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41.譲の限界

 譲は予告通り、テレポーテーションで猛スピードで走る車の前方に飛んだ。


「一気に止めると危ないから、急ブレーキくらいの速度で車を止める」


 譲が、言うと同時にPKを展開すると、るいざは麻里奈に聞いた。


「麻里奈、車の動力部がどこか解る?」

「ちょっと待ってね。えーっと、どの車も同じような造りをしていて、フロントにエンジンがあるわ」

「引火しちゃわないかしら?」

「バッテリーをショートさせる方が良いかもしれないわね。電気自動車みたいだし」

「この間試したアレ、使えるかしら? そしたらよく見えて良いんだけど」

「試してみる?」

「そうしましょう」


 この間試したアレとは、麻里奈の透視をるいざがテレパシーで映像共有させるテクニックだ。練習では使えたので、落ち着いている今なら恐らく使えるはずだ。

 るいざと麻里奈は手をつなぐと、目を閉じた。すると、るいざの目蓋の裏に麻里奈が視ている映像が浮かび上がる。ただし、範囲が狭いのと、集中していないと直ぐに消えてしまうのはこれからの課題だ。


「どうでも良いが、早めに頼む」


 譲がPKで次々と車を止めていく。が、速度も質量もあるものだけに、衝撃が半端ない。さらに、相手もそれを抜けようとアクセルを踏みまくるのだ。余り台数が増えると止めきれない。


「いくわ!」


 手始めに、一番近くにいた車のフロントへ、雷電が一筋落ちる。

 と、同時に小さなスパークが起きて、フロント部分から煙が上がった。


「良いぞ。その調子で頼む」

「了解。麻里奈!」

「次はこれで!」

「雷電!」


 るいざは上手く出力を絞って、ピンポイントに落としている。これなら半数くらいは削れるかもしれない。

 車の台数は、楕円形に隊列を組んでいたようなので、恐らく今半数くらいだろう。


「少し多いな」


 譲が目をすがめる。汗が一筋、流れ落ちた。

 このままでは押し切られてしまう。どこかで、作戦を変える必要がある。

 と、2人の連携が僅かに逸れた。慣れない作業に、精度が下がる。

 それを見て、譲は言った。


「るいざ、敵の生死は問わないから、車を足止めすることを第一に変更だ。麻里奈は、右方向の車を頼む。るいざは左方向だ」

「了解!」


 唐突な作戦の変更だが、元々いつも行き当たりばったりで、2人とも馴れている。すぐに左右に別れ、車を破壊する勢いで、雷電と発火をお見舞いしている。中途半端に手加減する方が、面倒くさいし難しいのだ。

