9.測定実験
個体登録が全員終わると、基地の案内も終了らしく、3人は自由時間になった。
麻里奈は農村ブロックのロボットと農業の話で盛り上がっている。出身地の北海道でどうやら農業を営んでいたらしく、共通の話題で盛り上がれるのが楽しいようだ。
一方るいざはと言うと、ロボットには恰幅の良い女性も居たらしく、こちらは料理のレシピの話で盛り上がっている。
手持ち無沙汰な克己は仕方なく譲の作業を見ていた。
「なぁ。なんでコンピュータールームで作業しねぇの?」
「今あっちはゴタゴタしているからな」
展開されているウィンドウの数が凄いことになっている。背後にまで及んで居るが見えて居るのだろうか?
「アンタは何の能力を持ってるんだ?」
「PK――念動力だ」
「へぇ。1つなのか」
「一応、他の適性もだいたい平等にあるが……それがどうかしたか?」
「いや、昨日親睦会でお互いの能力の話になってさ、譲は何の能力を持っているのかも話題に上ったんだよ。てっきり課長ってくらいだから、2つか3つ以上の能力を持っているもんかと思ったわ」
「俺は特例みたいな物だからな。……統計的に、能力が使えるレベルになるのは2つの人間が多いらしい。3つ使えるお前みたいなのは稀だな」
「特例?」
「父親が軍人だったから、日再――日本再興機関に目を付けられるのが早かったんだ。都合の良いコマってことだ」
「でも、それだけでこんなデカい施設の所長兼特殊能力課長にはならなくね?」
その言葉に、驚いたように譲は克己を見た。
「……」
しかし、直ぐに視線をウィンドウへと戻す。
「無駄話をしたいなら他でしろ。作業に集中したい」
ウィンドウがまたいくつか増え、それがメガネに反射し譲の表情が見えなくなる。出ていけと暗に言われ、仕方なく克己は立ち上がった。
麻里奈とるいざは相変わらず話に花が咲いていたので、克己は植物園にでも行こうかと、中央回廊へ入った。そこでちょうど白石と一緒になった。
「暇そうだね?」
「まぁね。何か俺に出来ることある?」
「そうだなぁ……」
白石は少し考えてから、ニッコリ笑った。
「測定機器の試運転を手伝ってくれないかな?」
「測定機器?」
「特殊能力を測定する機器があるんだ。今のところテストもしていない状態でね。ほら、唯一能力を持っている譲君があの状態だろ? だから、困ってたところだったんだ」
「そう言う事ならお安い御用だ」
「ありがとう。助かるよ」
実験室と表示された部屋は、コンピューターやコンソールがある部屋と、白い壁に囲まれた大きめの部屋から出来ていた。
「本当に施設も充実してて、デカい施設だなぁ」
「最初はこんな予定じゃ無かったんだよ?」
機械の電源を入れながら、白石が言う。
「当初は日再の一部を拡張して、そこを使う予定だったんだ」
「へぇ」
「ところが、ある日突然、譲君が課長になることに決まって、就任する代わりにこの基地一式を請求したと言うわけさ」
「うわぁ」
変わったヤツだとは思っていたが、相当な変わり者かもしれない。
「ってことは、譲は軍人じゃなかったのか?」
「その通りだよ。能力を使いこなしている能力者を捜していた時に、偶然見つかったんだ」
そんな偶然があるものだろうか?
と、思ったが克己は口には出さなかった。
しかし、それは白石も考えた事らしい。
「ある日偶然、軍の関係者の身内に、都合の良い人材が現れ、その人物は偶然システム構築の知識を持ち、基地を1つ立ち上げる」
白石は笑みを消して、克己を見た。
「譲君には気を付けた方がいい。何か裏で工作している節がある」
「……」
「そもそも、譲君は君たちを含めた4人で特殊能力課を進めるつもりだが、実権と力の持ち主が同じというのは危険だと思わないかい? 研究員くらいは入れるべきだと僕は提案しているんだが聞く耳を持たなくてね」
確かに、白石の言う事が本当なら、危険なのかもしれない。
だがしかし、なぜか克己はその話をすんなりと受け入れられなかった。
ほとんど話もしていない相手だが、克己の勘は譲が裏で何か企むような人間では無いと告げている。
かと言って、否定するだけの材料も無い。
ここは一つでも多くの情報が欲しいところだ。
「さて、起動完了だ。そっちの部屋の中央に立って貰って良いかい?」
「ああ」
1つ頷き、克己は白い部屋の中央に立った。
「センサーとか取り付けたりはしないんだな」
「そのまま、力を使うのが一番だけど、まだ制御が甘いだろうから、イメージだけしてもらっても良いかな? 力を放出するようなイメージで」
「OK」
言われたとおり、克己は力の放出をイメージしてみる。
「お、いいね。計測するからその状態を維持出来るかい?」
「難しいな。やるだけやってみるけど」
出すのと、それを一定に保つのとでは大きく違う。放出している力がゆらゆら揺れているのが、克己自身にも解る。集中力が必要とされ、汗が頬を伝う。
「一旦ここまでにしようか」
「つ、疲れた~……」
「大丈夫かい?」
「なんとか。今ので何分?」
「3分だね」
「マジか」
たった3分集中しただけで、汗だくだ。
「でも、面白い実験結果は出たよ」
白石がウキウキとウィンドウへ結果を表示する。
「ここが最大でこっちが最小。で、大体のアベレージを表示すると、克己君の能力はこんな感じになる!」
そこにはレーダーチャートで能力が数値化されていた。
テレポートが一番高く、上限を越えている。が、それ以外はほぼ標準と書かれた円の中に収まっている。
「いいねいいね。このシステムは僕が開発したんだよ。それこそ譲君が来るより以前から設計してね。確か、克己君の能力はテレポートだったね? これでこのシステムの有益さが上層部にも解るだろう!」
1人でテンションが上がっている白石を横目に、克己は眉をひそめた。
譲は克己の能力が3つ有ることを知っていた。だが、白石の様子を見るに、彼は知らないようだ。かつ、残りの2つの能力が表示されていないのはなぜか。
そしてこれが最も難しい問題であるが、その事を白石に告げるかどうか――。
「……」
難しい問題だ。