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日本再興機関ESPセクション ー虚空を超えてー  作者: 島田小里
第4章 憲人

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2.検査結果

 憲人の健康診断を終えた麻里奈は、今日は珍しく、憲人を連れて農場に来ていた。


『いらっしゃい!』

「こんにちは、女将さん。また服を作って欲しいんだけど、良いかしら?」

『もちろんさ! 今日は誰の服だい?』

「この子の服を、少し大きめに三着くらいお願いしたいわ」

『三着じゃ、直ぐに足りなくなるよ。もう少し作った方が良いね』

「そうなのね。じゃあ、お願いするわ」

『採寸は今しても良いかい?』

「ええ」

『じゃあ、脇の下を持ってこっちに全身を見せておくれ』

「こう?」


 麻里奈が言われた通りに、憲人の脇の下を持って女将さんに全身を見せる。服は着たままだが、これはいつものことなので気にしない。すると、女将さんは上から下までじっと見て、にこっと笑った。


『もういいよ。採寸は出来たから、好きなデザインがあれば教えておくれ』

「憲人に似合う服か~。どれもかわいくて似合っちゃいそうだから悩むわね」

『なら、紅茶でも淹れようか? この間のクッキーもまだ残っているよ』

「わあ! 嬉しい!」

『その子にも何か作ろうか。ちょっと待ってておくれ』

「お願いしまーす」


 そう言うと、麻里奈は本格的にカタログを見始めた。






 一方、医務室に居た譲と克己は、後は真維の解析待ちになったので、後片付けをしていた。


「そう言えば、憲人、泣かなかったな」


 克己の言葉に、譲が頷く。


「大人しくて助かったな。少し大人しすぎる気もするが」

「それって、障害がある可能性があったりする?」

「それもあることはあるが、どちらかと言えば早熟じゃないかと思う」

「身体の成長速度だけじゃなく、精神の成熟具合も早いって?」

「あくまでも可能性の話だがな」


 譲は使った器具を、医療用ゴミと普通の分別とに分けて捨てている。


「そーいや、子どもの採血って注射じゃないんだな」

「血管が細いし、下手に採ったら出血死するぞ」

「確かに」

「それに、血管に刺すのはしばらくやっていないから不安だしな」


 譲の言葉に、克己が驚く。


「なんだ?」

「いや、お前でも不安な事があるんだな」

「だから、お前は俺を何だと思ってるんだ……。今日の健康診断だって、初めての事だらけだったぞ」

「マジで? そのわりに迷い無い手付きだったけど」

「子どもはそういう感情に敏感だしな。あとは、覚悟が出来ているかどうかじゃないか?」

「覚悟……ね」


 ゴミの分別が終わると、使用した器具を纏めて本部行きの箱に纏め、医療用手袋を外して譲は手洗いをした。


「お前も念の為に、手洗いしておけ」

「ああ」


 言われるがまま、克己も手を洗う。


「お前はこの後どうするんだ?」

「そうだな。中途半端な時間だな」


 そろそろ4時になろうと言う頃。食事には早いし、何かするほどの時間は無い。


「テラスで報告書でも書くか」

「まだ書いて無かったのか」

「SSSblueの件と、創平の件と、2つだからな。その後、憲人の健康診断だったし」

「創平の件も報告書が要るのか?」

「そりゃ、技術者派遣の受け入れだ。必要に決まってるだろ」

「それもそうか。じゃ、おれもテラスでまったりするかな」






 2人がテラスに行くと、そこではるいざが、はじめとお茶をしていた。


「おかえり」

「おかえりなさーい」

「お茶飲む?」

「頼む」

「あ、るい。俺も」

「はーい。ちょっと待ってね」


 譲はいつもの場所に座ると、早速ウィンドウを開き始めた。

 報告書を書くと言っても、基本的には真維が書いているため、譲は最後の調節くらいしかする事は無いと、克己は思っている。

 ウィンドウが多いのは、憲人の分析の分だろう。


「そう言えば、憲人くんの結果はどうだったの?」


