れた場所にある可能性だ。

 目視出来る範囲には何もない。が、建物の内部や影にある可能性がある。

 譲は意識を集中して、シールドを展開しつつ、広範囲を透視したまま歩いていく。

 消耗が激しいが仕方ない。

 このあたりは昔の名残で大きな建物が多く、かつ半壊している物がほとんどのため、隠れようと思えばいくらでも隠れられるのだ。

 しばらく進むと、建物の内部に3棟の建物が見つかった。

 しかし、人の気配は無い。

 無いが――。

 譲はPKを使って飛ぶと、建物の扉の前に立った。

 途端に鼻につく鉄錆の匂い。


「……」


 透視するまでもない。譲は中央の建物の扉を開けた。

 そこには、散々たる光景が広がっていた。

 複数人の死体が折り重なるように倒れ、今まだ新しい鮮血が流れ出している。


「証拠隠滅か」


 譲はため息を吐くと、中に入って死体を検分する。


「これは、銃じゃないな。……沙月か」


 譲と話した後、こちらに飛んだのは見ていたが、そのまま拠点を捨てる判断をし、証拠隠滅して去ったらしい。

 めぼしい証拠品も見当たらない。


「……」


 むせかえるような血の臭いに、譲はめまいを感じ、建物を出た。

 生きている物が居ないのなら、現場を荒らさず、後は陸軍に任せた方が良い。

 そう言い訳をして、陸軍へ無線で一報を入れる。

 そして、周辺に他に拠点が無いかを探すが、他には無さそうだった。

 譲は窓からその建物を出ると、克己たちが居ると思われる方へ向かった。






「あれ、譲じゃん。上は?」


 克己が歩いてきた譲を目にして聞いた。


「拠点を破棄したようで、証拠隠滅されてた。そっちはどうだ?」

「さっき終わったところ。今、陸軍の護送車に敵を詰めてる」

「そうか」


 なら、譲のする事は無い。

 ひとまずこの件はこれで終わりだろう。


「念の為、シールドだけは展開しておけよ」

「解ってる。帰るまでは何があるか解らないからな」


 克己は調子良く答えた後、譲をじっと見た。


「お前、顔色が悪いぞ。怪我でもしたか?」

「いや。問題無い」

「そーかあ?」


 克己は疑問を持ったようだが、それ以上聞いてくることは無かった。

 どうやらここの対処は上手く行ったらしく、克己もるいざも麻里奈も怪我は無いようだ。


「引き渡し終わったら帰るか」

「OK」


 譲はそのまま、陸軍の大佐を探す。

 そして、拠点の位置と有り様を伝えると、先に戻る旨を伝えた。


「了解です。お疲れ様でした」


 大佐は陸軍の1部隊を、譲が言った方へ回すよう指令を出す。それを横目に、譲はテレパシーでるいざに呼び掛けた。


『先に車に戻ってる。そっちが一区切りししだい、車まで戻ってきてくれ』

『了解。……譲?』

『何だ?』

『平気?』


 見透かされたようなその言葉に、譲は一瞬動揺するが、すぐに立て直す。


『大丈夫だ』

『そう? なら良いんだけど。急いで終わらせるから、先に行って待ってて』

『ああ』


 テレパシーを終わらせると、譲は浦安に向かってテレポーテーションをした。






 車をESPセクションの駐車場へ止めると、真っ先に麻里奈が車を降りて、ゲートフロアの方へ走っていった。

 おそらく、留守番している憲人が心配なのだろう。


「まだエンジンを切ってもいないのに」


 克己がぶつくさ言ったが、すでに麻里奈の姿は見えない。

 なんだかんだで、4時間程の外出になってしまったので、心配する気持ちは解らなくもない。

 克己がエンジンを切ると、るいざと譲も車を降り、ゲートフロアへ歩き出した。

 と、同時に譲は真維を呼び出す。


「真維、憲人はどうしてる?」

『おやつを食べたらお腹がいっぱいになったみたいで、お昼寝してるわ』

「こんな時間まで?」


 思わずるいざが言う。それもそのはず、譲たちが出掛けたのは午後2時半頃だったから、現在は午後6時すぎ。夕食の時間である。この時間まで寝ていると、夜眠れなくなってしまう。


『1人でお留守番が退屈だったみたいだから、今日は見逃してあげて』

「それなら仕方ないけど……」


 いくら真維が居ると言っても、彼女は触れられない。それに、いつも一緒の麻里奈と、こんなにも離れていたのは初めてだ。さらに、他のメンバーも居ないとなれば、寝て大人しくしている憲人を、真維が起こせなくても仕方ない。


「そうだ、夕ご飯」


 るいざが思い当たったように言うと、真維が言った。


『今日は私が用意したわ。だから、みんなはシャワーを浴びてきたら?』

「ありがとう、助かるわ」


 忘れていたが、戦闘で砂埃をかぶったり、汗をかいたりしていた。気付くと気持ち悪い感じがしてくる。


「じゃ、シャワー浴びて、その後メシだな」


 克己が言うと、るいざも頷いた。

 が、譲だけは違った。


「俺はメシはいらない。先に部屋に戻る」

「――わかったわ」


 いつもは止めるるいざが、そう言ったので、克己も大人しく従った。

 そうして、テラスまで戻り、部屋へ向かう譲を見送ると、克己がるいざに聞いた。


「いいのか? メシ抜きはダメっていつも言ってるのに」

「あんな顔色じゃ、無理に食べろなんて言えないわよ」

「まあ、確かにな」


 そのくらい、譲の顔色は悪かった。

 克己も、帰りの車で何度も聞きかけて、我慢したのだ。


「何があったんだか」

「本当にね」


 2人は心配そうな顔で譲が消えた方を見ていたが、やがてシャワーを浴びるために、それぞれの部屋へと歩いて行った。

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