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日本再興機関ESPセクション ー虚空を超えてー  作者: 島田小里
第4章 憲人

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15.その頃のESPセクション

「ねえ、るいざ。七五三って何月なの?」

「確か、11月頃じゃなかった?」


 朝食の席で唐突に麻里奈に聞かれ、るいざはスープを食べていた手を止めた。

 食事も3人、しかもそのうちの1人が子どもだと、いつもより寂しく感じる。

 それを察してか、真維がテーブルに一緒についていてくれるが、彼女はさすがに食事は出来ない。

 騒がしさは憲人と麻里奈のおかげであるのだが、やはり、いつもいる2人が居ないと寂しい。

 ちなみにはじめも、まだ憲人の前には姿を現していない。説明を理解出来る年齢になるまでは、出てこないと言っていた。


「で、七五三がどうしたの?」

「憲人が、急いで成長しちゃうから、せっかくだし譲に直してもらったインスタントカメラで写真を撮りたいなと思って。でも11月かあ」


 現在は6月だ。

 麻里奈が悔しそうにしている。

 それに微笑むと、るいざは言った。


「でも、最近は日付はあんまり気にしないわよ。出来る限りタイミングがあればやる、みたいな感じで」

「確かに、出来ないことの方が多いものね」


 むしろ、今は詣でる神社が無い。そのため七五三は完全な親の満足のための行事になっているとも言える。


「じゃあ、今日やろう!」


 唐突に麻里奈が言った。


「千歳飴は用意できないけど、ちらし寿司かなにか作って、お祝いしましょ! そうと決まったら、農場の女将さんに羽織袴仕立てて貰わないと!」


 そう言うと、慌てて朝食を食べて、憲人をるいざに頼み麻里奈は農場へガンダした。

 あとに残されたるいざと真維は、ぽかんとして、それを見送る。


「あの行動力は凄いわよね」


 真維が感心したように呟くと、るいざも頷いた。


「まりな、のうじょう行ったの?」

「そうみたい。すぐ帰ってくると思うから、憲人はご飯を食べちゃおうね」

「うん」


 今の憲人が何歳かとか、そういう細かいことは誰も気にしない。とりあえず祝う口実が欲しかったのかもしれない。


「そうねえ。私も季節は無視して柏餅でも作ろうかしら」


 るいざが言うと、真維が賛成した。


『いいわね。じゃ、小豆と粉類と、柏の葉、あと、ちまきの材料も補充するわ』

「お願い」


 この際、男性陣は無視して憲人のお祝いを一気にしてしまおう。こういう時の女性陣の団結はすごいのだ。






 服が出来上がるまでの間、麻里奈は憲人と遊んでいた。

 テラスで本の読み聞かせをしているらしく、キッチンに立つるいざの耳にも時々聞こえてくる。

 るいざが小豆の柔らかさを見ていると、はじめがパッと現れた。


「譲君はともかく、克己君は悔しがりそうね」


 今日のパーティーに参加出来ないことについてだ。


「そうね。まあ、仕方ないわよ。麻里奈が思い立っちゃったんだもの」

「そうね。やっぱり麻里奈ちゃんはビックリ箱で良いわね」


 言い得て妙だ。るいざはクスクス笑うと、小豆に蓋をして、ちまきの準備に戻る。


「随分たくさん作っているけど、明日2人にも食べさせてあげるの?」

「そうよ。食べなかったら冷凍しても良いしね」


 パーティーやお祝い事は、準備が大変だ。けれど、それ込みで楽しいとるいざは思う。


「そう言えば、はじめさんが見つけたインスタントカメラ。麻里奈使ってたのね」

「ああ、あれね。譲君が直した時に印刷部分を弄ったみたいで、かなり便利になってるのよ」

「そうなの?」


 その話は聞いていなかったるいざは、はじめに聞く。


「元はフィルムを入れなきゃいけなくて、印刷にも時間がかかってたんだけどね、譲君がフィルム無しで専用紙に印刷出来るように改造しちゃったの。撮るとすぐに写真が出てきて便利よ」

「へ~。譲は本当になんでも出来るわよね」

「元々古い物だったのに、ちゃんと直せたしね」


 はじめはふわふわと浮かびながら、なんだか楽しそうだ。


「私の部屋にある、はじめさんが見つけたガラクタも、使える物になるかしら?」

「ガラクタは酷い」

「だってそうじゃない。ほとんど壊れてるんだもの」

「まあ、そうだけど」


 と、パッとはじめの姿が消えた。

 特に不機嫌になったわけではなく、憲人がこちらに向かって歩いてきたのを察したようだ。


「るい、のどかわいた」

「なにがいい? お茶? 牛乳?」

「ジュースがいい」

「ちょっと待ってね。麻里奈、憲人にジュースあげてもいい?」

「いいわよ~」

「だって。はい、リンゴジュース」


 るいざは冷凍庫から子ども用のリンゴジュースを取り出し、憲人に渡した。


「ありがとー」


 憲人はジュースを貰うと、再び麻里奈のところへ戻っていく。

 と、そこに真維のウィンドウが開いた。


『麻里奈ちゃん、お待ちかねの服が出来たそうよ』

「わあい! ありがとう、真維」


 麻里奈は本を片付けると、憲人を連れて農場へ向かった。






 その日の夕食は豪華だった。

 ちらし寿司に、ちまき、祝い鯛、刺身、紅白なます、ハンバーグ、サラダに温野菜、柏餅と、食べきれない程の料理が並ぶ。


「すごーい!」


 麻里奈と憲人が口をそろえてそう言ったのがおかしくて、るいざは笑った。


「残ったら明日、克己と譲に食べてもらえば良いから、はりきっちゃった」

「柏餅、懐かしい~。あんこ久しぶりだわ」

「私もよ。どうせだから丹後の節句もやっちゃえばいいかなと思って、メニューはごちゃ混ぜなの」

「良いアイデアだわ、るいざ! そして憲人も似合うわ!」


 農場の女将が作った羽織袴を着ている憲人を、麻里奈がインスタントカメラで撮りまくる。


「このカメラ、本当に便利だわ! データとは違う、すぐいつでも見れる便利さがある!」

「記念写真は飾っておきたいしね。憲人、苦しくない?」

「だいじょぶ」

「それじゃ、そろそろ夕食にしましょうか」

「そうね。食べてるところも撮りたいし!」


 大人2人と子ども1人の夕食にもかかわらず、テーブルいっぱいに食べ物が並ぶ。


「克己が知ったら悔しがるわね!」


 なぜか勝ち誇った顔で麻里奈が言った。

 それを憲人が不思議そうに眺めている。


「それじゃ、いただきます」

「いただきまーす!」

「いただきます」


 三者三様の挨拶をして、楽しい夕食は始まったのだった。

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