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日本再興機関ESPセクション ー虚空を超えてー  作者: 島田小里
第3章 菖蒲千鳥

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45.創平の帰還

 翌日、朝食を作るために、るいざはまだ眠い目をこすりながら、キッチンに立った。

 昨日の出来事を思い出す度、涙が出そうになるが、泣いてばかりもいられない。

 それに、自分より譲の方が心配だから、まだ自分を保っていられる部分もあった。

 と、カウンターから聞き慣れた声がかけられた。


「おはよ、るい」

「おはよう、克己。今日もジョギング?」

「ああ。良く眠れなくてさ」


 おどけて言ってはいるが、気持ちはみんな同じらしい。


「ところで、今日の朝食は何?」

「和食にしようかと思ってるんだけど、具体的にはまだ決まってないわよ」

「和食なら、豚汁とかカボチャの煮物が食いたいな」

「カボチャならちょうど、農場からの差し入れがあるから出来るわよ」

「やった!」

「後はお魚を焼いて、葉物を片しちゃおうかしら」

「俺はもう少し走ってくるよ」

「気を付けてね」

「おう!」


 走っていく克己を見送ると、るいざは早速、米を研ぎ出した。

 そうして、るいざが慌ただしく朝食の支度をして、テーブルを拭こうと思いそちらを見た瞬間、誰も居ないと思っていたテラスに譲が座っていて、るいざは驚いて息を呑んだ。


「……どうした?」

「びっくりしたあ……」


 いつの間に、そしていつからそこに居たのか。全然気付かなかった。

 るいざは気を取り直すと、譲に話しかけた。


「コーヒー飲む? 朝食は和食だけど」

「飲む」


 そう答える譲は、昨日の様子が嘘のようにいつも通りだ。

 るいざはテーブルを拭くと、コーヒーを淹れて譲の前に置いた。


「Thanks」

「どういたしまして。何してたの?」


 譲が1人で、ウィンドウも開かずにぼんやりしているなんて珍しい。


「特に、何も」

「そう」


 やっぱり少しはおかしいかも。

 そう思いながら、るいざはキッチンへと戻り、料理の続きを始めた。

 しばらくすると、譲はウィンドウをいくつか開いて何やら作業をしている。と、そこにシャワーを浴びた克己が戻ってきた。


「お、譲。おはよー」

「おはよう」

「何してんの?」

「昨日の報告書を纏めている」

「ああ」


 克己は少しだけしまったという顔をしたが、譲は特に気にした様子もなく、作業を続けている。


「そういや、西塔が帰るのって今日だよな?」

「ああ」

「時間は?」

「……そう言えば聞いてないな。後で聞いておく」

「相変わらず、ざっくりしてんな、お前」

「興味が無いからな」


 とてもそうは見えないが、そう言うことらしい。

 と、るいざが克己を呼んだ。


「克己、料理運ぶの手伝って」

「はいはい」


 2人が出来上がった料理を運んでいると、憲人を抱っこした麻里奈と創平が、一緒に歩いてきた。


「おっはよー!」

「おはよう」

「はよ」

「おはよう」


 克己が皿を持ちながら、不思議そうに聞いた。


「何で一緒に来たわけ?」

「だって創平ちゃん、もう直ぐ帰っちゃうでしょ? だから少しでも長く会いたくて、部屋まで迎えに行っちゃった」

「ああ、そう……」


 語尾にハートマークが見える気がする。

 と、いつものようにソファー側の席に座った創平に、譲が聞いた。


「アンタは何時に帰るんだ?」

「10時頃かな」

「えー!? そんなに早いの?」


 麻里奈が、不服そうな声を上げた。

 それに、済まなそうに創平が答える。


「本部で報告をしてから、ドイツに立たないといけなくてね。麻里奈とまた会えなくなるのは寂しいけれど、これも仕事だからね」

「そっか。じゃあ、一緒にご飯を食べるのも、これでしばらく出来なくなるのね」

「そうなるね。だから、朝食が和食なのは嬉しいよ。ありがとう、るいざさん」

「い、いえ……」

「別にお前のためじゃないけどな」


 ボソッと付け足された克己の言葉は、スルーされた。

 そうして、いつもの朝食が始まった。

