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日本再興機関ESPセクション ー虚空を超えてー  作者: 島田小里
第3章 菖蒲千鳥

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42.緊急任務①

 朝食の席で、唐突に譲が言った。


「そう言えば、今日、緊急任務が入ったから」

「あら、そうなのね。今度の相手はどこなの?」


 るいざが全く緊張感の無い口調で、トーストを食べながら聞く。

 今日の朝食は、トーストorリゾット、ミネストローネ、シーザーサラダ、スクランブルエッグ、ウィンナー、希望者にはチキンソテー(タルタルソース付)に、デザートでティラミスが付いている。

 譲はチキンを食べながら、ウィンドウを開いた。


「相手はお馴染みのSSSblue。ただ、今回は総力戦の予想だ。向こうも戦力を大半捕らえられて、なりふり構っていられないようだ」

「そういえばこの間の陽動も、結局SSSblueだったんだろ?」


 克己が思い出したように言う。


「そうだ。そいつらから情報がようやく引き出せたらしいな」


 譲がウィンドウに地図を表示する。


「今回は軍部との共同戦線になる。主に軍部が最終ライン防衛で、俺たちが相手に突っ込む。場所は品川付近を想定している」

「危ないところはこっちに任せて、高みの見物ね」


 克己が不満そうに言うが、譲は何でもない事のように答えた。


「逆に一緒に仲良くの方が足手纏いになるから、この方が楽で良い」

「身も蓋も無いわね」


 麻里奈が呆れて言った。


「それで、今回のメンバーなんだが、俺と克己、るいざの3人だ」

「え」

「3人!?」


 克己とるいざが驚いて声をあげる。

 すると、溜め息を吐いて譲が言った。


「仕方ないだろ。憲人は誰かが見ていないといけないし、千鳥はまだ懸念が残る」

「そりゃそうだけど、それでも3人ってのは……」


 克己がさすがに不安げに言う。

 と、俯いて聞いていた千鳥が、顔を上げて譲を見た。


「譲、私も行くわ!」

「ダメだ」

「今は落ち着いているし、もう大丈夫だから!」

「何かの拍子に軍部と接触したらどうするんだ」

「接触するとしても、陸軍でしょ? それにパパが前線に来る事なんて無いもの。行けるわ!」


 確かに、今の千鳥は落ち着いているし、精神的に揺さぶりをかけてくるモノも取り立てて思い当たらない。だがしかし、何かあってからでは遅いのだ。


「許可できない」


 譲の言葉に、千鳥は食い下がった。


「でも、ESPセクションから3人しか出ないなんて、軍部に対して印象が悪いわ。それに、今回は絶対に失敗出来ない任務じゃない!」

「……」


 悔しいが、千鳥の言うとおりだった。本来であれば5人で出撃するのが当たり前のところを3人しか出ないとなれば、ESPセクションは軍部を軽んじていると見られるだろう。そして、今回は軍部と対立して、初の任務だ。失敗するわけにはいかない。

