5.宝探し
朝食を4人で食べていると、不意に譲が言った。
「今日のトレーニングは、3人でやるぞ」
「へぇ、珍しい」
「克己は楽かもしれないが、るいざはハードかもな」
「ええ……」
るいざが不安そうな声を上げる。
「私は?」
「麻里奈は、運が良ければ楽だが、悪ければ大変だな」
「なにそれ?」
キョトンとする麻里奈を放置して、克己が聞いた。
「で、なにやんの?」
「チェックポイントがある宝探しだ」
「宝探し?」
「なにそれ楽しそう」
麻里奈がウキウキしながら身を乗り出す。
「麻里奈と克己でチェックポイントを通過していって、ゴールまで辿り着く」
「私は?」
「るいざは司令塔兼連絡係。俺と雷電のトレーニングをしながらな」
「えぇ……」
「ちなみに、真維が張り切ってるから、施設内のどこにチェックポイントがあるかは俺も知らない。それを麻里奈が探し出して、克己はその位置へ飛ぶ。随時るいざに連絡は入れるように」
「探す範囲が広すぎるわよ!」
「るいざの予知も使って良いぞ」
「実践で役に立つほど使えないって知ってるくせに」
るいざが不満そうにそう言った。
と、そこにトレードマークのポニーテールを揺らして千鳥が現れた。
「今日のトレーニングが自主トレってどういう事よ? それに、トレーニングルームも第2なのは納得いかない!」
「今日は第1はるいざが使うから、千鳥は第2だ。不満があるなら第3でも良いぞ」
「はぁ!?」
「それと、今日はこっちの3人のトレーニングにかかりきりになるから、ひとまず真維の作った自主トレプランを試して欲しい。後で感想を聞くから手は抜かないようにな」
「抜かないわよ!」
千鳥はじろりと麻里奈、克己、るいざを睨むと、ため息をついた。
「自主トレの件は了解したわ。弱い人たちが早く使えるようになった方がいいものね。トレーニングルームをそこの家政婦さんが使うのは納得いかないけど、今日のところは我慢してあげる。その代わり、ちゃんと成果を出しなさいよね」
言うだけ言うと、千鳥はトレーニングルームへ向かっていった。
その態度に麻里奈が今にもキレそうになっている。
「私、あの子とは仲良くできなそうだわ!」
「まあまあ。あの年齢で1人で頑張ってるんだもの。大目に見てあげましょうよ」
それを宥めるようにるいざが言うと、克己も不服そうにるいざに言った。
「一番こき下ろされてるのはるいざなんだぜ? なんでそんなに冷静なんだよ?」
「いや、だって、あの子の言うことも一理あるなと思って」
「るいざは自分のこと、過小評価しすぎよ!」
「その通りだ! るいざも戦力になってるんだからな!」
怒らないるいざの代わりに、麻里奈と克己が憤慨する。
それをスルーし、譲は食事を終えた。
「そう言えば、宝探しという名目上、ゴール出来たら報酬がある」
「え、報酬!?」
麻里奈がコロッと態度を変えて、譲を見た。
「報酬って何?何?」
「秘密だ。やる前に解ったら面白みが無いだろ」
「それもそうだな」
克己も目を輝かせてやる気になっている。
「何時からスタート?」
「10時スタート。昼休憩は適宜。終了は16時だ」
「それまでにゴールすれば良いってことね」
克己は残っていたコーヒーを飲み干すと、使った食器を下げ始める。
「先に自主トレしてるわ」
「待ってよ、私も行く」
「お先~」
まだデザートを食べている麻里奈を置いて、克己はトレーニングルームへと走っていった。
それを見送って、片付けを始めながらるいざは聞いた。
「ねえ譲、司令塔って何をするの? 連絡貰うだけじゃないわよね?」
「もちろん。チェックポイントの場所を予知することになる」
「え、それって責任重大なんじゃ」
「それに、雷電のトレーニングをしつつやることになるからかなりハードだぞ」
「ええ~……」
るいざは情けない声を出した。
9時50分頃、4人はトレーニングルームに集合していた。
「そう言えば、チェックポイントってどんな形なんだ?」
克己が聞くと、譲はウィンドウにチェックポイントを映した。数字の入ったパネルのような物がクルクルと回っている。
