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日本再興機関ESPセクション ー虚空を超えてー  作者: 島田小里
第4章 憲人

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12.研究部②

 その後、譲と克己は客室に案内された。まあ、客室とは言っても、簡素なホテルのツインのような物であるが。


「客室なんて、あったんだな」

「今回は、正式に招かれているからな」


 普段は呼び出しがあっても日帰り予定だったりで、神崎の部屋にお邪魔しがちだが、正式に宿泊が必要な依頼があれば、当然宿泊場所や食事は付いて来る。


「食事は研究部の食堂を利用してください。備え付けの設備は使用していただいてかまいません。何か不足があれば、研究部の職員に言ってください。執務室には常時誰かがいますので」

「解った」

「それでは、明日は朝9時からになりますので、よろしくお願いいたします」


 そう言うと、案内してくれた職員は研究部の方へ戻っていった。

 克己は早速、室内を探検する。


「ユニットバスか。洗面は結構狭いな。冷蔵庫付きは高ポイントだぜ。中身は水とお茶とコーヒー、ビールか。あと、お菓子とチーズとハムのパックがあるな、小さいけど」


 と、克己が物色しているのを放置して、譲は片方のベッドに陣取り、ウィンドウを立ち上げた。

 それに克己が呆れたような顔をした。


「おい、先にメシに行こうぜ」

「俺は後で良い。行きたければ先に1人で行ってこい」

「あのなあ……」


 別に1人で行くのに抵抗があるわけではないが、揃って行動すると思っていた克己は肩透かしを食らった気分だ。


「じゃあ、先にシャワー浴びてくるわ」

「ごゆっくり」


 譲はいつもの調子でウィンドウを展開して、本格的に何か作業を始めたようだ。どうせ邪魔をしても怒られるだけなので、克己は大人しくバスルームへ入っていった。

 一方、譲はというと、『真維』を起動して本部のシステムにアクセスしていた。憲人の一件を調べるためである。

 日本再興機関は、現在国内では最大の組織である。他にも組織が無いことは無いが、日本と言えば日本再興機関という程度には名も知れている。戦前の自衛隊や内閣府から発展している過去もあり、現在は勢いこそ無い物の、その情報量や過去の遺物などは相当量を誇る。

 憲人が保護されたのは最近だが、過去同じような実験が行われていたり、実験施設があったりした可能性がある。それを調べるなら、本部のシステムにアクセスするのが手っ取り早いのだ。だが、ただ普通にアクセスすると足がつく。譲も、一応第七シェルター所長兼特殊能力課長なので、当然かなりのアクセス権限は持っている。しかし、その権限でアクセスすれば、誰が何を調べたかが丸わかりだ。それを防ぐために、譲はあえて『真維』を挟み、かつ、通常とは違うアクセス方法をしていた。そして、足跡を消すのも当然忘れず行う。

 通常の操作と違い、プログラムを打ち込んだり、ログを消したりとしていたらいつの間にか集中していたらしい。

 気付けば、とっくにシャワーから出た克己が、呆れた顔で譲を眺めていた。


「お前なあ、そこまで集中して何してるんだよ? 話しかけても気づかねーし」

「大したことはしていない」


 譲は誤魔化すようにウィンドウを閉じて、立ち上がった。


「で、メシだったか?」

「そう。一応待っててやったんだぜ?」

「別に1人で行ってくれても良かったんだぞ」

「……お前ってそーゆーヤツだよな」


 がっくりと肩を落として克己は言った。

 結局2人揃って食堂へ行くことになったのだが、夕食は第七シェルターとは雲泥の差だった。


「前に軍の食堂で食ったときも思ったんだけど、本部は全部この形式なのか?」


 克己が単純に疑問らしく、譲に聞いた。

 克己の言うこの形式とは、壁のパネルにメニューが書いてあり、それを押すと、トレーに乗った温めただけの食事が出てくることをさしている。一応フォローしておくと、飛行機のエコノミークラスのような食事で、サラダやデザートも付いている。ただ、病院の食事よりは、見た目は悪い。味や栄養はともかく。


