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日本再興機関ESPセクション ー虚空を超えてー  作者: 島田小里
第4章 憲人

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3.寿命について

 ふと、思い出したように譲がるいざを見た。


「そう言えば、るいざに頼みがあるんだが」

「なに? 改まって」

「千鳥の荷物を纏めて貰えないか? 俺がしても良いんだが、さすがに悪い気がしてな」

「ああ……。うん、解ったわ。急ぐ?」


 気が進まない仕事に、るいざが聞くと、譲はメールを確認して答えた。


「出来れば明後日には運びたい」

「また急だな」


 克己が驚く。


「その日に日再の人間が、報告書を取りに来るんだ。ついでに俺も菖蒲海軍大将に会わないといけないしな。それで本部に行くなら、その時に渡せたら渡したい」

「わかったわ。でも分別は適当になっちゃうかも」

「余り考えずにやってくれ。と言っても無理かもしれないが。入れ物なんかは、千鳥が持ってきたのが部屋にそのままあるはずだ」


 克己が心配そうにるいざを見る。


「手伝ってやりたいのは山々だけど、さすがに俺も男だからな。手伝えそうなら言ってくれれば手伝うから」

「ありがと、克己。でも多分大丈夫よ。病院でも何度かこういう事あったしね」

「でも、慣れるもんじゃないだろ?」

「それは、まあ、そうだけど……」


 慣れはしない。けれど、さすがに男性陣に任せるのは気が引ける。るいざは気持ちを切り替えて、夕食が終わったらどんな状況か、見るだけ見ておこうと予定を決めた。

 少し湿っぽくなった空気を払うように、克己は譲に聞いた。


「日再は、今度は誰が来るんだ? もしかしてまた浩和が来たりしてな?」

「そう度々来ることは無いと思うがな」


 譲も、誰が来るかまでは把握していないようで、そう言った。と言っても、譲の場合、たまにメールを見落としていたり読み飛ばしていたりするので、イマイチ信用が置けないが。


「じゃあ、そろそろ私は夕食の準備をするわね」

「今日の夕食は何?」


 席を立ったるいざに、克己が聞いた。


「豚しゃぶサラダと、アサリとキノコの和風パスタか、ナスとベーコンのトマトソースのパスタ、野菜たっぷりコンソメスープ、それとティラミスよ」

「うまそう!」

「作るのはこれからだけどね」

「俺、パスタは両方食べたい!」

「わかってるわよ」

「やった!」


 克己は体格が良いのと運動量が多いため、たいていは2人分以上食べる。選択肢がある時は両方食べることが多い。好き嫌いは無いようだ。一方、譲は好き嫌いが多少ある。食事の選択肢は、譲の為にあるようなものだ。

 るいざは自分の飲んでいたカップを持つと、キッチンへ向かった。






 夕食後、るいざが千鳥の部屋へ向かった時間、今度は麻里奈へ健康診断の結果が伝えられた。


「栄養状態以外、異常無し。予防接種なんかの基本的な抗体はすでに持っている。薬物関係はオールクリア」

「問題なしってことね!」

「そうなるな」

「じゃあ、成長速度の話は?」

「今は恐らく1歳ちょうどくらいの年齢だ。で、真維の予測では成長速度は普通の子供と比較して、約5倍~10倍だそうだ。これは、身体だけでなく、脳やその他全てに当てはまる」

「随分誤差が大きいのね」

「そのくらいの子どもは、そもそも成長具合に差が大きいからな。それと、正確な月齢が解らないのも大きい」


 麻里奈は抱いていた憲人を見た。


「成長が早いんだって」


 言っても解らないだろうが、言って聞かせている。


「じゃあ、すぐに大きくなっちゃうのか~」

「そうなるな」


 譲は淡々と話を続ける。


「知能面だけでなく、精神面でのケアも注意した方が良い。ここは大人しか居ないから、比較することはなくて良いがな」

「可愛い時期がすぐ過ぎちゃうのは残念よね」

「……でだ、麻里奈が希望するなら遺伝子工学専門の研究所に憲人を預けることも出来……」

「ゼッタイヤダ!」

「言うと思った」


 克己がやれやれと言った。


「そんな所に連れて行ったら、それこそ実験動物みたいに扱われるのがオチじゃない! 絶対いやよ!」

「わかった。無理にじゃないし、一つの案だ。ただ、そうなると、成長速度が早い理由が不明のままになる」

「それだと何か問題があるの?」

「問題というか、成長速度が早いのがずっとなのか、ある時止まるのかも解らないことになる」


 譲の言葉に、麻里奈は驚いた顔をした。


「そっか。止まる可能性もあるのね」

「それから、これが一番重要なんだが」


 そこで譲は一旦言葉を切った。


「成長速度がこのまま早い場合、寿命はそれに応じて短い可能性が高い」

「え……」

「仮に10倍だとすると、今のウイルスが蔓延しているこの世界では、憲人は三年しか生きられないかもしれないんだ」


 考えていなかった事実に、麻里奈は呆然としてしまう。

 言われてみればそうだ。成長が早いと言うことは、老いるのも早いと言うことだ。都合良く途中で成長が人並みになれば良いが、そうなるとは限らない。仮に成長がどこかで緩やかになったとしても、今現在、早いのは事実で、つまりそれだけ憲人にとっての1日1日は重みがあると言うことだ。


「それを解った上で、憲人の身の振り方を考えてやれ」


 譲の言葉が、麻里奈に重くのしかかる。

 遺伝子工学研究所に行けば、もしかしたら原因が解って、憲人はもっと生きられるかもしれない。けれど、おそらく待遇は実験動物としてだろう。

 逆にここにいれば、任務の時は留守番になってしまうが、普通の子どもと同じように接してあげられる。

 憲人の幸せのためにはどちらが良いか?

ぐるぐる考え始めてしまった麻里奈に、譲が言った。


「すぐ決めなければいけない問題でもないし、ゆっくり考えたらどうだ? 当面は真維がサポートするし、るいざもいるしな」

「……うん。ちょっと、しっかり考える」


 麻里奈は憲人を抱っこし直すと、とぼとぼと自分の部屋の方へ歩いていった。

 それを見送って、克己が言った。


「なるほどなぁ。確かに成長速度が早いって事はそういう事だよな」

「ああ」


 譲は椅子から立ち上がって、説明のために開いていたウィンドウを消した。


「いい感じの年齢で止まれば良いんだけどな」

「ああ」

「って、どこか行くのか?」


 歩き始めた譲に克己が問う。


「一応、るいざの様子を見てくる。荷物が多いなら手伝わないとだしな」

「ああ。じゃ、おれはジョギングしてくるかな」

「気を付けろよ」

「Thanks。じゃ、おやすみ」

「ああ、おやすみ」

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