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日本再興機関ESPセクション ー虚空を超えてー  作者: 島田小里
第4章 憲人

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14.研究部④

 翌日、克己が目を覚ましたとき、譲は既に起きていて、ウィンドウを眺めていた。

 と言うか、これは――。


「おはよ。お前、もしかして寝てないのか?」


 その声で、夜が明けている事にやっと気付いたらしい譲は、克己を見もせずにため息を吐いた。


「Morning、気付かなかった」

「そんなに集中して何を調べているんだ?」

「大したことじゃない」


 そう言ってはいるが、徹夜するあたり、どう考えても大したことなのだろうが、聞いても答えてくれないことは明らかなので、克己は深くは追求しなかった。


「さて、今日はやっとるいのメシが食えるな」

「そうだな」


 平坦な声で言われて、克己が呆れる。


「お前、もう少し食に興味を持てよ……」

「そう言われてもな」


 本部の食事もるいざの食事もどちらでも気にしないどころか、放置すれば食べることすら忘れそうな譲に言っても無駄だとは思うが、つい言ってしまう。


「まあいいや。さて、今日は何をするんだろうな?」


 着替えながら克己が譲に問いかける。昨日、理論から構築し直しになった装置が、今日完成しているとは到底思えない。だとすると、克己の出番は無いと思われるのだが。

 そう思う克己に、譲は言った。


「基礎実験をすると思う」

「基礎実験?」

「装置を組み上げる前段階の、……なんて言うんだろうな。機械を組むとき、個々のパーツがちゃんと機能するか事前に実験するような感じで、能力に対して、どの理論のどのシステムが一番効果が高いかを計測するようなヤツだ」

「なるほど」


 ちゃんと分かりやすく噛み砕いて説明してくれる譲は、ぶっきらぼうに見えて案外優しいと克己は思う。


「じゃ、メシを食ったら研究部へ行こうぜ」

「今日は1人で行ってくれ。俺はこれの後始末をしなけりゃならん」


 くいっと顎でウィンドウを示す。


「どんだけシステム使ってんだよ」


 呆れた克己は、さすがに今日は譲を置いて食堂へ向かった。






 克己が、食事をして部屋に戻ったときも、その後研究部へ行って実験をこなした後に部屋へ戻ったときも、譲は同じ姿勢でシステムを弄っていた。いっそ、手が動いていなければ、こういう彫刻か何かかと思う程に、微動だにしていない。


「おい。いい加減終われよ」

「ああ、もうそんな時間か」


 譲は最後に『真維』にいくつかタスクを任せて、ウィンドウを閉じた。そして、思い切り伸びをする。パキパキという音がこちらまで響いてきた。


「何時間やってたんだか」

「さあ。まあ、いつものことだ」

「まさかとは思うが、向こうの部屋でもこんな事してるのかよ」

「部屋でしなくて、どこでするんだ。他は人が来て落ち着かないだろ」


 ある意味まっとうな意見だが、いくら何でも限度がある。


「とりあえず、昼メシだな」


 譲が食事に関する発言をしたのに驚いて、克己がワンテンポ遅れる。

 その隙において行かれそうになって、慌てて追いかける。


「おい、俺を置いていくな」

「ぼんやりしてる方が悪い」

「ひでえ言いぐさ」


 2人は軽口をたたきつつ、一緒に食堂へと向かう。


「そういや、午後は何かあるのか? 帰るだけ?」

「一応、研究部に挨拶だけして、あとは帰るだけだな。夕食までには戻れるだろう」

「挨拶」

「なんだ?」

「いや、お前から日本のまともな行動が出てくることに驚いただけ」

「失礼なヤツだな」


 譲はジト目で克己を睨んで、食堂のパネルを押した。






 そうして研究部への挨拶も済ませ、また装置が完成したら連絡するとの言葉を貰い、譲と克己は帰路についた。

 克己が運転手をしているが、助手席で譲は船を漕いでいる。


「おい。寝ていていいぞ」

「ああ」


 言うが早いか、あっと言う間に譲は意識を手放した。道路といっても、瓦礫が転がり道は悪いのだが、よくもまあそんなに簡単に眠れるものだと克己は感心する。

 本部と第七シェルターは直接距離にすると、そう離れてはいない。だが、現在は道路が壊滅状態なのと、倒壊したビルの瓦礫という障害物に阻まれ、それなりの時間がかかる。


 徹夜してまでの調べ物ね。


 内容が気になる。聞いても教えて貰えないのが解っているからこそ、余計に気になるのだ。


「まあ、いいか」


 譲が言わないと言うことは、すぐに直接克己にどうこうという話では無いのだろう。そのあたりは、譲を信頼している。


「てか、こんなに長くESPセクションを留守にするのは初だな」


 たったの二泊三日でも、譲はともかく、克己は初だ。さらに、2人揃って留守と言うのも初である。


「るいと麻里奈はどうしてるんだか」


 女性と子どもだけというのは初の事態だ。

 何事も無く、平和に過ごしていてくれれば良いが。

 そう思いながら、克己はアクセルを踏んだ。

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