40.作戦会議
譲が陸軍のテントに入ると、中には陸軍の松本 由貴大佐と、同じく陸軍の第4部隊長藤田 大河、第3部隊長榎本 潮を中心に、数名の各部隊の兵士が居た。
「特殊能力課の縣だ。今、到着した」
「ご苦労様です。それでは、時間もない事だし、会議を始めても良いか?」
譲の言葉に松本がそう言うと、藤田は嫌な感じのする笑みを浮かべて答えた。
「会議なら、してる最中だったじゃないですか。特殊能力課の到着が遅かったんで」
どうやら、藤田は特殊能力課を良く思わない人間のようだ。が、こんな事は今始まった事ではないし、珍しい事でもない。譲はスルーし、松本に話し掛けた。
「問題無ければ続きからどうぞ?」
すると松本は、バツの悪そうな顔をして言った。
「それでは続きを始めるが、向かってきている車両数台について、第4部隊が迎え撃つという事で良いか?」
「構いません。ヤツらに日本へ来たことを後悔させてやりますよ!」
藤田は息巻いて言う。
実際、敵は北から攻めてきたらしいので、藤田率いる第4部隊が担当と言えば担当である。
次に松本は第3部隊長の榎本を見た。
「第3部隊は後方で待機。必要に応じてバックアップをするように」
「わかりました」
榎本が答える。
北担当の第4部隊だけでなく、第3部隊もかり出されているところをみると、敵の数がそこそこ多いと予想される。
譲は松本に聞いた。
「敵の数は?」
「確認できている車両だけで20台程。車両の色は全て黒に統一されています」
「そりゃまた丁寧なことで」
譲が感心すると、藤田は横から話に割り込んだ。
「特殊能力課が出るような事態にはならないから、アンタらは後ろで見ていると良い」
「そうなのか?」
譲は松本に確認する。と、松本は頷いた。
「今のところ、特殊能力を使っている形跡は無い。どこから現れたのかが不明なだけで、航空機かもしれないし、特殊能力かもしれないという程度です」
「なら、ここで待機していれば良いな」
「それでお願いします」
一応、松本よりも譲の方が地位が高いため、松本は譲に対して敬語を使う。が、扱いに困っている様子は、隠しきれてはいない。
「それでは、第4部隊は出撃します」
藤田はそう宣言すると、テントを出て行った。
その姿が見えなくなったころ、第3部隊長の榎本が譲に言った。
「すみません、藤田が失礼な態度を取って」
「いや。気にならないから大丈夫だ」
反感など一々気にしていたらキリがない。
譲はテントをぐるりと見回すと、椅子を拝借して、そこに座る。そのマイペースさに、松本も榎本も唖然とする。
「それより、第3部隊も準備しなくて良いのか?」
「あ、そうですね。それでは、後方待機します」
「ああ、頼んだ」
松本は答えると、譲を見た。
「何か飲みますか?」
「いや。気にしないでくれ」
「そうですか。そういえば、特殊能力課は1人ですか?」
「もう2人来ている。何かあれば直ぐに出られるから平気だ」
「そうですか」
そう言うと、松本は同じく椅子に腰掛け、ウィンドウを開き、マップを表示した。
やや広範囲のそれには敵の車と、味方の配置が表示されている。
それを見て、譲は違和感を感じた。
『るいざ、聞こえるか?』
『びっくりした! 聞こえるけど、どうしたの?』
『俺はこのまま、メインのテントに居る。車は鍵をかけておけ。第4部隊はウチを良く思っていないようだ』
『そうなのね。了解』
『それから麻里奈に、敵の様子を視ているように言っておいてくれ』
そう言うと、譲は車の中にウィンドウを開き、マップを共有する。
『敵の進行速度が速すぎる。恐らく特殊能力持ちが居る』
『了解。警戒して視ておけば良いのね?』
『ああ。出撃する時はまた声をかける』
『はーい』
『あ、あと』
『まだ何かあるの?』
『食べ過ぎるなと言っておけ』
『……バレてた?』
『どうしてバレないと思うのか』
壁に耳あり障子に目ありとはこのことだ。
『譲の分もあるから安心して』
『そんな心配はしていない』
譲はため息を吐きたいのを堪えて、マップを眺めた。
敵の車の表示が凄い速さで南下している。
恐らく時速100kmくらいは出ているのでは無いだろうか。高速道路ならいざ知らず、現在の瓦礫と崩壊した道路の上を走るには、速すぎる速度だ。この違和感を感じているのは今のところ譲だけらしい。戦前の記憶があるため、違和感を感じにくいのかもしれない。
第4部隊がおおよその配置に着いた時、ちょうど敵の先頭とぶつかった。
『敵、目視確認! 黒の車です! 迎撃します!』
そう言うが早いか、第4部隊が一斉射撃をした。一瞬辺りが明るくなる。
当たったと、藤田が確信した瞬間、黒い車は何のダメージも受けずに、爆炎をくぐり抜けてきた。
『敵! ダメージありません!』
『第2波、いくぞ!』
第4部隊の無線が交錯する。
再度、一斉射撃が行われ、先程よりも第4部隊に近い位置で爆炎が上がる。
少しの雑音の後、第4部隊の兵士の声が響いた。
『ダメです! ダメージ与えられていません!』
『何故だ!?』
『解りません! 包囲網、抜けられます!』
敵の車はスピードを緩めないまま、第4部隊の事など眼中に無いように走り抜けていく。
その様子を視て、譲は椅子から立ち上がった。
「どうしました?」
「出撃する。これはウチの案件だろ」
「と言うことは、敵が特殊能力を使っているという事ですか?」
「それ以外に説明がつかないだろ」
譲はテントを出ると車に向かう。
『出るぞ。準備しておけ』
『いつでもオッケーよ』
るいざから、軽い返事が返ってくる。麻里奈が第4部隊の様子を視ていて、これは出番だと思ったのだろう。
『とりあえず、敵と接触しないと話にならないから、一旦テレポーテーションで飛んだ後、PKで全ての車を捕獲する。車の動力を停止させるのはるいざに任せる。麻里奈は、全体で、おかしな動きをしている人間や、俺が見逃した車両が無いか、確認してくれ』
譲は車まで行くと、2人と合流する。
「それじゃ、いくぞ」
「はーい」
「了解」
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