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日本再興機関ESPセクション ー虚空を超えてー  作者: 島田小里
第3章 菖蒲千鳥

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5.宝探し

 朝食を4人で食べていると、不意に譲が言った。


「今日のトレーニングは、3人でやるぞ」

「へぇ、珍しい」

「克己は楽かもしれないが、るいざはハードかもな」

「ええ……」


 るいざが不安そうな声を上げる。


「私は?」

「麻里奈は、運が良ければ楽だが、悪ければ大変だな」

「なにそれ?」


 キョトンとする麻里奈を放置して、克己が聞いた。


「で、なにやんの?」

「チェックポイントがある宝探しだ」

「宝探し?」

「なにそれ楽しそう」


 麻里奈がウキウキしながら身を乗り出す。


「麻里奈と克己でチェックポイントを通過していって、ゴールまで辿り着く」

「私は?」

「るいざは司令塔兼連絡係。俺と雷電のトレーニングをしながらな」

「えぇ……」

「ちなみに、真維が張り切ってるから、施設内のどこにチェックポイントがあるかは俺も知らない。それを麻里奈が探し出して、克己はその位置へ飛ぶ。随時るいざに連絡は入れるように」

「探す範囲が広すぎるわよ!」

「るいざの予知も使って良いぞ」

「実践で役に立つほど使えないって知ってるくせに」


 るいざが不満そうにそう言った。

 と、そこにトレードマークのポニーテールを揺らして千鳥が現れた。


「今日のトレーニングが自主トレってどういう事よ? それに、トレーニングルームも第2なのは納得いかない!」

「今日は第1はるいざが使うから、千鳥は第2だ。不満があるなら第3でも良いぞ」

「はぁ!?」

「それと、今日はこっちの3人のトレーニングにかかりきりになるから、ひとまず真維の作った自主トレプランを試して欲しい。後で感想を聞くから手は抜かないようにな」

「抜かないわよ!」


 千鳥はじろりと麻里奈、克己、るいざを睨むと、ため息をついた。


「自主トレの件は了解したわ。弱い人たちが早く使えるようになった方がいいものね。トレーニングルームをそこの家政婦さんが使うのは納得いかないけど、今日のところは我慢してあげる。その代わり、ちゃんと成果を出しなさいよね」


