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日本再興機関ESPセクション ー虚空を超えてー  作者: 島田小里
第3章 菖蒲千鳥

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38.その頃のESPセクション

 時は戻って、麻里奈が朝ご飯へルンルン気分で行ったとき、テラスに居たのはるいざだけだった。


「おっはよー!」

「おはよう、麻里奈」

「みんなまだなんて珍しいわね。呼ぶ?」

「ううん、良いの」


 そう言うるいざはなんだか眠そうだ。


「……もしかして、何かあったの?」


 麻里奈が聞くと、るいざはため息を吐いて小声で言った。


「実はね、譲のデータの改ざんがバレたみたいで、今、本部で揉めてるらしいの。それで、克己と千鳥ちゃんで譲を迎えに行ったのよ」


 とりあえず、当たり障りの無い部分だけ抜粋して、るいざは麻里奈に説明した。

 さすがに創平に絡む可能性があるところは、麻里奈には話せない。

 すると麻里奈はるいざの言葉をすんなりと信じたらしく、しかめっ面をして言った。


「いつかはバレると思ってたけど、思ったより早かったわね」

「そうよね」


 麻里奈に心の中で謝りながら、るいざは朝食の準備を進める。


「でも、それなら私にも教えてくれれば良かったのに」

「うーん。そうしたかったのは山々だったんだけど、わかったのが夜中だったから、憲人を起こしちゃってもって思って」

「それもそうね」


 麻里奈は納得したようで、それ以上は特に何も言わなかった。が、そう言えば憲人を抱いていない。


「ところで、憲人はどうしたの?」

「よく寝てたから、真維にお願いしてきちゃった。だから早く戻らないとなの」

「そうなのね。じゃあ西塔さんが来たら直ぐに食べられるように、準備しちゃいましょ」

「そうね。これ、運んで良い?」

「ええ、お願い」


 そう言って、麻里奈は出来上がった料理の乗る皿を運び始める。

 そうして準備が終わる頃、ちょうど創平がテラスに姿を見せた。


「おはよう、麻里奈、るいざさん」

「おはよう、創平ちゃん!」

「おはようございます」


 一気にテンションの上がった麻里奈が、創平のところへ駆け寄る。


「今日は人数が少ないんだね?」

「ええ。みんな本部に用があって」

「そうなんだね」


 しれっとした様子で言う創平に、るいざの嫌悪感が募るが、ここで表に出すわけにはいかない。


「さあ、食事にしましょう」

「創平ちゃんは私の隣ね!」

「ありがとう、麻里奈」

「どういたしまして」


 麻里奈のおかげで、和やかな朝食が始まった。


「そう言えば、譲が居ないってことは、今日はオフってことよね?」

「そうなるわね」

「じゃあ創平ちゃん、私の部屋に来て! 憲人を見せたいの」

「そうだね。ちょっと仕事をしたらお邪魔しようかな」

「仕事?」

「僕は『真維』のシステムを学びに来ているからね。もう少し、システム設計を触ってみたいんだ」

「そうなのね」

「ごめんね、麻里奈」

「ううん。お仕事じゃしょうがないわよ。そのかわり、終わったら来てね」

「勿論」


 創平が馬鹿ップルモードを継続してくれて助かったと、るいざは心底思った。おかげで、克己が居ないにもかかわらず、るいざへの手出しが無い。

 『真維』のシステムを盗むのに苦戦してるせいもあるんだろうけど。

 るいざは黙ってそそくさと食事を終えると、席を立った。






 朝食の後片付けを終えると、るいざは部屋に戻ってウィンドウを開いた。本部に居る克己たちの情報を少しでも掴めれば良いと思ったのだ。

 さすがに本部で『真維』が使えるとは思っていないものの、通信くらいは出来るかもしれないと思い、呼び掛けようとしたとき、真維が現れる。


『本部の克己君は、もう少ししたら神崎さんの部屋に落ち着くから、通信出来るわよ』

「え、真維は本部でも使えるの?」

『すこーし、制限はかかるけど、本部なら余裕よ』

「凄い……」

『ありがとう。ちなみに克己君は今、テレパシーで譲と会話しているところね。譲は今日の会議に出席する事になったみたい』

「会議の様子も見られたりする?」

『もちろんよ』

「じゃあ、克己たちと会議が見られるのね」

『千鳥ちゃんはパパのところだから、居ないけどね』

「千鳥ちゃんの誤解は解けたのかしら?」

『誤解は解けたけど、ちょっと拗れちゃったみたいね』

「そう……。良い方に進むと良いんだけど」

『本当ね。……克己が部屋に着いたわ。通信を繋ぐわね』

