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日本再興機関ESPセクション ー虚空を超えてー  作者: 島田小里
第3章 菖蒲千鳥

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19.赤ん坊

 時は戻って――。


「あーあ、泣きだしちゃった。あんたのせいよ、克己」

「そこでなんで俺のせいになるんだ」


 ESPセクションについたとたん、火がついたように赤ん坊が泣きだしたのだ。


「どうしよう、おなかすいてるのかなあ。それともおしめかな」

「両方かしらね? ちょっと待っててね」


 そう言うとるいざは走って部屋に向かった。残された2人は途方に暮れる。


「おい、なにも考えずに赤ん坊の服を脱がすのはやめてくれ」

「じゃあ、ミルク作ってきて」

「哺乳ビンなんてないんじゃないのか?」

「じゃあどうすればいいのよっ」

「お前がひろってきたんだろ」

「そうよ、私が育てるのよ。でも協力してくれたっていいじゃない」

「それが協力を求める態度か、おい!」


 克己が怒鳴ると赤ん坊がさらに泣きだしたので、さすがに克己はバツの悪い顔をした。


「……とにかくるいが戻ってくればなんとかなるだろう。泣きつかれれば眠るだろうし」

「それまで放っておくしかないのかなあ」

「まあせめて抱いててやれよ。お前の心臓の音でも聞かせてやれば?」

「なにそれ?」

「知らないのか? 胎児の時は母親の心音を四六時中聞いてるから赤ん坊のころもそれで落ち着くらしいぞ」

「ふーん」


 変なこと知ってるなあと思いつつ麻里奈は赤ん坊をかかえなおす。すると10分もしないうちにぐずついてはいるもののやや静かになった。


「……名前でも考えるのか?」

「そーね、そのうちね。何か名前書いてあるものを身につけているかもしれないし」

「身につけてるって……その産着くらいか」


 克己は汚れている毛布をつまみあげて物色したがこれといって特に見当たらない。白い産着はまだ着ているが下手に脱がしてまた泣かれるのはごめんだと思い、手をとめた。

 と、そこに色々と手に持ったるいざが戻ってきた。


「ねえ、るいざ。おしめとかミルクとかどうすればいいの?」

「うーん、どうしようかな。哺乳ビンは今取ってきたんだけど。麻里奈、とにかくタオル濡らしてきて。あたたかいお湯でね。それから克己、このシーツを30cmくらいの幅に切ってくれる?」

「おう」


 麻里奈の代わりにるいざが赤ん坊を抱っこし、克己と麻里奈はそれぞれ言われたとおりに準備する。


「あ、笑った」


 るいざは麻里奈から渡された赤ん坊を、腕の中であやしている。


「うまいな」


 克己が感心したように言う。


「病院でも何人かいたしね」

「おまたせー」


 麻里奈がタオルをもってとびこんでくる。るいざはそれを受けとると産着を脱がせ体を拭いた。


「あ、気持ちよさそう」

「またあとでちゃんとお風呂いれてあげようね」


 女性二人が嬉々とした声をあげながら赤ん坊にとりかかっていると、ほどなく克己がシーツを切り終える。


「出来たぞ」

「ありがと」


 るいざは手早く即席のおしめをつくり赤ん坊につけている。


「産着、どうする?」

「洗うからおいといて」

「服どうしようか」

「そうね。いらないTシャツある? 少しつめてしまえばなんとかなるでしょ」


 そう言いながらるいざはキッチンに向かった。そして出来るだけ急いでミルクを作る。


「おまたせ麻里奈ちゃん」


 るいざはミルクがはいった哺乳ビンをわたす。


「これどーすればいいの?」

「もうぐーっとやっちゃっても平気よ。吐き出したらすぐやめてあげてね。それを何回かくりかえして……それぐらいなら全部飲んじゃうと思う」

「はーい」


 麻里奈が腕の中の赤ん坊に哺乳ビンの口を傾けると勢いよく飲みだす。


「すごーい一気飲み」

「よっぽどおなかがすいていたのね。でも飲みすぎもよくないから、それだけで今日は終わりにしてね。もう自分の部屋に連れてって寝かしつけちゃって」

「眠るかなあ」

「眠っちゃうまで抱いててあげればいいわ。麻里奈も少し眠りなさいね」

「ふんづけちゃったりしたら……」

「意外とぐぎゃっと声をだすから平気よ。まあ心配なら座布団と毛布で即席ベビーベット作ってもいいしね。ベットよりは床の方がいいかもしれないわ。落ちたら困るし……」

「うんわかった。るいざも眠ったほうがいいよ。今日は任務もあったし」

「そうね。でもなんか赤ちゃん見るとそれどころじゃないって感じよね」

「かわいいもんねー。私たちにもこういう時期があったはずなのにね」

「そうね、信じられないわね。じゃあ、もう私部屋に行くから。何かあったら起こして、部屋は開けとくから」

「はーい」

「俺も寝よっと」


 そうして3人は寝静まったのである。






 ――そして時は戻って翌日の夕方。


「あ、譲、千鳥ちゃん、おかえりー」

「おかえりなさい」

「ただいま」

「ただいま。……なんだその赤ん坊は?」

「拾ったの」

「捨てられていたのよ。酷いわよね」


 麻里奈と赤ん坊を抱いて、るいざはその手をあやしながら答えた。


「……」

「な? 驚くだろ」

「……色々言いたいことはあるが……」

「まさか、元居た場所に棄ててこいなんて言わないわよね!?」


 全員の視線が譲に集中する。


「……そもそもどこで拾ったんだ?」

「テレポーテーションの途中で」

「瓦礫だらけのビルで、だ」


 克己の補足に譲が難しい顔をする。千鳥も訝しげな表情だ。


「おかしくないか。その赤ん坊」

「そう?」

「なんで?」

「だろ?」


 麻里奈とるいざと克己が同時に声をあげた。JRは麻里奈が赤ん坊を拾った時に感じた違和感を話すと、譲も同じような疑問をもったらしい。


「考えすぎじゃないの?」

「これだから女って……母性本能がはたらくんだよな」

「だってあんなに小さいし、かわいいし……大体あの子に何ができるってゆーの?」


 どうやら女性は理屈ではないらしい。

 捨ててこいと言いたい。言いたいが、言える雰囲気ではない。


「せめて日再の方に引き渡して、里親を探すのはどうだ?」

「それなら私が里親になるわ!」


 麻里奈が高らかに宣言する。


「ね、迷惑は掛けないと思う! この子大人しいし、お利口だし!」

「大人しいはともかく、利口かどうかはまだ解らないだろうが」


 すかさず克己が突っ込む。


「細かい事を気にする男はモテないわよ」

「お前にモテなくても困らないから良い」

「どういう意味よ!」


 譲はあきれながらも、妥協策を口にだした。


「まあしばらく様子をみよう」

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