「本部は基本的に、このタイプだな。位が上になると多少変わるが、配膳方法が代わるだけで内容は大差ない」

「なーんか味気ないな」

「食事なんて、栄養が取れればそれで良いだろ」

「俺は食事は楽しみたいタイプなんだよ。あー、るいざのご飯が食べたいぜ」


 克己はしみじみと、第七シェルターが優遇されていると言われる理由を噛みしめていた。


「それに、緑も無いしな」

「景観に配慮するのは無駄だからな」

「お前が言うか」


 その無駄な部分にこだわりまくった建物が第七シェルターである。


「とりあえず、とっとと食べて部屋に戻るぞ。作業の続きをしたい」


 と、譲が言うのと同時に入り口から白石が入ってきた。


「やあ、譲君に克己君。遅い夕食だね」


 白石はトレーを持って、克己の隣に腰掛けた。


「白石さんはこれから食事?」

「そうなんだ。良かったらご一緒させてもらっていいかな?」

「かまわねーよ」


 克己が言うと同時に、譲は席を立った。


「俺は先に戻っている」


 言うが早いか、譲はさっさとトレーを片付けて食堂を出て行った。

 失礼極まりないその態度に、克己が怒る。


「アイツは~~~」

「はは。いつものことだよ。気にしていないさ」


 白石は何でもない事のように言った。


「それより、今日の克己君の能力は凄かったね」

「そうか? 戦闘にはあんまり使えない能力だけどな」

「いやいや。食料も重要な物資だからね。新鮮かつ容量を気にしなくて良いのはかなりの強みだよ」


 その着眼点は無かったため、克己は素直に驚いた。


「克己君を1人連れて行けば、食料問題が半分位解決するとなると、凄い能力だね」


 にっこり笑った白石の目が、微妙に笑ってない気がして、克己は曖昧に返事を濁した。

 譲が虚偽の申請をしていたのはこういう理由からか……。

 兵器として扱われるだけでなく、補給部隊として便利にこき使われるのはごめんこうむりたいと、克己は思った。


「それより、明日は能力妨害装置の実験をするんだろ?」

「ああ。以前の物は譲君に破壊されてしまったからね。先日明らかにされた能力値と分析を元に、新しく作り直したんだ」

「すげーな。なんか、分析とか、俺には無理だわ」

「慣れてくると面白いものだよ」


 白石が今度は普通に、にこやかに笑う。

 研究部に所属しているだけあって、そういう仕事が好きなのだろう。


「僕からしたら、君たちの能力が羨ましいけどね」

「ESPが?」

「そう。男の子の夢の一つだろ?」

「違いない」


 克己が苦笑した。


「能力の発現のメカニズムはまだ解ってないんだよな?」

「そうだね。どこの国も研究しているが、まだ見つかったという話は聞いていないな」


 白石はそう言うと、一度言葉を区切る。


「だが、水面下ではどうか分からないね。もし見つかったとしたら、ESP部隊が作れるだろうから、公表なんかしないで、それこそ世界征服をするだろう」

「怖」


 水面下で能力者が量産され、ある日突然現れたらと考えるだけでも、恐ろしい。


「そう言えば、るいざさんと麻里奈さんは元気かい?」

「ああ。元気だよ」

「それは良かった」


 そこからはお互いの近況を話す雑談になった。能力と権力が絡まなければ、白石は気の良い男なのである。






 食事も終わり、世間話も散々して、克己が部屋に戻ったとき、珍しく譲は頭を抱えていた。


「どうした?」


 目をパチクリさせながら克己が聞くと、譲は大きなため息を吐いた。


「やっちまった」

「何を?」

「システムの掌握……」

「……参考までに聞くけど、どこの?」

「……本部の」


 さすがに言いにくそうに譲が言った。


「まさかこんなに簡単なシステムだと思っていなかったんだ」

「簡単て」

「調べ物をしてるうちに、ついうっかり」

「ついうっかりで掌握できるもんなの!?」

「手が滑って……」

「いやいや」


 いくら譲がコンピューター関係のエキスパートと言えど、相手は一応日再の本部のシステムだ。言わば日本の要である。

 そのシステムだ。いくら古くても、そんな簡単なものでは無いはずだ。それをついうっかりで掌握とは。


「まあ、掌握してしまったものは仕方ない。バレないように『真維』の傘下に入れておこう」

「それどうなんだよ」

「じゃあ、正直に言うのか?」

「それは……まあ、バレないようにするけどさ」

「バレなきゃ問題はない。よし、ついでに色々弄っておこう」

「おいおい……」


 信じられない言葉が色々聞こえた気がするが、こうと決めた譲を止められるわけもなく、ついでに止める理由もなく、克己は呆れて冷蔵庫のビールとチーズを取り出した。

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