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日本再興機関ESPセクション ー虚空を超えてー  作者: 島田小里
第4章 憲人

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4.母親の資格

 譲が千鳥の部屋のドアを開けると、リビングにるいざの姿はなかった。

 電気がついているので、部屋のどこかには居ると思われるが。


「るいざ?」


 呼び掛けると、寝室からるいざが顔を出した。


「譲? どうしたの?」

「いや、荷物が多いなら手伝おうかと思って」

「そうなのね。でも、荷物はそんなに多くないわ。ただ、扱いに困るものが少しあったから、ちょうど良かったわ」

「扱いに困るもの?」


 るいざはリビングの一角を指差した。

 そこには通信機とタブレットやメモリスティックらしきものが乱雑に置かれている。


「機密っぽいから、私が見て良いかもわからなくて」

「なるほど。それじゃ、こっちは俺が見る。それより、そろそろ寝なくて良いのか?」

「うーん。もう少しだけ。キリが良いところまでやっちゃいたい」

「そうか。無理はするなよ」

「うん。ありがとう」


 そう言うと、るいざは寝室に消えて行った。

 譲はるいざが示したリビングの一角へ行き、タブレットを起動する。現在は液晶ディスプレイは少数派で、主流は投影方式だ。おそらく、菖蒲海軍大将の持ち物だろう。そして、中を見ると、譲の履歴書のコピーや、特殊能力課の内部資料が入っていた。これは軍でもかなり上層部の人間しか、閲覧権限が無いもののはずだ。おそらく、菖蒲海軍大将に持たされたのだろう。千鳥自身に、価値は解ってなかっただろうが。

 通信機も含め、この一角にあるものは、あってはならないものばかりだ。

 譲はそのまま返却することも考えたが、結局少し考え、全てひとまとめにして、シールドの中に突っ込み、燃やしてしまう事にした。


「シールド展開。……発火!」


 シールドの内部が勢い良く燃え、部屋が赤く染まる。そして、灰も残らず消えた。

 と、またるいざが寝室から顔を出した。


「何か今、光らなかった?」

「ああ、少しな」


 るいざは不審気な顔をしたが、特にそれ以上は聞いてこなかった。


「他は服なんかの私物だけか?」

「うん。多分、元々物が少なかったみたい。寝室ももう片付くわ」

「軍の部屋も広い訳じゃないしな」


 親子で軍の一室で暮らしていたのだろうから、私物は元から少なかったのだろう。


「念のため、明日もう一度確認するけど、今日はもう終わりにするわ」


 るいざはそう言って、寝室から出てきた。


「そうしろ。明日はどうせオフだ」

「あら、そうなのね」

「このところ、色々あったからな」


 譲が部屋のドアを開け、るいざを通す。そして、念のために戸締まりをして、2人はお互いの自室へと帰っていった。






 翌日、るいざが朝食の用意をしようとテラスに行くと、そこには既に麻里奈が居た。


「おはよう、麻里奈。もしかして、私、寝過ごした?」

「おはよー、るいざ。ううん、私が早く目が覚めちゃっただけよ」


 そう言う麻里奈は寝不足のようで、不機嫌そうな顔をしている。


「何かあったの?」

「うーん。あったっていうか、なんて言うか……」


 そう言うと、麻里奈は昨日、譲に言われた憲人の寿命の事を話した。

 が、るいざは驚かず、言った。


「私、てっきり麻里奈はすぐ気が付くかと思っていたわ」

「って、るいざは気付いたの?」

「気付いたっていうか、成長が早いって事はそう言うことだろうとは、なんとなーく感じたわ」

「そうなんだ……」


 母親になると、大口をたたいておいて、麻里奈が一番考えが足りてなかった事実に、麻里奈は打ちひしがれる。


「こんなんじゃ母親失格だわ……」


 しょんぼりして言った麻里奈に、るいざが言った。


「そもそも母親になるのに資格なんか無いんだから、一緒に成長していけばいいのよ。麻里奈は憲人を好きなんだから、それで十分だと思うしね」

「一緒に成長……か」


 麻里奈は、腕に抱いていた憲人をじっと見る。すると、憲人も麻里奈をじっと見た。


「そうよね。始めから何でも出来る母親なんていないものね!」


 麻里奈は憲人をソファーに下ろすと、勢い良く立ち上がった。


「やっぱり私、憲人を育てたい! こんなに可愛いんだもの。一緒に居たいし、一緒に成長していきたいわ! 寿命がもしも短いとしても、最終的には、多分私たちと同じくらいになるはずだもの! 誤差よね!」

「誤差……かなぁ?」


 困ったようにるいざが笑うが、麻里奈はもう決めたようだった。

 そして、憲人を再び抱っこすると、くるくると回った後、再びソファーに座った。


「そう言えば、離乳食を始めた方が良いって譲に言われたの」


 唐突に話題が変わって、るいざがきょとんとする。


「そう言えば、そんな事言ってたわね」

「作り方とか教えて欲しいわ」

「良いわよ、任せて」


 頼もしいるいざの返答に、麻里奈はにっこりと笑った。






 翌日、午後になって、日再の職員がESPセクションを訪れた。

 来客を示すチャイムに、譲がウィンドウを開き確認すると、そこに居たのはまさかの柚木浩和だった。

 譲の隣でウィンドウを覗き込んでいた克己が、麻里奈に言った。


「おい、麻里奈。弟が来たぞ」

「え、また?」


 麻里奈は驚いた顔をして、立ち上がる。


「こんなに頻繁にこっちに来るなんて。お説教しないとだわ!」


 2人のやり取りは無視して、エレベーターに乗ろうとしていた譲に、慌てて追い付いて麻里奈もエレベーターに乗り込む。

 そして、ゲートフロアで浩和と会った途端に怒鳴りつける。


「浩和! こんなに頻繁にこっちに来るなんてどういう事!? 北海道はちゃんとやってるんでしょうね!?」

「やってる! 日再から技術者や生産者が派遣されて来ているから、俺が居なくても問題無いよ!」

「それなら良いけど、それを良いことにほったらかしにしないでよ!?」

「しないよ! ちゃんと現場責任者として、確認やチェックはしてる! 俺にとっても、あの農場は大切なんだから!」


 その言葉に、ようやく麻里奈は納得したようだった。


「それなら良いのよ」


 やっと静かになった麻里奈に、浩和がはたと役目を思い出す。


「ご挨拶が遅れました! 日再の柚木浩和です。今日は報告書を取りに来ました」

「ああ、敬語はいらない。ここでは特に取り繕わなくて良い」

「流石にそれはちょっと」

「そうか? まあ、好きな口調で構わない。で、報告書の他に荷物の運搬と、ついでに帰りに、俺を本部まで連れて行って欲しい」

「わかりました」


 浩和は了承の返事をすると、譲に聞いた。


「ところで、その、ここの農場をもう一度見せてもらっても良いですか?」

「目的はそれか。かまわない。好きなだけ見ていくと良い」


 わざわざデータの報告書を取りに来るのだから、何かあると思ったが、裏のない理由に気が抜ける。


「麻里奈、案内を頼めるか?」

「憲人をるいざにお願いしてからなら、いいわよ」

「どうせ通り道だ。寄り道にもならないだろ」


 3人はエレベーターに乗ってテラスへ行くと、そこで麻里奈はるいざに憲人を預け、浩和と2人で農場へと歩いていった。


「なあ、るいざ。俺にも抱っこさせて」


 克己が、憲人に手を伸ばす。その手に憲人を預け、るいざは少し考えた。


「夕ご飯は5人分かしらね?」

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