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日本再興機関ESPセクション ー虚空を超えてー  作者: 島田小里
第3章 菖蒲千鳥

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8.本部への呼び出し

 数日、平和なトレーニングの日々が続いたある日の朝、譲が言った。


「今日はフリーだ」

「珍しいな」

「何かあったの?」


 克己とるいざが聞くと、譲はため息を吐いた。


「また本部から呼び出しを受けてな。面倒くさい」

「おい、本音が漏れてるぞ」

「特に隠すことでもないだろ」


 付き合いも長くなってきたせいか、譲も大分打ち解けてきたように思う。まだ秘密主義な部分と人嫌いが完全に消え去った訳ではないが、少しずつ変化はしていると克己は思っている。


「また任務があるのかな?」


 麻里奈が聞いた。


「その可能性は高いな。あとは千鳥関係だろ」

「いつ戻るの?」


 今度はるいざが聞いた。こちらは食事の関係で聞いたのだろう。


「今日は戻らない。明日か明後日か、わからないから食事は気にしなくて良い」

「わかったわ」

「なんでいつもそんなに曖昧なんだ?」


 単純に気になって克己が聞いた。


「そりゃ、本部でやることが色々あるからだな。どうせ行かないといけないなら、ついでに溜まっている用事も済ませたいだろ?」

「ためてるのかよ」

「いつでも良いヤツはな」


 しれっと言う譲に、克己は呆れたような顔をした。






 本部の駐車場へ車を止めて、警備を顔パスで通過して本部に入る。


「さて、まずは呼び出しだな」


 譲はかつて知ったる廊下を迷わず歩いていく。特殊能力課を立ち上げるまでのしばらくの間、ここで生活していたから今更迷うこともなく、目的地に到着する。

 譲は特に緊張する事もなく、防衛官長室の扉をノックした。


「入れ」

「失礼します」


 扉を開けて中に入ると、そこには防衛官長である一條(いちじょう)圭吾(けいご)が自席に座り、その両側にはボディガード替わりの陸軍の兵士が立っていた。その兵士にジロリと睨みつけられるが気にすることもなく、譲は前へ進んだ。


「呼び出しを受けて来ましたが、何の用でしょう?」


 一応は丁寧な言葉遣いであるが、雑な敬語を気にした風もなく、一條は口を開いた。


「君は相変わらずだな」

「変わる必要性を感じないので」


 軽口の返答に兵士達は眉をひそめたが、一條は愉快そうに笑った。一條はその地位の高さにしては若く、まだ32歳である。そして、譲と同じ旧日本軍に親を持つ、いわゆる二世である。そのせいか、譲に対する態度も他の者より好意的である。ただ、腹の底で何を考えているかはわからないが。


「そうか。まあ、それはいい。今日呼んだのは他でもない。1つ、特殊能力課へ依頼したい任務があるんだ」


 一條は早速本題へ入る。


「君はSSSblueを知っているかい?」

「確か、反日再を掲げるレジスタンス組織ですよね?」

「その通りだ。彼等がどうやらこちらへ拠点を増やそうとしているらしい」

「彼等の本拠地は富士でしたね。対日再の足掛かりを作りたいところですか」

「そのようだ。そこで、特殊能力課に調査を依頼する」

「場所は解っているんですか?」

「スカイツリー跡地だ」

「そこまで解っていて、敢えてウチに命令する理由は?」

「菖蒲海軍大将の娘がいるだろう?」

「居ますが、調査には不向きの能力ですよ?」

「彼女のトレーニングの成果を示すように、というのが軍からの要望だ」

「……」

「今回の任務は君と彼女の2名で行うように。解っていると思うが、これは確認じゃない。命令だ」


 一條は譲に笑みながら告げた。だが、その目は笑っていない。

 これは面倒な事になったと、譲はため息を吐いて承諾の返事をした。


「わかりました」






 話を終えた譲は、その足で神崎の部屋へと向かった。事前にスケジュールは確認済みで、この時間なら自室に居るはずである。

 ノックもせずにPKを乱用し、内側から鍵を開けて中に入る。しかし、気配を察したのか特に驚きもせずに神崎は譲を見た。


「久々にしては、ずいぶんな面構えだな」

「一條と話して疲れたんだ」

「化かし合いでもしたか?」

「そこまではしていないが、疲れた」


 珍しく素直に弱音を吐く譲は、神崎のベッドへと腰掛けた。1人部屋のここは、椅子は神崎が座っている1つしかない。


「稽古をする予定だったが、明日にするか?」

「あんたのスケジュールが平気ならそうしたい」

「俺はかまわんよ。夕食はどうする?」

「それより休みたい」


 そう言って譲は、神崎のベッドへ転がる。

 そのまま眠るのかと思った譲だが、その手が神崎の服を引っ張る。苦笑して神崎は、椅子から立ち上がりベッドへと腰掛けた。


「どういう意味のご休憩だ?」

「解ってるクセに」

「女王様の仰せのままに」


神崎は譲の顔の横に手を付き、部屋の明かりを落とした。

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