 譲は相変わらず、車を足止めする事に集中している。2人がバラバラに台数を減らしてくれているのでギリギリで何とかなっているが、思った以上の台数に、限界が近付く。

 と、麻里奈が前方を視て言う。


「あと数台よ!」

「OK」


 譲は歯を食いしばり、集中し直す。その間も、PKの衝撃が腕に伝わってくる。

 と、譲の視界をキラリと光る物が掠めた。

それを避けたのは、完全に反射だった。

 いつの間にか、一部の車から降りた黒ずくめの男達が、武器を持って譲達を狙ってきていた。

 譲は咄嗟に避けた男の刃物を蹴り飛ばすと、男をPKで弾き飛ばす。

 が、狙われたのは譲だけではなかった。


「るいざ! 麻里奈! 敵が車から降りている! 周りに注意しろ!」

「なんですって!?」

「わかったわ!」


 麻里奈はやや後方に下がると、車を一台派手に燃やす。光源を確保し、自分の周りを見やすくするためだ。

 一方るいざは、譲の位置まで下がろうとしたところで、敵に阻まれる。


「雷電!」


 攻撃の為に打った雷は、敵が自らよりやや逸れた位置に放り投げたナイフに引き寄せられ、何もない地面に落ちた。

 一瞬動揺したが、直ぐに第2波を放とうとしたるいざだったが、後ろからもう1人の敵が近付いて居たことに気付かず、羽交い締めにされてしまう。


「きゃああっ!!」


 るいざの悲鳴に、譲と麻里奈がそちらを視る。そして、すぐに状況を把握する。


「るいざ!!」


 走り出そうとした麻里奈に、譲が叫ぶ。


「麻里奈は車を頼む! るいざの方は俺が行く!」

「わかったわ!」


 譲が止めている車の台数に、不安がよぎったが、麻里奈は譲の命令に従い車の台数を減らすことを選んだ。それが、譲を動きやすくするはずだからだ。

 譲はPKは展開したまま、るいざの方へ飛んだ。そして、るいざを羽交い締めしている男の背後に降りると、振り向く隙も与えずに銃で頭を撃ち抜いた。

 その音に、るいざが怯んだ瞬間、もう1人の男がるいざに刃物を振り下ろす。

 譲は咄嗟にるいざの身体を突き飛ばした。

 が、自分の防御が間に合わない。シールドを展開する余裕も銃を構える余裕も無い。

 身体を捻って致命傷は避けたが、その頬が大きく切れる。


「ッ!!」


 苦痛に、一瞬PKの、コントロールが怪しくなり、車が勢い良く走り出し掛けて、再度止まる。


「譲!?」


 突き飛ばされて転んだるいざが、振り向くと、譲は冷静に、銃で相手を撃ち抜いたところだった。


「譲、頬! 切れて……!」

「それより、車と、逃げる敵をどうにかしてくれ。PKが保たない」


 そう言われてしまっては、るいざも攻撃に回るしかない。


「雷電!」


 せめて、これ以上譲に危険が及ばないように、るいざは譲を守るよう、確実に車を破壊していく。






 ほぼ鎮圧し終わった頃に、右に展開していた麻里奈が譲達と合流した。


「お疲れー……って、譲!? 何その怪我!?」

「ああ。気にするな」

「気になるわよ! パックリ切れてるわよ!? ていうか、凄い血!」

「顔の傷は血が出るものだ。大したこと無い」


 譲はそう言うと、無造作に頬を拭い掛けて、るいざに止められた。


「ごめんなさい。私を庇ってくれたのよね」

「身体が勝手に動いただけだ」


 るいざはハンカチを出すと、譲の頬にあてた。あっと言う間に真っ赤に染まるそれに、るいざの方が泣きそうな顔になる。


「とりあえず、報告と後始末を頼んでくる。これ、借りるぞ」

「うん」


 るいざのハンカチを借りて頬を抑えたまま、譲は作戦会議を行ったテントの方へ歩いていく。

 その背中を見送りながら、麻里奈は言った。


「テレポーテーションする余力も無さそうね」

「そうね」

「私達も、車まで戻って、譲を迎えに行きましょ」

「……そうね」


 るいざは唇を噛んだ。

 譲の傷はるいざを庇ったせいだ。

 譲にそんな余裕なんか無かったのに、無茶をさせてしまった。

 自分を責めるるいざに、麻里奈は背中を叩いて言った。


「るいざのせいじゃないわ」

「でも、私を庇って怪我をしたのよ?」

「そうだとしても、るいざのせいじゃないわ」


 静かに優しく言う麻里奈の言葉に、何か含みのようなものを感じてるいざは麻里奈を見た。

 すると麻里奈は、笑顔だった。

 それも、スッゴく良い笑顔だった。


「……麻里奈?」


 思わず口の端をひきつらせながら、るいざが聞く。


「るいざのせいなんかじゃないわ。むしろ、責任を取るべきは他にいるって言うか」


 麻里奈が怒っているのが解る。

 笑顔だけど物凄く怒っているのが解る。

 るいざは思わず口を閉じて、車まで歩いた。

 その運転席に座りながら、麻里奈は言った。


「譲を回収したらさっさと帰るわよ。あのバカのところに!」


 るいざには『あのバカ』の心当たりが1人しか居なかったが、さすがに口には出来なかった。

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