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日本再興機関ESPセクション ー虚空を超えてー  作者: 島田小里
第3章 菖蒲千鳥

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15.千鳥の変化

 千鳥の態度が変わった。

 先日の一件以来、千鳥の態度が少しずつだが、明らかに変化したのだ。


「何アレ。後追い?」


 克己が呆れてそう言う。雛が最初に見たものを親だと思うように、そのくらい最近の千鳥は、回復した譲の後をついて回っていた。


「後追いなら良いけどね」


 るいざがその様子を見て言う。そう、後追いなら問題は無いのだ。だが、今の千鳥は雛と言うより――。


「譲も何したんだか」

「何気に譲も人たらしよね」


 克己とるいざが頷き合う。


「変にこじれなきゃ良いけど」


 麻里奈の言葉に、克己が驚いて言った。


「まさかお前からそんな台詞が出るとは」

「それどういう意味よ!」


 憤慨する麻里奈に、克己が何か言うより前に、るいざが口を開いた。


「本人はまだ自覚無いみたいなのがね」

「そのせいで、譲も突き放しあぐねてるな」


 まだ後追いレベルなのと、病み上がりで譲も行動が制限されているため、はっきりしないのだ。






 大方回復した譲は、絶対安静を解除され、医務室から部屋に戻っていた。が、まだ深い傷は治りきっていないため、ベッドの上に居ることが多い。部屋から出るのは食事と他メンバーのトレーニングの時くらいだ。

 その食事に、千鳥が姿を見せることが増えた。まだるいざの料理ではなく、コンビニの食事を持ってきているが、食べるときは一緒に食べるようになった。会話も譲だけでなく、少しずつだがみんなとするようになった。そして、他のメンバーのトレーニングを譲と一緒に見たり、譲が居ない時は自主トレに励んだりと、以前とは違い努力している姿が垣間見える。その点だけ挙げれば良い変化と言えるだろう。

 しかし、千鳥の視線に一番気付いていたのは譲だった。吊り橋効果か、何が原因かわからないが、そしてまだどちらに転ぶかも解らないが、千鳥が譲に懐いたことだけは確かである。

 譲はベッドの上でため息を吐いて、真維を呼び出した。


『お疲れね』

「ああ」

『譲は恋愛は苦手だものね』

「……不確かなモノは嫌いだ」

『私は?』

「真維は特別だ」

『光栄ね。でも私はあくまでもプログラムよ。もう、譲と一緒に生きている訳じゃない』

「……解ってる」


 譲はキツく拳を握り締めて、目の上に当てた。


「少し寝る」

『そう? 良い夢を。おやすみ』


 真維は譲にとって都合の良い言葉ばかりを返してくれる訳ではない。解っていても、こたえる時はこたえるのだ。

 千鳥の後追いが、思いの外、譲には苦痛だった。元々1人で居る方が楽なタイプの人間だ。その点、他のメンバーは距離を保って接してくれているのでありがたいのだが。


「面倒くさい……」


 寝ようとしても、あれこれ思考が巡り、寝付けそうに無かった。






 トレーニングルームで克己がトレーニングをしていると、そこに千鳥が現れた。


「トレーニングか?」

「そうよ」

「あれ以来熱心だな。無茶はするなよ?」

「気を付ける」


 そう言った千鳥は、トレーニングと言いつつも部屋を出て行く気配はない。むしろ、何か言いたそうにしている。


「もしかして、この部屋使いたいのか?」


 トレーニングルームは3部屋あるが、一番広くて設備が整っているのが今居る第1トレーニングルームである。克己にしてみればどこでも大差無いと思っているが、千鳥にはこだわりがあるのかと思い聞くと、千鳥は慌てて否定した。


「違うわよ! そうじゃなくてっ」

「じゃ、俺に何か用か?」

「違っ…………わ、ない」


 勢いで否定しかけた千鳥だったが、覚悟を決めたように大きく息を吸って克己に言った。


「貴方、シールドが得意よね? 良かったら、コツを教えて欲しいんだけど……」

「コツ」

「無理にじゃないの。良かったらでいいんだけど……」


 克己は驚きに目を見開いたまま、心の中で思った。

 これは大進歩だ、と。

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