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日本再興機関ESPセクション ー虚空を超えてー  作者: 島田小里
第3章 菖蒲千鳥

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18.親子の語らい

 日再に到着した譲と千鳥はその足で、防衛官長室へ向かった。

 部屋に入るといつもの配置で、一條圭吾が中央の自席に座り、その両側に陸軍の兵士が立っていた。さすがの千鳥も緊張した面持ちで、譲の隣に立つ。


「で、今回の任務は敵の殲滅は出来ず、撤退されました。報告はこれから纏めるところですが、何の用です?」


 化かし合いに体力を持って行かれるのも馬鹿らしいので、単刀直入に譲は聞いた。その言い方に千鳥が冷や汗をたらしている。

 しかし、それを気にすることもなく一條は言った。


「例の件、良い返事が聞けて良かったよ」


 その言葉に先日のメールを思い出して、譲は嫌そうな顔をした。


「そうですか」

「まだ先になると思うが、よろしく頼む。それはさておき、先日の任務はご苦労だったな。君があんな怪我をするのは初めてじゃないか?」

「ここに来てからは初めてですね」

「以前はあったのかい?」

「馴れているとだけ言っておきますよ」


 とりつく島もない譲に、軽口を叩く一條。目的が解らないのでやりにくいことこの上ない。


「まあ、今日は用があった訳ではないんだ」

「そーですか」


 だったら呼ぶなと言う言葉はかろうじて飲み込んだ。


「海軍大将が娘さんに会いたがっていてね。長く離れるのは初めてだから心配らしい。菖蒲海軍大将も人の親だという事だね」


 クスクス笑って一條は言った。


「申請のあった軽トラも用意出来ている。せっかくだから今日はここに一泊して、明日車で帰ると良い。千鳥ちゃんも、久しぶりにお父さんに会いたいだろう?」

「それは、……はい」


 そう千鳥に言われてしまっては仕方ない。譲と千鳥は本部に一泊することになった。


「それから、今回の任務の報告書はウチの人間が取りに行くことになった」

「いつです?」

「三日後だ。報告書とメディカルチェックの結果、それから能力値の報告もまとめて提出してくれ。全員分だ」

「一式ですね。了解しました」

「連絡は以上だ。それでは良い夜を」

「失礼します」


 2人は揃って防衛官長室を退出した。

 緊張していたのか、千鳥が大きく息をつく。


「海軍大将の部屋は解るか?」

「解るわ」

「行くか」

「譲も来るの?」

「一応挨拶だけはしておかないとだろ。案内してくれ」

「わ、解った」


 意外な譲の一面を見た気がして、千鳥は驚いた。そう歳が変わらなそうな外見だが、中身は大人の人なのを改めて感じて、少し頬が熱くなる。

 それを誤魔化すように、千鳥は歩き始めた。






「ここよ」


 広めのコンパートメントの一室の前で千鳥は足を止めた。そして慣れた様子でノックする。


「誰だ?」

「パパ、私よ」


 千鳥が答えた途端、部屋のドアが開いた。


「千鳥! 今回の任務はどうだったんだ? 無事か?」


 飛んできた政信に聞かれて、そう言えば今回の任務は船が相手だったから、海軍が来ていたなと千鳥は思った。


「怪我一つないわ。それより、私を呼んだのはもしかしてパパ?」

「ああ、そうだ。しばらく会っていなかったのもあって心配でな」

「もう、職権乱用も良いところだわ」

「そう言うな。親ってのはそう言うものなんだ」


 やれやれと千鳥がため息を吐く。と、政信はそこでようやく譲が居ることに気付いた。


「縣君も久し振りだな。前回の任務で大怪我をしたと聞いたが、その後はどうだい?」

「見ての通り、すっかり回復しました。その件ではご心配おかけしてすみません」

「千鳥が酷く落ち込んでいたが、元気そうで何よりだ」

「こちらの不手際で千鳥さんには迷惑をかけてしまいました」

「あれは私の――」

「特殊任務課の行動は、縣君の手腕にかかっているんだ。もう少し自覚を持って貰いたいね」

「おっしゃる通りで」

「まあ、千鳥に怪我は無かったようだからこの話はここまでにしよう。千鳥、泊まっていけるのか?」

「うん」


 政信は嬉しそうに笑った。


「明日の午後3時に駐車場集合でお願いします。それでは、俺はこれで」

「ああ。千鳥をよろしく頼む」

「譲、また明日」


 千鳥が部屋に入ると、ドアが閉まった。

 これで用は全て済んだ。

 譲は息を吐いて、歩き出しながら真維を呼ぶ。


「神崎さんの居場所は解るか?」

『今は第三訓練場に居るわ』

「Thanks」


 譲は第三訓練場へと歩き出した。






「随分親しくなったみたいだな」

「何が?」


 政信の言葉にキョトンとして、千鳥が聞いた。


「縣君の呼び方が変わっただろう?」

「そ、そうね」


 気付かれていたとは思わなくて千鳥は動揺する。ESPセクションでは誰も何も言わなかったのに。


「みんなが名前を呼び捨てにしてるからうつったのよ」

「そうか。最近はどうなんだ? メンバーと仲良くやっているのか?」

「仲良くって、仕事なんだからそれなりよ」


 千鳥はソファーのクッションを抱きしめる。


「でも、一応弱い人でも取り柄はあるし、役に立つ事もあるって気付いたわ」

「それは大きな進歩だな」

「私が守らなきゃいけないしね」

「やっぱり千鳥が一番強いんだな」

「そうよ! ……多分」

「うん? 何かあったのか?」

「あったっていうか……」


 ESPセクションのメンバーの登録されている能力値、それが本当にその数値なのか千鳥は少し疑問を持ち始めていた。けれど、まだ不確かな事だし、政信に話すと大事になりかねない。


「……経験は大事なんだなって思っただけよ」

「そうか。確かに何事も経験は大事だな」


 政信は納得したようで、そのまま端末を起動して、夕食を自室へ二人分運ぶよう連絡をしていた。


「しかし、久し振りに千鳥の顔が見れて良かった」

「毎日通信で話しているじゃない」

「それとこれとは別なんだ。元気そうで安心したよ」

「もう、パパってば、過保護なんだから」


 千鳥は照れて、そっぽを向いた。その様子を政信は嬉しそうに見ていた。






 翌日、千鳥と合流した譲は軽トラを運転して、ESPセクションへと戻ってきた。

 すると、ゲートフロアに迎えにきたのは克己1人だった。特に迎えを要求した訳ではないので、誰もいなくても構わないのだが、3人揃っていないのは珍しい。


「何かあったのか?」


 譲の言葉に、克己はげんなりと答えた。


「あった。驚くぞ」

「そうか」


 はっきり言わないところをみると、見ろという事だろう。譲、千鳥、克己はエレベーターに乗ってテラスへと戻ってきた。

 するとそこには、るいざと麻里奈、それに――。


「赤ん坊?」


 譲は思わず聞いていた。

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