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日本再興機関ESPセクション ー虚空を超えてー  作者: 島田小里
第4章 憲人

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5.車上にて

「いや~、遅くなっちゃってすみませんでした」


 そう謝りながら、浩和は暗闇の中を危なげのない手付きで車を運転する。

 浩和も含めた5人+1人で夕食を食べ、話に花を咲かせた後の本部行きである。

 助手席に座りながら、譲は愛想も無く答えた。


「かまわない。どうせアポなしだからな」


 その言葉に、浩和が驚く。


「え、アポなしなんですか?」

「ああ」

「ちなみに、どなたに会う予定なんですか? あ、差し支えなければで構わないですけど」

「菖蒲海軍大将と一條防衛官長だな」

「え!? あの人たち相手にアポなしっすか!?」

「何か問題でもあるか?」


 全く気にしていない様子の譲に、浩和がたじろぐ。


「問題は無いですけど、随分、位の高い人たちなんで驚いたって言うか」

「ああ。気にしたことが無かったな」


 これは、ESPセクションを束ねるだけの事はあると、浩和は深呼吸する。

 そんな浩和を横目に、譲はのんびり夜空を見上げながら言った。


「それに、菖蒲海軍大将には、アポを取ったら断られそうだからな」

「あ~……。それはそうかもですね」


 浩和は後部座席に積んである荷物をチラリと見て言った。


「殉職って、やっぱり多いんですか?」


 麻里奈がESPセクションに所属しているからか、やはり浩和も気になるのだろう。


「俺も日再に来て長い訳じゃないが、多少はあるな。だが、最近はどちらかというとウイルスの影響で死亡の方が多い印象だ」

「30歳を越えると致死率が跳ね上がるってアレですね」


 その影響で、日本のみならず世界的に軍部の層が薄く、本格的な戦闘が起こりにくくなっている。皮肉な話である。


「譲さんから見て、麻里奈ってどうですか?」

「どうとは?」


 余りに漠然としすぎていたため、譲が聞き返すと、浩和は困ったように続けた。


「うーん。戦闘力っていうか、生き延びそうかな?って」


 家族として純粋に、心配しているのだろう。


「保障はできない。が、俺個人の見解からすれば、麻里奈は生き延びるだろうな。何があってもしぶとく」


 その言い草に、浩和が吹き出した。


「確かにしぶといですもんね」


 クスクス笑いながら前を見る浩和は、もう心配してはいないようだった。

 譲は、家族に心配かけるようではいけないなと、自分の仕事を改めて自覚し、反省する。

 部下を殉職させてしまったことも、譲の判断ミスだし、その後の課員のフォローも譲の仕事であるのに、まともにこなしてはいない。

 幸い、ESPセクションに所属しているメンバーは自力で何とか出来る人間ばかりだから良かったが、家族までは考えもしなかった。

 何より譲自身に余裕が無かった。


 いい加減、トラウマを乗り越えなくてはいけないな。


 そう思い、小さく溜め息を吐く。

 そう簡単に乗り越えられるようならトラウマになどなってはいないし、そもそもこの仕事を引き受けてはいない。


「そう言えば、今日初めて見たんですけど、真維さんって可愛いですね」


 思いに耽っていたところで、見透かしたような浩和のセリフに、譲は思わず浩和を見た。

 が、浩和に深い意味は無かったようで、固まってしまった譲に首を傾げた。


「俺、何か変なこと言いました?」

「いや……、少し物思いに耽っていたから驚いただけだ」

「じゃあ、邪魔しちゃいましたね。すみません」

「かまわない。農場で真維を見たのか?」

「はい。農場の設計について説明してくれました。中央のサイロが支柱になっているとか」

「ああ。さすがに規模が規模だからな。かといって、柱を建てるのも景観が損なわれるし」

「地下シェルターを造るのに、景観を配慮しているところが、第七シェルターの凄いところですよね」

「本部みたいな、いかにもなシェルターで暮らしたくはないだろ?」

「それはまあ、そうですけど」

「北海道は、普段はシェルター暮らしか?」

「そうですね。生活の基盤はどうしても地下になります。でも、今は地上にも家があって、そっちで暮らしている人も居ますよ。少数ですけど」

「畑は地上なんだろ?」

「そうです」

「地上に出られるようになるまではどうしていたんだ?」

「地下の研究所みたいなところで、主に水耕栽培でしたね。人工肉と余り変わらないです」

「それでも成り立つのが、現代の技術の凄いところだな」


 感心したように言った譲に、浩和は言った。


「でもやっぱり、味は全然違います。それに、畑の方が手のかけがいがありますよ」


 どことなく嬉しそうな、誇らしげな浩和の言葉に、譲は少し驚いて、小さく微笑んだ。


「そうか」

「はい!」


 そこからは、浩和の北海道での暮らしや畑について聞きながら、夜のドライブを楽しんだ。農業については譲は知識がほぼ無いため、浩和の話は興味深く、かつ、彼の人柄か、明るく楽しい話が多く、本部までの道のりは普段より短く感じた。


「ここで大丈夫ですか?」


 浩和が所定の駐車場に車を止め、譲に聞いた。


「ああ。助かった。ありがとう」

「荷物とかは、どうするんですか? 運ぶの手伝いましょうか?」

「いや、PKで運ぶから問題無い」


 車から千鳥の荷物が意志を持っているように、譲のまわりに飛んでいく。

 それを驚いた顔で見て、浩和は納得したようだった。


「それじゃ、俺は報告があるんでここで失礼します」

「ああ。また」

「はい! また!」


 そう言うと、浩和は手を振りながら廊下を歩いていった。


「さて、と」


 譲はというと、さすがにこの遅い時間に人を訪ねるほど非常識ではないため、いつも通りの泊まり先へお邪魔しようと、荷物を運びながら神崎の部屋へと足を向けた。

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