21.能力測定②
「この能力測定って、不思議よね。みんな状況とか課題?が違う」
昨日は初っ端が千鳥の能力測定だったこともあってぐったりしながら見ていた千鳥だったが、今日はコンソールにある窓から興味深そうに中を覗いている。現在中ではるいざが能力測定中だ。
「能力も土台も個々で違うからな。それに、同じパターンばかりじゃ、慣れると良い数値が出るのは当たり前だ。そういうことも加味して課題が出力されている」
「凄いシステムね……」
現在るいざは遺跡のギミックと格闘中だ。予知の数値を測定しているんだと思われる。
千鳥ならクリア出来ないだろう仕掛けを、るいざは次々とクリアしていく。雷電も使いこなしていて、身を守る術もある。昨日の麻里奈といい、るいざといい、日再に提出されている数値以上の何かがある気がする。
これでは足手纏いは自分かもしれない。
そんな千鳥を横目に、譲は周りにウィンドウをいくつも展開して、カメラからの映像やバイタルデータ、能力値やその他複数の情報を眺めている。
一方克己はというと、そんな譲の様子と中の様子を交互に眺めていた。
「相変わらずスゲェな……」
ウィンドウの数が多すぎて、克己には何がなんだか良く解らない。しかし譲は、たまに真維に指示を出している事から、全てかは解らないがある程度は理解して、分析までしているようだ。
1時間程経って、ようやくるいざの測定が終わる。るいざは床にへたり込んで息を整えている。
「るい、お疲れー」
「本当に疲れたわ……。譲、真維にお昼ご飯頼んでも良いかしら?」
「ああ。こっちでテラスに用意するよう手配しておく。12時で良いな?」
「すぐじゃなきゃいつでもいい……」
今すぐは食べろと言われても食欲が湧かない。と、千鳥がおずおずと言った。
「……私の分も、お願いしても良いかしら?」
「いいよ」
譲が真維に5人分の食事を頼んでいると、千鳥はるいざの方へ歩み寄った。
「どうしたの、千鳥ちゃん?」
「あの、……あのね」
「うん?」
「この間の依頼の時も、今の測定も見てて、私、その……謝らないといけないと思ってて」
「謝る? 何を?」
るいざがきょとんとしていると、千鳥は言い辛そうにしていたが、やがて覚悟を決めたように勢いよく頭を下げた。
「以前、家政婦だなんて言ってごめんなさい!」
一瞬何のことかわからず、るいざが固まっていると、千鳥は小さな声で続けた。
「私、るいざのこと良く知りもせずに、一方的に見下してた。失礼な態度も取ってた。思い上がってたんだって今なら解るわ。るいざたちはトレーニングして、経験も積んで努力してたのに……」
るいざは千鳥の言葉に優しく微笑んだ。
「謝らなくても良かったのに、千鳥ちゃんは良い子ね」
そう言って千鳥の頭を撫でた。
「それでね、その、……今度から私の分も食事を作ってくれると嬉しいんだけど、ダメかしら?」
「良いに決まってるわ! 嬉しい」
千鳥の変化に、るいざはにっこりと微笑んだのだった。
そして千鳥は克己を見た。
「克己も、酷いこと言ってごめんなさい。情報を鵜呑みにして信用出来るか決めるなんて最低だったわ」
「いや、いいよ。慣れてるしな」
そう言うと克己は笑った。
千鳥はほっとして、少しだけ笑った。
昼食の為にテラスにいくと、すでに麻里奈が憲人を抱いて待っていた。
「おかえりー」
「ただいま~」
「るいざ、大丈夫? ご飯食べれそう?」
「うん。休憩したし、なんとか」
「なら良かった。そこに座って憲人を見ててくれる? 支度するから」
「ありがとう、麻里奈」
「私も手伝うわ」
キッチンの方へ行った麻里奈を追って、千鳥もキッチンへ向かう。声は聞こえないが、どうやら千鳥は麻里奈にも謝っているようだ。
「良い子ね」
「だな。良い変化だな」
るいざと克己がしみじみする。
憲人は今は眠っていて、静かだ。
「かわいいな~」
るいざが憲人のほっぺたをつんつんしながら微笑む。憲人はるいざが触れても嫌がる素振りもなく眠っている。
「すぐ大きくなっちゃうんだろうな」
そうこうしてるうちに食事の準備が整い、5人は昼食を食べ、昼休憩を挟んで午後は克己の能力測定が行われた。