 はじめが譲の背後から抱きついて聞いた。


「栄養状態以外は、今のところ特に異常無しですね」

「そうなんだ。成長は早かったの?」

「今、ちょうど1歳くらいです。ただ、原因はまだ調べ中ですね」

「って、はじめさん! なに譲に抱きついてるの!?」


 お茶を持ってきたるいざが、慌てる。


「えー? るいざにもいつもしてるじゃない」

「私は良いけど、譲はダメでしょ!?」


 慌てるるいざとは対照的に、はじめはのんびりと譲に聞いた。


「譲君はダメなの?」

「別に」

「オッケーだって!」

「はじめさんの節操無し!」


 るいざは怒りながらも、お茶は静かに置いた。


「Thanks」


 克己は礼を言ってから、紅茶を一口飲んだ。


「ベリーティー?」

「そうなの。美味しいでしょ?」

「うん。良いね」


 ついでにと、るいざが持ってきたクッキーに手を伸ばす。

 譲はと言うと、礼も言わずに静かに紅茶を飲んでいる。

 それを気にすることもなく、るいざが椅子に腰掛けると、はじめはるいざの後ろに戻ってきた。


「隠れなくても大丈夫になった途端、はじめさんはやりたい放題して」


 るいざがぶつぶつと文句を言っているが、はじめはどこ吹く風でのんびり宙をたゆたっている。


「だってここ、居心地良いんだもーん」

「それは同意」


 克己が頷く。

 地下シェルターだとは思えない施設もそうだが、何と言っても人間関係が良い。

 ふと、千鳥の事を思い出してしまい、克己の表情が曇る。

 そう思ったのはるいざもらしく、同じような表情をしていた。

 譲はそんな2人の様子を横目で見、またウィンドウへ視線を戻した。

 と、いくつか溜まっていた報告案件タスクに、新規に一件が追加される。


「これ、憲人の?」

「ああ」


 報告書の手直しをしていた手を止め、譲が報告を開いていく。


「特に異常は無いな。それと、やっぱり抗体は持っているようだ」

「抗体を持っているって?」


 るいざが聞くと、譲が言った。


「普通、予防接種やワクチン接種で出来る抗体を、予め持っているんだ」

「親が接種させたんじゃなくて?」

「この月齢ではまだのものもある」

「それって……」

「何らかの、人為的なモノだろうな」

「でもさ、成長促進剤なんかは使われてないんだろ?」

「ああ。薬物関係はオールクリアだ。だから逆に、怪しいんだが……」


 言いよどむ譲に、るいざが言葉を続けた。


「専門じゃないから、詳しくはわからないって事ね」

「そう言うことだ。真維が解らなければ、お手上げだな」

「譲君がお手上げなんて、珍しいわね」

「だな」

「だから人を何だと……。つーか、遺伝子やDNA関係はそもそもまだ解明されてない部分が多いんだ。専門家でもお手上げだろうよ」

「そこまで調べてるのね」


 るいざが感心する。


「まあ、ついでだからな」


 譲がそう言ったとき、ちょうど真維の報告案件がまた1つあがってきた。

 譲はそれを開くと、ため息を吐いた。


「どうやら『真維』にも解らないらしい。ただ、成長速度はおよそ5~10倍で、身体のみならず脳や知性も同様と思われるそうだ」

「5~10って、結構幅があるのな」

「データが少ないからな。こればかりは仕方ない」


 譲は報告ウィンドウを消して、クッキーを摘まむ。


「一口に成長速度が早いと言っても、弊害もあるから、育てにくい子どもで有ることだけは確かだな」

「成長速度に合わせた、精神面の成長を促さないとなのか」


 譲の言葉に、克己が言うと、るいざは呆れたような顔をした。


「そんなの、真維が居るから何とかなるし、そもそも育てやすい子なんて居ないわよ。どの子も、たった1人しか居ないし、特別だもの」


 その言葉に、譲と克己は顔を見合わせた。

 そして、笑った。


「確かに」

「その通りだな」


 そう考えると、憲人がESPセクションに来たのは運命だったのかもしれない。

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