35.会議
本日の会議は問題が問題なだけに、規模が大きい。昨日は軍部のみで会議をしていたのだが、今日は日再――日本再興機関の長を始めとして、軍部の他、研究部や総務部等、全ての部門から出席者が出ている。中でも軍部と研究部は特別に複数人の出席が認められていた。
譲が部屋に入ったときには、既に出席者は勢揃いしていて、一気に40人ほどの視線が集まる。が、そんな事を気にする譲ではない。
悠々と日本再興機関長の隣の席に腰を下ろした。
「それでは会議を始める」
日本再興機関長――中野良一狼が淡々と言った。
「まず、虚偽報告の理由を聞こうか」
ずばっと端的に問われ、譲はやれやれと口を開いた。
「理由は主に3つ。まず一つ目に、測定数値に比較対象が無いことから、数値のみ示しても期待値を煽るだけになること。二つ目に、現段階ではトレーニング中であり、測定数値に誤差が大きい事。三つ目に、無茶な命令により、課員に耐えられない負荷がかかるのを防ぐためだ。これについては先日のスカイツリーの任務が良い例だ」
同じく淡々と言った譲に、一條が発言した。
「それについては、こちらの見込み違いもあるが、そもそも君が特殊能力課を私物化していなければ防げた事案だ」
「私物化ねぇ? 人数が少ないからそう見えるだけだろ」
すると、今度は研究部の副主任である白石が口を開いた。
「私物化していないと言うのなら、研究部と連携して特殊能力の研究と開発を進めるべきだ」
「それは何度も言っているように、特殊能力を持たない人間に能力開発は難しい。それに、単なる実験動物として扱われるのがオチだ。仮にそうでないとしても、能力暴走でもしたら単なる研究者には何も出来ないだろう。余分なリソースを裂く余裕は無い」
「しかし、そのせいで日再の対能力機器の開発は遅れている。それについては、どう考えるんだ?」
「普通に、特殊能力課へ依頼を出せば良いだろう? こちらも、正式に依頼されれば無下にはしない。今回の西塔氏のように」
その言葉に白石は悔しそうに黙る。
「理由は解った。が、理由がどうであれ虚偽の報告をしていたことには変わりない。それは解るな?」
中野の言葉に譲も頷く。
「それについては、いかようにも処分していただいて結構です」
「では、今後の研究部へのデータ提供と、機器開発の協力体制を取ること。これについては以上だ」
「解りました」
譲としても、研究部としても、望ましい落としどころに諾を返す。
それを受けて、中野は次の議題に移る。
「次に第七シェルターのシステムの二重構造についてだが、これについては不問とする」
「何故ですか!?」
これに反応したのは陸軍大将の武藤だった。
が、それに答えたのは中野だった。
「縣君には、日再で能力開発を担当してもらう契約をした際に、システム開発一式を任せるという契約が成されているんだ。よって、第七シェルターについて、彼が何をしようと契約内になるんだよ」
「しかし、納得いきません!」
「君が納得するかは関係無い。加えて言うなら、縣君は日再の正規の職員ではなく、契約職員となっている」
「そんな人間に権限を持たせて居るんですか!?」
「逆だよ」
「は? 逆とは?」
「それだけ、縣君を敵に回したく無いということだ」
この中野の発言には、譲を除く出席者全員が目を見開いた。
「それで、後は組織編成の話だったかな?」
中野は気にせず議題を進める。すると防衛官長である一條が言った。
「特殊能力課は、現在日本再興機関長の直属になっていますが、その性質上軍部に組み込むべきかと」
「それについて縣君、意見は?」
中野に話を振られて、譲は酷薄に笑った。
「パワーバランスって言葉を知っているか?」
「だ、そうだ。確かに軍部直属の方が色々とスッキリするかもしれないが、正規の能力データから見ると、特殊能力課を軍部に組み込むのは賛同しかねるな」
一條含む軍部の四人は悔しそうな顔をして、黙った。
それを確認して、中野は言った。
「議題は以上で良かったかな? それでは本日の会議は――」
「一つ良いですか?」
遮ったのは譲だった。
「何かあるか?」
「今ドイツから特殊能力課へ派遣されている西塔創平氏の件ですが、彼の責任の所在を明らかにしていただきたい」
「今回の件は、菖蒲海軍大将の娘が関与していると聞いていたが、実際は西塔氏と言うことか?」
「推察通りです」
「成る程。道理で大事になっていた訳だ。西塔氏については、こちらで対応しよう。派遣期間を減らすと言うことで良いかな?」
「構いません」
「それでは、本日の会議はこれにて閉会とする。これ以降、この件についての意義申し立ては認めない。それから、縣君、今後は正しいデータを報告するように」
「了承しました」
問題無く会議が終わり、譲は席を立った。それを見て、隣にいた中野が話しかけてきた。
「ところで譲君。第七シェルターのシステム名は『真維』と言うそうだね」
「ええ」
「懐かしい名だな。それだけ彼女の存在が君の中で大きかったと言うことかな」
「その通りですね」
「そのうち、見に行ってみたいものだな」
「いつでも歓迎します」
「そうか。楽しみにしておくよ」
そう言うと、中野は席を立ち部屋を出て行った。中野は既に35歳を越えている。彼の年齢を考えると、恐らくは実現しないであろう約束。
中野は譲の過去を知る少ない人物の1人だった。
譲は見張りをしていた陸軍兵士から、没収されていたアクセサリーを受け取ると、ESPセクションへ戻るべく、神崎の部屋へと足を向けた。