 言うだけ言うと、千鳥はトレーニングルームへ向かっていった。

 その態度に麻里奈が今にもキレそうになっている。


「私、あの子とは仲良くできなそうだわ!」

「まあまあ。あの年齢で1人で頑張ってるんだもの。大目に見てあげましょうよ」


 それを宥めるようにるいざが言うと、克己も不服そうにるいざに言った。


「一番こき下ろされてるのはるいざなんだぜ? なんでそんなに冷静なんだよ?」

「いや、だって、あの子の言うことも一理あるなと思って」

「るいざは自分のこと、過小評価しすぎよ!」

「その通りだ! るいざも戦力になってるんだからな!」


 怒らないるいざの代わりに、麻里奈と克己が憤慨する。

 それをスルーし、譲は食事を終えた。


「そう言えば、宝探しという名目上、ゴール出来たら報酬がある」

「え、報酬!?」


 麻里奈がコロッと態度を変えて、譲を見た。


「報酬って何?何?」

「秘密だ。やる前に解ったら面白みが無いだろ」

「それもそうだな」


 克己も目を輝かせてやる気になっている。


「何時からスタート?」

「10時スタート。昼休憩は適宜。終了は16時だ」

「それまでにゴールすれば良いってことね」


 克己は残っていたコーヒーを飲み干すと、使った食器を下げ始める。


「先に自主トレしてるわ」

「待ってよ、私も行く」

「お先~」


 まだデザートを食べている麻里奈を置いて、克己はトレーニングルームへと走っていった。

 それを見送って、片付けを始めながらるいざは聞いた。


「ねえ譲、司令塔って何をするの? 連絡貰うだけじゃないわよね?」

「もちろん。チェックポイントの場所を予知することになる」

「え、それって責任重大なんじゃ」

「それに、雷電のトレーニングをしつつやることになるからかなりハードだぞ」

「ええ~……」


 るいざは情けない声を出した。






 9時50分頃、4人はトレーニングルームに集合していた。


「そう言えば、チェックポイントってどんな形なんだ?」


 克己が聞くと、譲はウィンドウにチェックポイントを映した。数字の入ったパネルのような物がクルクルと回っている。


「物じゃなく、ホログラムだ。番号が書いてあって、触れると消えて、次の番号が出現する。ちなみにゴールは10番だ」

「私がそれを見つけて、克己とテレポーテーションで飛べば良いのね。簡単そう」


 麻里奈が安直に喜ぶが、克己は険しい顔をした。


「いや、逆に難しいかもしれない。この広い施設内のどこにあるか分からないんだ。探すのに骨が折れそうだ」

「言われてみれば。でも、そんな時のためにるいざがいるのよね?」

「ごめん、私の予知はそんなに便利に使いこなせないわ」


 申し訳無さそうに言ったるいざに、更に譲が言った。


「それに、るいざはここで動物相手に雷電の練習もしながらだ。集中は出来ないと思った方が良い」

「え、雷電の敵って動物なの?」

「そのつもりだけど?」

「なんか、可哀想だから他の物にならない?」

「じゃあ人間」

「余計に躊躇うわ!」

「実践に近くて良いと思ったんだが。なら、ゲームみたいにゾンビにしよう」

「げ」


 3人がハモったが、譲の中では既に決定事項らしい。なにやらウィンドウを操作して、トレーニングルーム内に遺跡のような物を作り出す。


「ここで向かってくるゾンビを雷電で倒しつつ、合間に予知でチェックポイントを探して、麻里奈と克己に指令を出す」

「無理~!!」

「で、麻里奈は透視で気合いで探せ。近くに行けば分かりやすいだろうから、克己も何度も飛ぶことになるだろうが頑張れ」

「ヘビーだ……」

「ついでにこの施設の広さだと、るいざのテレパシーは届かない場合もある。その時は2人で協力してなんとかするように」

「ガチでヤバいトレーニングだった……」


 既に3人ともげんなりしている。

 譲だけはいつも通り、ウィンドウをいくつか開いて平行作業をしている。こいつの頭はいったいどうなっているのか。


「最初のチェックポイントに向かうまでは安全にしてやるから、まずは1番を探すといい」


 このままうろたえていても、時間が減っていくばかりだ。3人は頷きあって、るいざは目を閉じ集中した。

 暗闇になった視界に、ふっと景色が浮かぶ。


「……多分、住居ブロック。何階かまでは解らないけど、3階ではないはず。すみっことかでも無さそう」

「それだけ分かれば上等」

「後は私が気合いで探すわ!」


 そう言うと、克己は麻里奈を連れてテレポーテーションの準備に入る。

 譲が、ウィンドウの一つのスタートボタンを押した。


「スタート」


 譲の声と同時に消える2人。そして、遠くから聞こえてくるうなり声。


「うう……、ゾンビやだよう」

「なら近づく前に倒せばいい」

「簡単に言って……」

「ほら、見えたぞ」


 言われた方向を見ると包帯を纏ったゾンビが居た。るいざは反射的に雷電を放った。が、焦って強さの調整が巧くできない。


「その出力だと終わりまで持たないぞ」

「わかってる!」


 集中して、強さの調節もして、近づく前に倒す。るいざが集中したのを見て、譲は邪魔にならないよう、コントロールルームへテレポーテーションした。






 一方、1番のチェックポイントを探す2人は、初っ端から難航していた。理由は真維の造るグラフィックにある。住居ブロックは各階テーマに沿った世界観になっていて、かつ、全フロア構造が違う。つまり、見慣れない土地で探し物をするようなものである。そして物というか、自然も多く、視界は悪い。これは部屋のプライベート空間を大切にするためなのだが、今はそれが難易度を上げていた。


「え~、なんで見つからないの!?」

「俺も走って探すか?」

「それも1つの手ではあるけど、見つかっても知らせる術が無いのが……」


 テレパシーはからっきしな2人だった。


「でも、時間はあるわけだし、もう一度ちゃんと見てみる!」

「頼んだ!」


 こういう状況が実践だと多いのだろうことは、克己にも容易に知れた。そう考えると、相変わらず譲はすごいという月並みな感想しか出てこない訳だが。

 と、麻里奈が叫んだ。


「あった!」

「でかした!」

「1階の奥の施設の左手の小路を少し行った所」

「OK」


 克己は麻里奈をつれて飛んだ。

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