表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
日本再興機関ESPセクション ー虚空を超えてー  作者: 島田小里
第3章 菖蒲千鳥

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

68/316

40.克己と譲

「今日は、午後から麻里奈のトレーニング。以上」


 朝食の席で今日の予定を譲が言う。

 すると千鳥がおずおずと聞いた。


「自主トレはしても良いかしら?」

「他のメンバーならかまわないが、千鳥はしばらくESPを使わないように」

「どうして?」

「ESPは精神的な物に左右される。精神的に落ち着いたと俺が判断するまでは、トレーニングは禁止だ」


 その言葉に、不服そうにした千鳥だったが、諦めて溜め息を吐いた。


「……わかったわ」


 一方麻里奈はとても浮かれている。


「やっと創平ちゃんにトレーニングを見せられるわね! 見ててね、創平ちゃん♪」

「ああ。楽しみにしているよ」


 にこやかに創平が返す。

 るいざと克己は昨日の疲れが残っているため、今日はオフで良かったとしみじみ思っていた。


 ――っていうか。


 克己が譲を見た。


 いくら派遣されてきた西塔に、技術やトレーニングを見せなければならないとしても、あれだけの揉め事の発端であろう相手に、そこまでしてやる義理は無いと思うんだけど。


 不服そうな視線を感じて、譲は克己を見たが、そのまま無視を決め込む。

それがまた、克己の気に障る。


「ご馳走さま」


 珍しく一番に克己が席を立つと、るいざが不思議そうな顔をした。が、なぜか機嫌の悪そうな克己に、思わず聞いた。


「克己、どうかした?」

「いや、どうもしないよ」

「そう」


 納得はいかなかったが、るいざはそれ以上何も言わなかった。

 次に食事を終えたのは譲だ。


「ご馳走さま」


 使った食器を片付けている克己を無視して、コンピュータールームの方へと歩いていく。

 克己は慌ててそれを追った。






 コンピュータールームへ通じる廊下で、克己は譲に追い付いた。


「何か用か?」


 譲は足を止めずに克己を見る。


「用って程じゃないけど、お前ちゃんと寝たのか?」

「一応な」


 話してる間にコンピュータールームへ到着する。ドアが譲を歓迎するように自動で開く。


「西塔と一緒だったのか?」

「だったらどうする?」

「いや、どうもしねーけどさ……。千鳥の一件、犯人は西塔なんだろ? お前と西塔の関係をとやかく言う気は無いけど、気にはなるだろ」


 譲はウィンドウを立ち上げながら、何でもない事のように言った。


「俺と創平だったら、知り合いだ。以前からのな」

「肉体関係込みの、か?」

「ああ」


 譲は克己が拍子抜けするほど、アッサリと認めた。


「お前さ、その誰にでも手を出すの、どうにかならないのか?」

「一応、相手は選んでいるつもりだが。現にお前には手を出していないだろう?」

「それは……そうだけどさ」


 言葉に詰まった克己に、譲がクスリと笑った。


「それとも、お前が代わりに相手をしてくれるのか?」


 挑発するように視線を投げる譲は愉しそうに微笑んでいる。

 その態度に、克己は大きく溜め息を吐いた。


「からかうなよ。解った。もう口出ししない」

「別に俺はどっちでも良いんだぞ」

「だーかーら、解ったって」


 このまま話していると譲のペースに巻き込まれて、何か間違いを犯してしまいそうだ。


「とりあえず、一つだけ教えろ。男が好きなのか?」


 克己の問いに、少し考えて、譲は言った。


「特に性別に拘りはないが、……男の方が楽だからな」

「楽って……。ああそう」


 どういう意味での楽なのかは解らないが、それだけの理由らしい。ひとまず、基地の女性陣の身の安全は保障されているようで何よりだ。


「それより、お前のシールドの事だが」

「へ?」


 急に仕事の話になって、克己が間の抜けた声を出す。


「シールドがどうかしたのか?」


 克己は譲の隣に近付いてきて、一緒に表示されたウィンドウを見る。

 その行動に、譲の方が驚いた。


「……普通、距離を取らないか?」

「何が?」

「さっきの話だ」

「ああ。それはそれ、これはこれだろ。お前は仕事にそう言うことを持ち込むようなヤツじゃないだろ」


 なぜか信頼されているようで、譲の方が調子が狂う。


「で、シールドがなんだって?」

「ああ……、能力値なんだが、全員の中で、計測数値を振り切っているのがお前のシールドだけなんだ」

「え? お前は?」

「俺のPKは、計測範囲内だ。特殊が振り切っているが、今の所、能力が具現化していないからこれは例外として」

「そうなのか」

「ただ、ESPは底無しに使える訳じゃない。シールドに使えば他に使う分、持久力にあたる部分は減っていく。つまり、使い方に気を付けないと、気付いた時には枯渇している可能性が考えられるんだ」

