2.菖蒲千鳥
譲が先導して、5人は一旦いつものテラスに下りた。
「さて、自己紹介だが……」
「いりません。資料は見てきたから」
譲の言葉を千鳥が遮る。さっきまでとは態度が違う。先程も悪かったが、更に悪い。どうやら一応親の手前、多少は猫を被っていたようだ。
千鳥は、まず譲を見た。
「あなたが縣譲、ここの所長兼特殊能力課長。私と同じPK持ち。でも力は私の半分くらい。メインコンピューター『真維』の設計の為と、コネでその地位にいる」
「ちょっとアンタっ……」
余りの言い草に麻里奈が文句を言いかけるが、譲に止められる。
千鳥は、今度は麻里奈をチラリと見た。
「柚木麻里奈、透視と発火能力持ち。年齢の割に随分子どもっぽいのね」
「子どもに子どもっぽいって言われたー!」
飛びかかりそうになる麻里奈を、克己がなんとか捕まえる。
すると、千鳥の視線は克己に移る。
「佐々木Jr.克己、テレポーテーション、防護壁、植物を操る能力持ち。まぁ、まだ使える方の能力ね。ただし、国籍は二重国籍で信用度には疑問が残る」
「……随分な言い草ね」
珍しくるいざが怒りをあらわにする。と、今度は千鳥はるいざに視線をやった。
「来瀬るいざ、予知とテレパシーと雷電能力持ち。この基地の生活面担当。家政婦みたいなもの」
るいざの顔色がさっと変わる。
「いい加減にしなさいよ、アンタ!」
克己に抑えられたまま、麻里奈が怒鳴った。一応麻里奈を制止している克己も、手を離そうかと思う程度には、はらわたが煮えくり返っている。
しかし、そんな3人をよそに、譲はいたって普段通りに千鳥に話し掛けた。
「こちらを把握しているのは解った。で、今度はそっちの自己紹介をして欲しいんだが?」
「はぁ? 資料見てないの?」
「本人の口から聞く方が楽だからな」
しれっとした譲の言葉に千鳥は、呆れた目を向けた。
「こんな人が上司とか信じらんない。私は菖蒲千鳥。14歳。父親は海軍大将。能力はPKとシールド。戦闘特化ってところね。生活全般は1人で出来るからあなたたちの手は借りない。弱い人たちと馴れ合うつもりはないから」
「解った」
「それから、基地の案内も要らない。部屋の場所とトレーニングルームだけ教えてくれればそれでいい」
「了解。なら住居ブロック2階の好きな部屋にするといい。こっちだ」
譲に案内されて千鳥は、住居ブロックに向かった。
2人の姿が見えなくなってようやく、克己は麻里奈を放した。
「なんで止めるのよ!?」
「さすがに大人気ないだろ。って言っても、凄いキャラだな。るいざ、平気か?」
「あ、うん……。実際、私は家政婦みたいなものだし、平気」
「これはダメそうよ……」
麻里奈の言葉に、ポンとはじめまで姿を現して、るいざの頭を撫でている。まあ、触れられはしないのだが。
「良い子良い子。るいざは家政婦なんかじゃないからね」
「譲も譲だぜ。何でなにも言わないんだよ。海軍大将の娘だからって、そんな事気にするヤツでもないくせに」
「ホントよ! 普段の横柄な態度はどこに行ったのよ! だいたい、年長者に向かってあの態度は何なの!?」
「お前、それお前にも当てはまる」
「一歳差なんて誤差よ!」
「ああそう……」
「克己の国籍の事だって、どうでも良いじゃない!」
ギャンギャン文句を言う麻里奈に、少し落ち着き始めた克己が椅子に腰を下ろした。
「国籍の話はしゃーないって。大戦はそのせいで参加出来なかったんだから。今はマシな方だ」
「だからってあんな言い方! 克己の事を良く知りもしないクセに失礼だわ!」
「そうよね、その通りだわ!」
急にるいざが復活して話に加わる。
「そうだ! あの千鳥って子の情報が共有にのってるんじゃない? 見てみようよ」
麻里奈が思い付いて、ウィンドウを開いた。
そして、共有フォルダーの中から千鳥の情報を見つけて開く。
「わお」
「すご……」
「わぁ」
まずはと開いた能力値はかなり高い数値を叩き出している。
「ま、まあでも、これ本部で測った数値でしょ? ここで測ったら少し違うかも!」
「そうだな。真維の測定方法と本部の測定方法は違うから一概には比べられないけど、言うだけはありそうだな」
「そうね。本人は自信ありげだったし……。しかも、バランスの良い能力持ちよね」
「常識と礼儀は無いけどね」
と、そこにちょうど譲が戻ってきた。
噛みつく勢いで麻里奈が問い詰める。
「何なのよ、あの子!? 譲も何で注意しないの!?」
すると譲は表情1つ変えずに言った。
「お前らは本部に行ったことが無いからな。あっちに行くとこんなもんじゃないぞ。あんなのかわいいモンだ」
「ええ……」
日再の闇を感じて、引く3人だった。
500PVありがとうございます!




