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日本再興機関ESPセクション ー虚空を超えてー  作者: 島田小里
第4章 憲人

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19.緊急出動③

 克己たちがテレポーテーションで出たのは、仮設の建物が並ぶ一角だった。

 到着と同時にシールドを全開で展開すると、近くの建物がシールドに押されて倒壊する。


「ちょっと! もっと静かに出来ないの!?」


 麻里奈が克己に言うが、その声も相当大きい。


「お前こそ、敵陣の真ん中で怒鳴るなよ」


 ついツッコんだ克己に、慌てて麻里奈は口を手で抑える。

 が、特に人の気配はしない。


「留守なのかしら?」


 るいざが首を傾げると、ようやくこちらに走ってくる足音が聞こえた。


「少し移動しよう。ここは土煙で見通しが悪い」

「誰のせいだと思ってるのよ」

「まあまあ」


 こんな時でもケンカ腰の2人に、るいざが呆れつつ宥める。

 と、何となく嫌な予感がした。


「ちょっと待って。そっち、なんだか嫌な感じがする」


 るいざが言うと、麻里奈がるいざの指差した方をじっと見る。


「多分、能力妨害装置だと思うのが、この方向に300メートルくらいのところにあるわ」

「この距離なら平気ってとこか」


 克己が言うと、るいざが難しい顔をした。


「でも、多分範囲がかなり広いわ」

「そうね。私も、頑張ってもよく見えないもの」


 麻里奈の透視が阻害される程度と言うことは、恐らく出力的には中程度なのだろう。出力を絞って、範囲の広さに振っているのかもしれない。

 とすると、克己のシールドはともかく、るいざと麻里奈の能力は半減すると考えて良さそうだ。


「先にそっちを壊すか」

「待って。その前に、こっちに走ってくる連合軍の兵士が2人」


 麻里奈が足音のする方を見て、警戒する。


「来るわ!」


 言うが早いか、土煙がまだ舞っていて視界が悪いと言うのに、銃声が響く。

 が、シールドに阻まれて3人には届かない。


「左をやるわ!」


 麻里奈の言葉に、るいざが応える。


「私は右を!」


 同時に麻里奈の炎が左の兵士へ、るいざの雷電が右の兵士へ襲いかかる。

 能力自体はそこまで強くは無かったが、恐らく銃や武器に引火したのだろう。轟音をたてて爆発が起こる。


「……あ」


 るいざの口から声が漏れた。力加減を誤って、命を奪ってしまった事に、戸惑ったのだ。

 克己のシールドの中までは爆発も、爆風も届かないため、克己はるいざの震える手に気付いてしまった。


「るい」


 呼びかけたは良い物の、それ以上かける言葉が見当たらなくて、克己はるいざを見る。


「うん。……大丈夫。ちょっとね、覚悟が足りなかっただけだから」


 るいざは気持ちを切り替えるように、克己を見て笑顔を作った。


「そっか」


 克己も、それ以上何も言わずに麻里奈を見た。

 一方、麻里奈は同じ状況にもかかわらず、誇らしげに炎を眺めていた。まるで、敵は全て滅ぼすと言わんばかりだ。


「……俺、麻里奈と敵対したくねーな」

「何でよ?」


 突然良く解らないことを言われ、麻里奈が膨れる。


「まあいいわ。それより、今のうちに能力妨害装置を壊しちゃいましょ」

「そうだな。援軍が来る気配も無いし」


 恐らくここにある仮設の建物は、作業員の住居なのだろう。現在は昼間だから、次の拠点に向けて進行していて留守だと思われる。

 となると、見張り以外は、そんなに人員は居ない可能性が高い。


「るい、行けるか?」

「うん。もう大丈夫」


 克己の言葉に頷くと、るいざは麻里奈が示した方角へ走り出す。それに遅れず、克己と麻里奈も走り出した。


「でも、妨害装置なんて、どうやって壊すの?」


 走りながらるいざが聞くと、克己が懐から銃を取り出した。


「譲が念のためにって、持たせてくれた」

「何で克己だけ!?」


 麻里奈が透視で周りを警戒しつつも、文句を言うと、克己はしれっとして言った。


「『お前なら使えるだろ』ってさ。俺アメリカ育ちだからな」

「……確かに、私に持たされても使い方が解らないわね」


 麻里奈が根本的なところに気付く。そのやりとりに、るいざが言った。


「今度、普通の武器の使い方も教えてもらわないといけないわね」

「その通りだわ」


 麻里奈はだんだん透視範囲が狭まっていくのを感じ、走る速度を緩めた。


「克己、シールド張りにくくない?」

「多少は。でも、余程の事が無い限り平気な程度」

「麻里奈の透視が使いにくいってことは、だいぶ近いわね。気を付けて」


 3人は固まって、早歩きくらいまで速度を落とす。


「ちょっと頭が、かき乱されるって言うか、集中しづらい感じ」


 るいざも能力妨害装置の影響を受けているのか、眉をひそめている。

 と、麻里奈が前方の少し開けた場所を指差した。


「あ、あれ!」

「って、どれだ?」


 指差した先には建築資材や作業車両がまとまっていて、そのどこに妨害装置があるのか解らない。

 とっさに3人は建物の瓦礫の影で足を止める。

 そして、麻里奈はじーっとそちらを見るが、すぐに目を押さえた。


「無理。わかんない」

「つか、護衛も居るな」

「え、ホント?」


 麻里奈が驚いて聞くと、克己が頷いた。


「足音からして、5人以上は」

「ごめん、透視全然役に立たないわ」


 麻里奈が悔しそうに謝る。


「それを言うなら、私なんて何の役にもたってないから大丈夫よ」

「るいざの出番はこれからじゃない」


 言い合う2人をよそに、克己が銃に玉を装填する。


「能力妨害装置がわかったの?」

「いや」


 驚く麻里奈に、克己は銃を構えながら答えた。


「どれが妨害装置かは解らなくても、あの中のどこかにあるのが分かれば十分」


 克己の言葉に、るいざがぽんと手を打つ。


「さっきみたいに引火させるのね」

「そう言うこと。でも、この銃だとかなり近付かないとだから、どこを狙うのが良いか決めてから行かないと」


 すると、るいざの予知が閃いた。


「麻里奈。フォークリフトのガソリンの残量分かる?」

「そのくらいなら見えるわ。えーと……、三分の二くらいある」

「OK。狙いはそこだな」


 克己は銃を手に、2人を見る。


「いつでもスタート出来るわよ」


 麻里奈が張り切って答える。

 るいざも頷く。


「それじゃ、キャンプファイアといきますか」


 その言葉を合図に、3人は一気に走り出した。

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