「成る程ね」

「特にお前みたいなタイプは、メンタルで実力以上の力を使いがちだ。気付かず無理して、オーバーヒートする可能性が高い」

「オーバーヒートするとどうなるんだ?」

「わからん」

「わからんって……」

「俺が知ってる限りだと、そのまま死亡や意識不明、または能力喪失は聞いたことがあるな。この辺は創平の方が詳しいかもしれん」

「日本は能力者が少ないんだったな」

「そうだ」

「つまりは、限界を越えないよう気を付けろってことか」

「その通りだな」


 ウィンドウの表示を切り替えている譲を見て、克己が言った。


「お前さ」

「なんだ?」

「意外と俺たちのこと、よく見てるんだな」

「……それが仕事だからな」

「それもそうか」


 譲がウィンドウをいじりはじめたため、克己は邪魔にならないように離れる。

 そして、真顔になって譲に聞いた。


「このまま、何も起こらずに、終わると思うか?」


 あと3日。実質、最終日は除いて、今日を含めあと2日。


「終わらないだろうな」

「やっぱりか」


 克己は近くの椅子を持ってきて、譲を眺めながら考えにふける。

 相手が軍部と西塔と考えると、何が起きても不思議じゃない気がしてならない。


「お前の色仕掛けで何とかならないのか?」

「何を馬鹿な事を言ってるんだ」


 呆れた譲に一蹴された。


「そもそも、創平は相手に不自由していない。俺との事だって、ただの遊びだ」

「随分詳しいな」

「そのくらいはな」


 譲は気にした風もなく、作業をしている。が、ただの遊びにしては、西塔は譲に固執している気がすると、克己は思う。

 それに、少し女に不自由した程度で男に手は出さないだろう。

 と、考えたが、譲を見ているとそれも危うい気はする。華奢な身体付きに、整っていて性別を感じさせない天使のような顔、男にしては高い声。日本人とは思えない薄茶色の髪に、惹かれる赤紫色の瞳。


 ……確かに、譲なら抱けるかもしれない。


 と、思った瞬間、譲に話し掛けられた。


「おい。何を妄想するのもお前の自由だが、俺がテレパシー持ちなのを忘れるなよ」

「制御効いてりゃ、常に人の思考を読むなんてしないだろ」

「読まなくても、変なことを考えてるのは何となく解るだろうが」


 それはその通りで、克己が言葉に詰まる。

 譲は溜め息を吐いて、ウィンドウを全て消した。


「昼まで少し寝てくる」

「あ、ああ」


 そう言うと、克己を置いて、譲はコンピュータールームを出て行った。

 克己は自分の思考が大分、譲に影響されている事実にそのままたそがれていた。

 しばらくそのまま、コンピュータールームでぼんやりしていると、入り口のドアが開いて創平が姿を見せた。


「おや、珍しいお客さんがいるね」

「珍しくて悪かったな」

「いやいや。驚いただけだよ」


 そんなタマじゃないくせにとは、心の中で思うだけに留める。

 創平は克己に構わず中に入ると、ウィンドウを展開して何か作業をしている。

 譲の時は青や緑の表示が多かったが、創平のウィンドウは赤や黄色が多い。おそらく、真維の掌握をしようとしてエラーや警告が出ているのだろう。


「……楽しそうだな」

「そうだね。これだけ手応えがあるシステムはなかなか無いからね」


 創平レベルになると、思い通りに行かない方が楽しいのだろう。理解できないが。


「アンタは、譲とどういう関係なんだ?」


 克己はダメ元で聞いてみた。

 すると、創平はにこやかなまま答えた。


「旧知の仲、かな」

「それってどのくらい?」

「そうだな。五年くらい前かな。と言っても、一時期交友があっただけで、それ以降は会ってはいなかったけどね」

「へぇ」


 創平がすんなり答える事に違和感を感じながらも、克己は聞いた。


「好きなのか?」


 さすがにこの質問は予想外だったようで、創平が驚いた顔で克己を見た。そして、また何時もの笑みを浮かべる。


「興味深いとは思っているよ」

「……」


 と、ウィンドウがまたエラーを表示する。


「ところで、そろそろ昼食の時間じゃないのかい?」

「マジか」


 どうやら相当ここでぼんやりしていたらしい。克己は慌てて椅子から立ち上がった。


「先に行って手伝ってくる」

「ああ。僕はもう少しやってから行くよ」


 そう言う創平を置いて、克己はコンピュータールームを出て、テラスに向かった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