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日本再興機関ESPセクション ー虚空を超えてー  作者: 島田小里
第3章 菖蒲千鳥

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1.事前工作と新人

「よし、これで今日のトレーニングは終了だ」

「え、もう?」


 譲の言葉に3人が驚く。

 それもそのはず、時刻はまだ10時である。トレーニングを始めて一時間しか経っていない。

 だが、譲は本当に終わりにする気らしく、展開していたウィンドウを閉じている。


「あとは自主練。けど、無理にじゃない。3時まで自由時間だ」

「ああ、新人が来るんだっけ?」


 克己の言葉に譲が頷く。


「3時に到着予定だ。その時間にはゲートフロアに居てくれ」

「OK」

「了解」

「はーい」


 譲の言葉に三者三様の返事が返る。

 と、ふと思い出したように譲はポケットから小さな箱を取り出した。


「るいざ、鍵」

「あ、ありがとう」


 箱を受け取り中身を見ると、リクエストした通り、天然石を編み込んだデザインのブレスレットが入っていた。


「るいざも鍵のデザイン変更する事にしたのか」

「うん。はじめさんのことが心配だったけど、それも平気になったしね」


 るいざは嬉しそうにブレスレットをつけてみる。見た目から、紐で編み込んだ物かと思ったがどうやら特殊な金属で出来ているらしく、腕にはめると滑り落ちない大きさに自動で調整された。かといってピッタリでもなくやや余裕もあり、苦しさは感じない。


「俺のピアスもだけど、不思議な金属だな」

「普通の金属だと、危険だからな。特にるいざは雷電を使うわけだし」

「あ、そっか」


 確かに普通の金属で、電気を通したらあっという間に壊れてしまうし、本人も怪我をしてしまうだろう。


「ブレスレットも可愛くて良いなぁ」

「俺も金具部分に天然石はめて貰おうかな」

「ありがとう、譲。気に入ったわ」

「どういたしまして。そう言や、るいざ、俺昼飯要らないから」

「え、私の料理に飽きた?」

「いや、新人が来るだろ?」

「うん」

「半年前の白石の一件を見ても解るように、日再も一枚岩じゃない。しかも今回は軍が絡んでいる」

「へぇ」


 克己が面白そうに相づちを打つ。


「真維の機能と俺たちのデータの改ざんをしなけりゃならん」

「堂々と言うことかしら……」


 呆れた顔で麻里奈が突っ込んだ。


「とにかく、コンピュータールームにこもるから」


 譲はそう言って部屋から出ようとして、振り向いた。


「あ、後で改ざんされたデータは各自確認しておいてくれ。共有に乗せる。俺が許可するまで余計な情報を新人に漏らさないように」


 そう言うと、今度こそ譲は部屋を出て行った。

 麻里奈は少し不満そうだ。


「初めから疑ってるみたいで、ちょっとイヤな感じ」


 もっともな意見ではあるが、半年前の出来事を思い出すと仕方ないとも言える。


「しょうがないわよ。でも譲が信用できると思えるまでの辛抱だし、従うしかないわ」

「軍が絡んでるらしいし、警戒してるんだろうな」

「解るけど~……」


 真っ直ぐな性格の麻里奈は、どうしてもいい気分はしない。かといって従わないわけではないのだけれど。






 午後2時50分。

 ゲートフロアに四人が集まった。

 今日は草原のエフェクトは切られ、当初ここに来たときのような丸い部屋に、明るめな照明が付いている。違うのは壁が水族館の水槽のグラフィックになっているところだ。


「これ、何パターンあんの?」


 イルカを見ながら克己が譲に聞くと、譲も首を傾げた。


「わからん。真維の気分次第じゃないか?」


 麻里奈はさっきから水槽に張り付いて、やれサンマが美味しそうだのマグロを食べたいだの言っている。

 その様子をるいざが微笑ましそうに見ている。

 この日常が壊れなかったことに感謝しながら克己は譲の隣に立っていた。

 すると、来訪者を告げる音が響いた。


『日再の車が一台来たわ』

「車庫へ案内してくれ」

『わかったわ』


 真維のアナウンスから数分経って、車庫方面の扉が開いた。

 そこから現れたのは神崎と、見知らぬ中年男性、それからまだ子どもと言っても良い年齢の少女。


「案内感謝する」


 神崎が譲に言う。そして、同行者を紹介した。


「こちらは、日本再興機関海軍大将の菖蒲(そうぶ)政信(まさのぶ)氏だ」

「よろしく」


 菖蒲は大きな態度で挨拶をする。

 それに、譲も負けていない態度で挨拶を返す。


「どうも」


 その瞬間空気が張り詰め、周りがヒヤヒヤする。海軍大将と言えば海軍のトップだ。それを相手にこの態度とは。

 しかし、神崎は慣れているのか、2人の凍りついた空気には気付かないフリをして、少女を紹介した。


「こちらが、菖蒲大将の一人娘の千鳥(ちどり)さんだ。まだ14歳だが、強い念動力を持っている事から、今回特殊能力課に配属された」


 千鳥は紹介を受け、一歩歩みでる。


「初めまして。本日付で特殊能力課に配属された菖蒲千鳥です。よろしくお願いします!」

「14歳……?」


 その若さに3人は驚く。

 るいざが譲にテレパシーを飛ばす。

『日再ってそんなに人手不足なの!?』

「本人たっての希望とのことだ。こちらの自己紹介は下でさせてもらう。菖蒲大将は施設を見学されて行きますか?」

「そうだな、少し見させて貰おうか」

「では神崎さんに案内を任せます。また、帰る際は連絡を」

「了解した」

「千鳥さんはこちらでメンバーと顔合わせを先にするので、別行動で」

「あ、千鳥でけっこうです。私が一番年下だし、七光りとかゴメンなので」


 キッパリと言った千鳥は、こう続けた。

「でも多分一番強いのは私ですけどね。皆さんには足を引っ張らないようお願いします」


 そう言うと千鳥は、譲たちの方へ歩き出した。新人とは言え、一筋縄ではいかない人物のようだった。


挿絵(By みてみん)

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