 いつもと違うのは、1人足りない事だけだ。


「そう言えば、創平ちゃん。この後は荷造り?」

「いや、荷造りはほぼ終わっているから、もう少し『真維』について、譲にレクチャーを受けようかと思っている」

「もう。仕事も大事だけど、息抜きも大事だからね」

「解っているよ。ただ、ここを出たらこんなチャンスは中々無いからね。せっかくの機会を大切にしたいんだ」


 そう言って創平は、麻里奈の頭を撫でた。

 麻里奈はまんざらでもない顔をして、ため息をついた。


「そーゆー、仕事熱心なところも好きだから仕方ないけど。でも、ちょっとは寂しいからまた来てね」

「ああ、必ず」


 克己とるいざを放置して、何やら物騒な約束がされている。

 克己が小さな声で譲に聞く。


「おい、あれ、ほっといて良いのか?」

「約束だけなら勝手にすればいいんじゃないか?」

「でも、なんだか本当にすぐに来そうな気がして……」


 るいざの言葉に、譲はいつも通りの無表情で言った。


「まあ、真維のシステムが解析出来るまでは来るんじゃないか?」

「げ。もうシステム全部教えちまえよ」

「やなこった。そんな事をしたら、世界中がパニックになるぞ」

「お前はどんなシステムを組んでんだよ!」


 しれっと豆腐とワカメの味噌汁を飲みながら言われた言葉に、克己が突っ込む。


「情報も立派な兵器なんだ。そう簡単に手の内を全部晒せはしないな」

「それはそうだけどさ」


 その後、コンピュータールームに行くかと思っていた2人は、そのままテラスで『真維』のシステムについて話し始めた。

 克己が一応参加して話を聞いてはいるが、専門用語が多く、ついていけない。

 るいざは朝食の片付けが終わると、他の家事をしようとさっさと部屋に戻ってしまった。

 麻里奈は創平の近くにソファーを移動して、憲人をあやして遊んでいる。

 そうこうしているうちに、あっと言う間に10時になった。


「名残惜しいけれど、そろそろ行くよ」

「ああ」

「創平ちゃん、また来てね」


 一応見送りには全員が揃った。

 ゲートフロアの車庫へ向かう通路へ創平は歩いて行くが、途中で振り向いた。


「譲君。菖蒲海軍大将へ何か伝言はあるかい?」


 今日、誰も触れなかった話題に思い切り触れた創平に、克己が抗議しかけて譲に止められた。

 譲は落ち着いていた。


「今度、直接謝罪に伺うから、特に伝言は無い」

「そうか。それじゃ、短い間だったけど世話になったね」

「またねー!」


 そう言うと、創平は車庫へと歩いていった。

 しばらく経つと、真維が、車が外に出た旨を報告してくれた。

 克己はやれやれと大きく息を吐いた。


「これでやっと日常に戻れるな」

「ちょっと寂しいけどね」


 麻里奈の言葉に克己が突っ込む。


「それはお前だけだと思うぞ」

「そんなことないわよ。ね、憲人」


 抱かれている憲人は何のことか解っていないだろうが、少なくとも肯定は示していないように見える。


「とりあえず、戻りましょうか」


 るいざの言葉に4人はエレベーターに乗り込む。

 と、譲が怪訝そうな顔をした。


「どうかしたのか?」


 克己が聞くと、譲は少し考えるような顔をして言った。


「麻里奈。その子ども、大きくなってないか?」

「あ、やっぱり? 子どもって凄いわよね。すぐに大きくなっちゃって」

「いや、そうじゃなくて……」


 エレベーターがテラスに着き、降りると同時に、譲は真維を呼び出した。

 そして何事か話している。

 るいざと克己は憲人を改めて見るが、2人とも毎日見ているせいで変化が良く解らない。

 と、真維と話し終わった譲が言った。


「一度、しっかり調べないと解らないが、その子どもは普通よりも早い速度で成長している可能性が高い」

「え、それって、成長促進剤とかそういう?」

「それは調べてみないとわからない。が、とりあえず普通より早いことだけは確かだな」


 どうやらESPセクションの平和な日常は、まだ訪れないらしい。

千鳥編、最終話になります!

読んでくださりありがとうございます。

次から新章始まります。

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