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日本再興機関ESPセクション ー虚空を超えてー  作者: 島田小里
第3章 菖蒲千鳥

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37.決別

「何を言ってるんだ、千鳥?」

「だから、私は特殊能力課に……」


 パシッ!


 千鳥の言葉は最後まで言えなかった。政信が立ち上がり、千鳥の頬を叩いたからだ。衝撃に千鳥が椅子から転げ落ちる。が、克己のシールドのお陰でダメージは無かった。


「馬鹿な事を言うんじゃない! お前はもう軍部の人間だ! 特殊能力課なんかにやってたまるか!」


 額に青筋を浮かべて怒鳴りつける政信を、千鳥は初めて見た。怖い。けれど、千鳥にも譲れないものがある。


「私の居場所を勝手に決めないで! パパがなんて言っても私は特殊能力課に帰る! そう決めたの!」

「それが、軍部を裏切る事でもか!?」

「裏切るとか、そんなんじゃないでしょ!?」

「お前にそのつもりが無くてもそう言うことだ!! それでも特殊能力課に行くと言うなら、親子の縁も切れると思え!!」

「パパ!?」

「そんな娘を持った覚えはない!!」


 物凄い剣幕に、千鳥が絶句する。

 どうしてそうなるのか、解らない。

 解らないけど、だからといってここで曲げるわけにはいかないことだけは解る。

 止まっていた涙がまた零れた。


「それでも……、私は特殊能力課に帰るから!!」


 千鳥は言い捨てると、部屋を出ようと走り出した。が、その手を政信が掴んで引き戻す。


「ならん!!」

「離してよ!!」


 千鳥がもがくが、政信の手はきつく食い込んで離れない。


「親の言うことには従うものだ!!」

「私はもう子供じゃない!」

「まだ子供だ!! いいから言うことを聞きなさい!!」

「ッ……パパのバカ!!」


 千鳥はポケットに入れていたカギを掴んで『真維』を起動した。


「譲ッ! 助けて!!」


 その瞬間、千鳥の目の前に譲が現れた。

 そして、千鳥の腕を掴んでいる政信の手首を捻り、外させる。


「暴力は良くないな」

「どの口がほざくか!!」


 政信が一歩引いて、譲に怒鳴りつける。


「貴様が、うちの娘を誑かしたんだろう!!」

「譲は何もしてない! 私が勝手に決めた事よ!!」


 怒鳴りあう2人の間に立ち、譲が淡々と言った。


「千鳥、結論は出たのか?」


 その瞬間、2人ともピタリと黙り、静寂が訪れる。

 千鳥は、深呼吸をしてから、静かに言った。


「私は特殊能力課に帰る」

「そうか」


 政信が言葉を発するより先に、今度は譲が聞いた。


「それで親子の縁が切れるとしても、か?」

「……」


 今まで母親の分まで育ててくれた父親。大好きで自慢の父親だった。

 それでも、千鳥は決めたのだ。


「私の居場所は、特殊能力課だから」

「解った」


 譲が千鳥の手を取る。

 それを止めようと政信が手を伸ばすより先に、譲はテレポーテーションで飛んだ。


「千鳥!!」


 千鳥の目に映った最後の政信の顔は、どこか泣きそうな表情をしていた。






「うおっ! ビックリした!」


 克己が急に現れた譲と千鳥に驚く。自分が使ってるときは、周りからどう見られるかなど気にしていなかっただけに、テレポーテーションで出現するのがこんなに唐突だとは思わなかったのだ。


「てか、譲。いつの間に人を連れて飛べるようになったんだ?」

「今だな。試してみたらいけた」

「相変わらず、顔に似合わず大胆だな」


 そう言って、克己はハンカチを千鳥に差し出した。


「平気じゃないだろ? 好きなだけ泣くと良い」

「……ありがとう」


 千鳥はハンカチを受け取って、ボロボロと涙を零した。覚悟して、自分で決めたことでも、別れはツラいのだ。


「うぅ……」


 声を押し殺して泣く千鳥の肩を、譲が抱いて椅子に座らせる。そして、頭を撫でてやる。


「助けを呼んで偉かったな」

「……っ来てくれて、ひっく……あり、がと……」


 泣きじゃくりながら、礼を言った千鳥を譲は抱き締めながら優しく撫でる。

 譲の胸の暖かさに、千鳥の涙は止まらない。

 と、譲が克己に言った。


「気の済むまで泣かせてやりたいのは山々だが、すぐ足が付く。克己、このまま車へ飛べるか?」

「ああ、行ける」

「頼む。神崎さん、礼はまた今度」

「気にするな。慣れている」


 話してる間にも、荒々しい複数の靴音が近付いてくるのが聞こえてきた。


「それじゃ、また」


 克己も神崎に軽く挨拶すると、譲と千鳥を連れて車へと飛んだ。そして、運転席へと乗り込みそのまま車を発進させる。

 暗くなり始めた空に、星が見え始めた。

 後部座席で譲に抱き締められたまま泣きじゃくる千鳥の涙は、なかなか止まらなかった。

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