「物じゃなく、ホログラムだ。番号が書いてあって、触れると消えて、次の番号が出現する。ちなみにゴールは10番だ」
「私がそれを見つけて、克己とテレポーテーションで飛べば良いのね。簡単そう」
麻里奈が安直に喜ぶが、克己は険しい顔をした。
「いや、逆に難しいかもしれない。この広い施設内のどこにあるか分からないんだ。探すのに骨が折れそうだ」
「言われてみれば。でも、そんな時のためにるいざがいるのよね?」
「ごめん、私の予知はそんなに便利に使いこなせないわ」
申し訳無さそうに言ったるいざに、更に譲が言った。
「それに、るいざはここで動物相手に雷電の練習もしながらだ。集中は出来ないと思った方が良い」
「え、雷電の敵って動物なの?」
「そのつもりだけど?」
「なんか、可哀想だから他の物にならない?」
「じゃあ人間」
「余計に躊躇うわ!」
「実践に近くて良いと思ったんだが。なら、ゲームみたいにゾンビにしよう」
「げ」
3人がハモったが、譲の中では既に決定事項らしい。なにやらウィンドウを操作して、トレーニングルーム内に遺跡のような物を作り出す。
「ここで向かってくるゾンビを雷電で倒しつつ、合間に予知でチェックポイントを探して、麻里奈と克己に指令を出す」
「無理~!!」
「で、麻里奈は透視で気合いで探せ。近くに行けば分かりやすいだろうから、克己も何度も飛ぶことになるだろうが頑張れ」
「ヘビーだ……」
「ついでにこの施設の広さだと、るいざのテレパシーは届かない場合もある。その時は2人で協力してなんとかするように」
「ガチでヤバいトレーニングだった……」
既に3人ともげんなりしている。
譲だけはいつも通り、ウィンドウをいくつか開いて平行作業をしている。こいつの頭はいったいどうなっているのか。
「最初のチェックポイントに向かうまでは安全にしてやるから、まずは1番を探すといい」
このままうろたえていても、時間が減っていくばかりだ。3人は頷きあって、るいざは目を閉じ集中した。
暗闇になった視界に、ふっと景色が浮かぶ。
「……多分、住居ブロック。何階かまでは解らないけど、3階ではないはず。すみっことかでも無さそう」
「それだけ分かれば上等」
「後は私が気合いで探すわ!」
そう言うと、克己は麻里奈を連れてテレポーテーションの準備に入る。
譲が、ウィンドウの一つのスタートボタンを押した。
「スタート」
譲の声と同時に消える2人。そして、遠くから聞こえてくるうなり声。
「うう……、ゾンビやだよう」
「なら近づく前に倒せばいい」
「簡単に言って……」
「ほら、見えたぞ」
言われた方向を見ると包帯を纏ったゾンビが居た。るいざは反射的に雷電を放った。が、焦って強さの調整が巧くできない。
「その出力だと終わりまで持たないぞ」
「わかってる!」
集中して、強さの調節もして、近づく前に倒す。るいざが集中したのを見て、譲は邪魔にならないよう、コントロールルームへテレポーテーションした。
一方、1番のチェックポイントを探す2人は、初っ端から難航していた。理由は真維の造るグラフィックにある。住居ブロックは各階テーマに沿った世界観になっていて、かつ、全フロア構造が違う。つまり、見慣れない土地で探し物をするようなものである。そして物というか、自然も多く、視界は悪い。これは部屋のプライベート空間を大切にするためなのだが、今はそれが難易度を上げていた。
「え~、なんで見つからないの!?」
「俺も走って探すか?」
「それも1つの手ではあるけど、見つかっても知らせる術が無いのが……」
テレパシーはからっきしな2人だった。
「でも、時間はあるわけだし、もう一度ちゃんと見てみる!」
「頼んだ!」
こういう状況が実践だと多いのだろうことは、克己にも容易に知れた。そう考えると、相変わらず譲はすごいという月並みな感想しか出てこない訳だが。
と、麻里奈が叫んだ。
「あった!」
「でかした!」
「1階の奥の施設の左手の小路を少し行った所」
「OK」
克己は麻里奈をつれて飛んだ。