その後、克己の能力測定も問題無く終わり、夕食の後は自由時間になった。
女性陣は麻里奈の部屋で憲人と戯れるらしく、食事を終えると3人で歩いて行くのが見えた。一方、譲はデータを纏めるらしくトレーニングルームへ戻っていった。
1人暇になった克己は、日課のジョギングの前に散歩でもしようと何となくトレーニングルームへと向かっていた。
と、コンソールに居ると思った譲がトレーニングルームの方に居て、驚く。
「もしかして、今から能力測定するのか?」
「ああ」
「見ていても良いか?」
「かまわないが、つまらなくないのか? お前は身体を動かす方が好きだろ?」
「そりゃそうだけど、人の能力測定は面白いから好きだぜ」
「そうか。コンソールに真維が居るから、一緒に見てると良い。非常事態の表示が出たらシールドを使え」
「非常事態なんてあるのか?」
「100%無い保障は無い」
「まあ、そりゃそうか」
そう言って、克己はコンソールに飛んだ。そこには真維が3D化していて、いつもの譲のようにウィンドウを展開していた。
『あら、見学?』
「そう。お邪魔するよ」
『どうぞ。それじゃ、始めるわね』
こうして譲の能力測定が始まったわけだが、30分程して、真維は少し難しい顔をした。
『譲の傷、治りきって居ないわね』
「え、普通にしてたぜ?」
『日常生活には支障のない程度だと思うわ。でも、ハードな動きになると少し庇ってる』
さすが真維だ。克己にはさっぱり解らない。
『まあ、傷が開いても何とかなるし、能力測定を優先しましょう』
「おいおい、それでいいのか?」
『多分譲も同じ事を言うと思うから大丈夫よ』
トレーニングルームの中では、敵やら建築物やらを思い切り倒壊させたり支えたり、これまで見たメンバーの測定よりも激しい戦闘が繰り広げられている。ひとえにPKという能力の特性のせいだろうが。ついでに、譲は全ての特性を持っている為、余計にギミックも規模も手が込んでいる。
「これは見応えがあるな……」
どうしてこれだけ出来る譲が、日本軍に居るのか。新勢力を立ち上げていても不思議では無い気すらする。
『……そろそろ終わるわよ』
「お、数値見れる?」
『分析に少しかかるけど。克己は書き換えてないデータを見たいんでしょ?』
「見たいね」
『分析が終わったら声をかけるわ。それまで譲を介抱してあげてね』
「了解」
話が終わると同時に、譲の能力測定が終わる。それを見て、克己がテレポーテーションで譲の隣に飛ぶのと、譲が意識を手放すのはほぼ同時だった。
「うおっと!」
克己は慌てて譲を抱き留めて、床に横たわらせる。
珍しく汗だくになって、荒い呼吸をしている譲は苦しそうな顔をしている。
こういう時に治癒が使えればと思うが、持っていないものは仕方ない。
ふと、ワイシャツの襟で隠れていた首筋の赤い痕が目に留まった。
「キスマーク? そういや、本部に泊まってたっけ」
神崎さんに付けられたのか、はたまた他の相手か。
もう、一緒に仕事をし始めてかなり経つのに、譲については謎が多い。聞くにしても、女性陣が居るところで聞くのもはばかられて、つい後回しにしてしまう。譲自身も、詮索されるのは嫌ってそうな気がするから尚更だ。
『克己、データ分析はもう少しだけど、先に譲を医務室へ運んでくれる? ついでにメディカルチェックしちゃうわ』
「OK。テレポーテーションで飛ぶわ」
『お願い』
譲を抱き上げると、克己は医務室へ飛んだ。変なところで女性陣に会ってもうるさいので、トレーニングがてらテレポーテーションだ。すると、そこにはすでに看護士のコスプレをした真維が居た。
『そこに寝かせてくれる?』
「ああ」
克己が診察台に譲を横たえると、すぐにスキャンが開始される。
『ありがとう。助かったわ』
「どういたしまして」
『お礼の代わりと言ったらなんだけど、分析結果が出たわよ』
「お!」
『日再への提出用と合わせて展開するわね。残念ながらデータはまだあげられないから、見るだけになっちゃうけど』
「十分だ。Thanks、真維」
そう言って、克己はデータを見始めた。