 譲は千鳥を見る。

 千鳥も譲の目をじっと見返した。

 そうして、千鳥の様子が落ち着いていることを確認し、譲は再度聞いた。


「本当に行くのか?」

「行くわ」


 辺りがしんと静まる。少しの沈黙の後、譲は千鳥に言った。


「いいか? 無理はしないこと。指示には従うこと。危ないと思ったら迷わず引くこと。それが守れるなら参戦を許可する」


 途端に千鳥の表情が、ぱっと明るくなった。


「守るわ! 約束する!」


 譲は諦めたように食事を再開しているが、るいざは不安そうに千鳥に聞いた。


「本当に良いの?」

「もちろんよ。……それにね、見てるだけなのはもうこりごりだわ」

「それならいいんだけど」


 前回の任務で、待っているだけしか出来なかったのが、余程、歯がゆかったらしい。

 千鳥は嬉しそうに笑うと、ミネストローネを口に運ぶ。


「それから、克己」


 譲が思い出したように克己を呼んだ。


「ん?」

「今回は防衛もメインで行うから、お前は後方でシールド展開だ。るいざは克己を守る役割になる」

「初めての立ち位置ね」

「それだけ攻撃が激しい事が予想されるんだ」

「ってことは、シールドも範囲が広いのか?」


 譲は地図を指差す。


「ここからこのあたりまでだな」

「ちょ、それメッチャ広いな」

「空も警戒した方が良いからな?」

「マジか。そりゃ、ボディーガードが必要になるわけだ」

「克己がシールドに集中出来るようにするのが、私の仕事ってことね」

「Yes」


 譲がウィンドウの地図にシミュレーション結果を赤で表示する。


「真維の予想では、この方面から数隊で攻めてくると思われる。まず、1陣が陽動。それから穴を作って一斉射撃、その後、2陣が包囲し、それを小さくする形で全隊前進」

「後ろは?」

「考えていないようだ」


 克己が真面目な顔になる。


「マジで特攻なんだな」

「相手の火力が不明だから、克己のシールドが重要になってくる」

「OK」


 今度は千鳥が聞いた。


「私はどう動けば良いの?」

「千鳥は基本的に俺と一緒に動く。まず、陽動に乗って、一斉射撃をさせる。その後、敵のボスを探して本部へ奇襲をかける。今回は、敵の生死は問わない」

「了解」


 千鳥は頷いたが、麻里奈は心配そうに言った。


「生死は問わないって言っても、千鳥ちゃんが人を殺すのは……」

「手加減する方が難しいんだ。仕方ない」


 譲が斬って捨てた。

 下手に手加減して、こちらが危なくなっては元も子もないのだ。


「大丈夫よ、麻里奈。心配してくれるのは嬉しいけど、覚悟してるから」


 千鳥は笑って言った。


「覚悟は良いが、慣れるなよ」


 譲が千鳥に言う。それに、全員が頷いた。


「それで、出発は何時なの?」

「9時頃の予定だ」

「じゃあ、その頃にゲートフロア集合ね」


 るいざの言葉に譲が訂正を入れる。


「今回は車で行くから、駐車場に集合してくれ。運転は俺がする」

「克己のシールド用ってことね。解ったわ」

「ま、とりあえずは飯だな。るい、デザート貰えるか?」

「はーい。ちょっとまってね」


 克己の言葉に、普段通りの朝食風景が戻ってくる。譲もウィンドウを消して、千鳥の様子を伺ってから、目の前の食事に集中した。






 後衛を陸軍がつとめるので、克己とるいざは前衛と後衛の中間地点より、やや後衛寄りに陣取った。ひとまず薄くシールドを展開して、しばらくは様子見だ。

 譲と千鳥は、譲のテレポーテーションで最前線へと飛んだ。


「まだ何も見えないわね」


 千鳥が辺りを見渡してそう言うと、譲は真維に聞いた。


「敵の進行具合はどうだ?」

『今の所、予測通りよ。あと30分もすれば、陽動部隊が攻撃してくるわ』

「しばらく待機だな」


 譲は瓦礫に登って、少し高い場所から辺りを見回した。透視を使って数キロ先まで見るが、今の所は何も異常は無い。


「そう言えば、譲は透視も出来るんだったわね」

「ああ」

「全能力使えるって、どんな感じ?」


 千鳥の言葉に、譲は少し考える。


「特に、意識したことがないから、逆に普通が良く解らないな」

「そういうもの?」

「俺にとってはな」


 譲の言葉に、千鳥は不思議そうな顔をした。それもそうだろう。普通の、ウイルスの影響で能力が具現化した人間には、能力が開花するきっかけがある。普通の暮らしをしていた普通の人間が、突然能力に目覚めるのだ。だからこそ、狂死したり暴走したりするわけだが。

 つまり、千鳥のような普通の人間は、追加で能力を得るため、それまでと違った感じを受けるのだろう。

 ただこれは、譲には当てはまらなかった。特に、言う気も無かったが。


「……そう言えば、海軍大将の件は悪かったな」

「なに? 突然」

「いや、俺が上手く立ち回れば、回避出来た気がしてな」

「どうかな。パパ、変なところ頑固だし。って言うか、今はその話やめてよ。精神衛生上良くないわ」

「それもそうだな」

「それより、譲の話を聞きたいわ」

「俺の? 面白い話なんかないぞ」

「それ、絶対ウソだから!」


 千鳥は楽しそうに笑った。


「ドイツにもイギリスにも居たんでしょ? どんな所に居たの?」

「別に、普通だ」

「普通なんだ」

「ああ」


 それきり沈黙が落ちる。

 そうしてしばらく経った頃、譲がじっと一点を見た。


「7時の方角。距離はまだあるが、そろそろ来るぞ」

「了解」


 千鳥に伝えて、今度はテレパシーでるいざに連絡する。


『もう直ぐ陽動部隊と接触する』

『了解』


 譲は瓦礫から飛び降りて、千鳥の隣に立った。

 そして、シールドを展開した。

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