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日本再興機関ESPセクション ー虚空を超えてー  作者: 島田小里
第3章 菖蒲千鳥

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16.緊急任務①

 譲の怪我も治り、通常通りの日常が戻ってきた昼過ぎ、食後のマッタリタイムを満喫していた5人の中央に、不意にウィンドウが開いた。


『緊急の連絡よ』


 真維が告げる。譲は持っていたマグカップを置くと、メールウィンドウを開いた。


「任務?」


 麻里奈が聞くと、譲は頷いた。


「お台場にアメリカ連合軍が上陸したらしい」

「またアメリカ連合軍か」


 克己が呆れたように言うと、譲はウィンドウを操作しながら淡々と答えた。


「日本の領土を狙ってるんだろ。日本は小国だからな。中華統一軍への足掛かりにもちょうど良いし」

「このご時世、小国で単独な国なんてそんなに無いもんな」


 克己がそう言うと、千鳥が不安そうに譲に聞いた。


「今回の任務内容は?」

「今回は敵の殲滅だそうだ。生死は問わないらしいから、思い切り暴れられるぞ」

「過激ね」


 るいざが呆れたように言う。


「規模は前回より大きめらしいが、そこまでじゃないらしい。ただ、敵にESP持ちが居るらしい」

「それでこっちに回ってきたのね」

「そう言うこと」

「て言うか、単純な疑問なんだけど、日再の軍は何してるわけ?」


 克己の疑問に譲はため息を吐いてウィンドウを閉じた。


「人数が少なすぎて余り機能していないんだ。それでも普通に攻めてくれば迎撃システムが作動するんだが、今回は突然、船が現れたらしい」

「それって」

「敵のテレポーテーション持ちが、船ごと警戒範囲の外から飛んできた事になるな」

「すげ……」


 ここにいるメンバーの中では、克己が一番テレポーテーションが得意だが、さすがにそんなに大きな質量を持つものを、長距離移動は出来ない。


「そいつがまだ居るのかも不明だし、他にもESP持ちが居るかも不明だ。だから今回の任務は、『敵の殲滅』なんだ」

「なるほどね。こりゃ結構難易度高めの任務だな」

「ああ」


 譲の肯定に、4人は口をつぐむ。遂行できるか解らない任務に、緊張が走る。

 そんな中、譲は足を組んだ姿勢のままテーブルに肘をついて、指でトントンとテーブルを叩いて何か考えているようだった。

 良い作戦でも思い付いて欲しいと、4人はじっと譲を見つめる。

 と、譲がもう一度ウィンドウを開いた。今度は全員に見える方向で。

 そのウィンドウにはお台場の地図と、船の場所が示されている。


「今回は分が悪い。殲滅よりお引き取り願う方向で行こう」


 コクリと4人が頷く。


「通信機器もテレパシーも傍受されてると考えて、敢えて併用する。克己、るいざ、千鳥のチームと、俺と麻里奈のチームに別れて行こう」


 そう言うと譲は船の近くを指差した。


「このあたりが敵のド真ん中になるはずだ。そこに一旦5人で飛ぶ」

「ド真ん中に!?」

「一般兵相手なら怖くはないからな。一気に船に飛んでも良いんだが、ESP妨害装置が起動していて船が沈んだ場合の巻き込まれ事故が怖いからな」

「あー、あったなぁ、そんな装置」


 克己が思い出したように言うと、るいざが不安そうに聞いた。


「ド真ん中にそれがあったらどうするの?」

「予想では一応、俺が壊せる。トレーニングでPKを強化していたからな。それと、克己のシールドは向こうの出力を上回るハズだ。向こうがバカみたいに出力が高い装置を作り上げて居なければ、だがな」

「克己のシールドを上回るのは、確かに難しそうね」

「で、飛んだら麻里奈は妨害装置を探せ。俺が片っ端から破壊する」

「はーい」

「千鳥は、船を沈めろ。くれぐれも近付きすぎるなよ。3人纏まって行動しろ。克己とるいざはバックアップ。それと、るいざはテレパシーで敵のESP持ちも探すように。攻撃してくるなら反撃していいが、深追いはしないように。克己がリーダーで状況判断しろ。困ったら俺に聞け」

「OK」

「一般兵はどうするの?」

「邪魔なら倒す。それ以外は放置の方向で」

「了解」

「準備が出来次第出発する。ゲートフロア集合で」

「了解!」


 そう言うと、5人はそれぞれ準備を始めた。






 10分程で、5人全員がゲートフロアに集合した。


「それじゃ、行くぞ」

「OK」

「Ready Go!」


 克己の力だと5人で飛べる距離は限られてくる。数回に分けて飛んで、予定通り敵のド真ん中へ出る。


「作戦開始!」


 克己とるいざと千鳥は船の方へと走り出す。

 敵もまさかド真ん中に日本軍が来るとは思わなかったようで、中央付近は完全に気かゆるんでいた。

 麻里奈が妨害装置らしきものを探す間に、譲が目に付いた敵兵を片っ端から薙ぎ倒していく。お陰で中央はガラガラだ。


「譲、妨害装置あった! 座標で解る?」

「いや、それより――ちょっと頭を覗くぞ」

「へ?」


 譲が麻里奈の手を取る。その瞬間何かが麻里奈の精神を撫でたような、なんとも言えないざらりとしたような感触がする。その次の瞬間、妨害装置は全て爆発した。


「何、今の!?」

「テレパシーと透視の応用。それより他にないかと、克己たちの様子も見ておけ」

「あ、はーい」


 実践でいきなり説明もなしに新しいことをしないで欲しいと麻里奈は思った。とりあえず心臓に悪い。






 一方、船へ向かった3人は警備の兵に阻まれて、思うように進めていなかった。


「シールドで無理矢理突っ切るか?」

「そうね。妨害装置も破壊されたみたいだし、一気に穴を空けるくらいならいけるんじゃない?」


 克己とるいざの台詞に、千鳥が難色を示す。


「でもこの包囲網だと、シールドの強度を越えていない?」

「いや? 余裕」

「え?」


 千鳥が見た克己のシールドの強さは、千鳥よりも弱かったはず。今は千鳥もシールドを展開しているから敵が何を使っても大丈夫だが、千鳥がPKに回るとシールドは克己1人になる。それだとシールドの強度が足りないはずだ。なのに、克己は軽く余裕だと言う。そしてるいざもそれについて疑っては居ない。


「よし、行くか!」


 言葉と同時に飛び出した克己を追って、るいざと千鳥が走る。千鳥はそっとシールドをオフにしてみた。が、克己の言ったとおり、シールドには何の問題も無い。


「一体どういうことなの?」


 小さく呟いた千鳥の言葉は、誰の耳にも届かなかった。

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