「お願い」


 言うが早いか、ウィンドウから真維の姿が消えて神崎の部屋に居る2人が写し出された。

 克己が驚いて声を上げる。


『るいざ!? ってことは、真維が?』

「うん。真維に繋いでもらったの」

『相変わらず凄いシステムだな』


 神崎が感心したように呟く。


「昨晩ぶりです、神崎さん。色々手続きありがとうございます」

『いいえ、大したことはしていません』

『てか、るいざは現状はどの程度把握してるんだ?』

「譲が会議に出るってくらいよ」

『ほぼそれで全部だから問題無い。俺たちも会議を観戦するくらいしか、やること無いしな』

「そうなのね。じゃ、のんびり会議を観戦しましょう」


 他に出来る事が無いのなら仕方ない。それに、情報は多い方が良いし、それがリアルタイムならベストだ。

 るいざは本腰を入れて会議を見るために、とりあえず、コーヒーを淹れる事にした。






 会議はるいざが思ったより、アッサリ終わった。議事進行の腕が良いと、こんなにも早く終わるのかと感心するほどだ。そして、譲が部屋に戻ってきた後のやり取りを見てから、急いでテラスへ向かった。昼食の準備のためである。

 本当なら麻里奈にまかせたかったのだが、言い訳が浮かばなかったのだ。


「そういうところ、るいざは真面目だからね~」

「はじめさん! 西塔さんに見られたらどうするつもりなの!?」

「大丈夫よ。まだ、真維ちゃんと遊んでるみたいだから」

『コンピュータールームで愉しそうにしてるわね』


 真維が冷たい笑みで言った。


「もう、2人とも他人事みたいに!」

「私は他人事だもの。それで、お昼は何を作るの?」

「時間もないし、カレーにしようかと思ってるところよ」

『良いわね、カレー。きっとみんなが戻ってくる夜には、美味しくなってるわよ』

「そうね。下拵えにはミキサーを使って手抜きしちゃうけどね」

「そういうのは手抜きと言わず、工夫したと言うのよ」


 はじめが堂々と言う。それに笑って、るいざは寸胴をコンロに置いた。






 昼食のカレーは煮込み時間が短かったが、麻里奈には好評だった。そして、西塔氏は仕事の通信が入っているようで、食事は要らないとのことで、るいざは心の中でホッとした。


「せっかく創平ちゃんが居るのに、あんまり一緒に居られなくて残念だわ」


 麻里奈は心底残念そうに言う。


「仕事で来てるんだし、仕方ないわよ」

「解ってるけど、ね」


 恋する乙女は少しでも一緒に居たいらしい。

 るいざは知識では知っているが、今までそう感じた相手が居ないため、麻里奈の気持ちに共感しきれないので、相槌を打つに留めた。

 昼食には憲人も連れてきていたので、先に食べ終わったるいざは憲人を抱いてあやしている。


「早く譲たち、帰ってこないかなぁ」

「そうね」


 トレーニングも無く、恋人も仕事で、麻里奈は暇らしい。


「憲人の相手をしていればすぐよ。きっと」

「それはそうなんだけどね」


 そう言って、今度はデザートを食べるべく、麻里奈はキッチンへ向かった。






 午後3時過ぎ、ようやく会議が終わった創平が、テラスでのんびりおやつをしていた麻里奈とるいざの元に顔を出した。


「創平ちゃん、会議終わったの?」

「ああ。終わったよ。それで、残念なお知らせなんだけど、僕の派遣期間が二週間から一週間に変更になったんだ」

「えー!?」


 麻里奈が、大きな声を出して落胆する。が、直ぐに気を取り戻したようで、明るく言った。


「でもまだ、あと3日あるものね!」

「そうだね」

「創平ちゃん、お昼食べてないでしょ? 今食べる?」

「いや、夜に響きそうだから、おやつをいただいてもいいかな?」

「もちろんよ。今日は農場の女将さんのパンプキンパイなの。今、お皿持ってくるわね」


 言うが早いか、麻里奈はダッシュしてキッチンへ向かった。

 と、創平が小さな声で言った。


「今回は、譲に一本取られたよ」

「……西塔さんは、譲とどういう関係なんですか?」

「色々かな」


 創平が愉しげにクスクスと笑う。

 るいざはそれを不愉快に感じるが、表情に出さないように気を付けた。が、居心地の悪さを感じたのか、憲人がぐずり出す。

 るいざは逃げるように席を立って、憲人をあやすことに集中した。


「あ、るいざ、憲人見るわよ?」


 戻ってきた麻里奈がそう言ったが、創平と対峙するより憲人をあやしていた方が圧倒的に良いため、その申し出は辞退した。

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