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38.憲人のトライアル

 憲人のトライアルは、一言で言うと、騒がしかった。主に外野が。

 麻里奈は、最初の身体能力の測定は大人しく応援していたのだが、トライアルに入ると聞こえないのも忘れてアドバイスしたり、悲鳴を上げたりと、騒がしい事この上ない。

 譲は何度、麻里奈をコンソールルームから放り出そうかと思った事か知れない。

 唯一、救いと言えば、能力が目覚めたばかりだからか、それともこの状態が限界なのかは解らないが、想定した通り、低めだったため、測定が早く終わったという事か。


「これ、心臓に悪いわね……」


 トライアルが終わったのを見届けて、麻里奈がホッとしたように言う。

 が、隣で急に悲鳴を上げたりデカい声で応援したりされていた譲の方が、余程心臓に悪かった。

 完全に集中してしまえば、外の音など気にならないのだが、今回はそうもいかない。

 憲人の様子を気にかけつつ、分析結果を眺め、考えに浸ろうとすると、つんざくような悲鳴である。


「次から、憲人のトライアルとトレーニングの時は、麻里奈は立ち入り禁止にする」

「なんでよ!?」

「なんでもだ。それより、バテてる憲人のところに行かなくて良いのか?」

「あ! そうだった!」


 麻里奈は慌ててコンソールルームを出ると、トレーニングルームへと入っていき、真ん中でへたり込んでいる憲人へ駆け寄った。


「憲人、お疲れ様!」

「麻里奈。……トライアルって、こんなに疲れるものだったんだね」


 肩で息をしながら憲人が言う。


「そうよ。毎回、本気で死ぬかと思うもの」

「解る気がする……」


 限界の数値を測るため、当然測定はハードだ。最終的には、限界より上の課題が出て終わりになる。そのため、麻里奈の『死ぬかと思う』は比喩でも何でもなく、これが本物なら死んでいるところである。


「なんにせよ、そんなに頻繁にするものじゃないし、大丈夫よ」

「それなら良かった」


 麻里奈に渡された水を飲んで、憲人はひと息吐く。


「甘いもの食べる?」

「ううん。今はいいや」


 憲人は成長するにつれて、味覚も変化したらしく、最近は甘い物は積極的には食べない。食べられない訳ではないが、そこまで好きという訳ではないらしい。

 ここにいる男性陣は甘いものも普通に食べるため、ある意味新鮮な反応だ。

 身長は現在、譲と同じくらいになったが、体格は譲よりも一回りガッシリしている。


「そう言えば、聞きたいことがあるんだった」


 と、コンソールルームから出てきた譲が、麻里奈に話し掛けた。本当はトライアル中に聞こうと思っていたのだが、それどころじゃなかったため、聞けなかったのだ。


「憲人の名字はどうする? 『柚木』で良いのか?」

「良いわよ。て言うか、他に浮かばないし。私の子だしね」

「浩和が何か言ってこないか?」

「言ってきても、返り討ちにしてやるわ」


 回答が物騒だ。


「じゃあ、一応『柚木憲人』で、麻里奈の遠縁ってことにしておくから」

「そこはちゃんと、私の子どもって事にしておいて欲しいわ」

「いや、無理があるだろ。年齢的に」


 譲は冷静に突っ込む。が、麻里奈は唇を尖らせた。


「じゃあ、遠縁の子を引き取って養子にって事に! その時に能力が見つかって……ってことなら無理はなくない?」

「まあ、それならギリいけるか」


 見た目はどう見ても逆だけどな、という言葉は口には出さない。

 譲はとりあえず名字が確認出来たので、コンソールルームへ戻っていく。


「少し早いが、2人とも後は自由時間にしていいぞ。午後は憲人は勉強、麻里奈はトレーニングだ」

「ええ~……」


 2人の声がハモった。

 麻里奈はともかく、憲人の心底嫌そうな声は珍しい。それだけ疲れたのだろう。この分だと午後の勉強中に居眠りをしそうだ。

 譲がコンソールルームへ戻ると、真維がはじめと話をしていた。さっきまで真維しか居なかったはずなのだが、いつの間に。

 一応憲人からは死角になる場所に居るはじめに、譲が聞いた。


「るいざはどうでした?」


 すると、はじめはふるふると首を振った。


「ダメだったわ。一応おじやは置いてきたけど、食べる様子は無いわ」

「飲まず食わず、か」

「その通りね。克己の体力ならまだもつだろうけど」

「いっそ倒れてくれれば話は早いんですけどね」

「そうなのよね」

『でも克己は体力あるから、そう簡単には倒れないわね』


 3人は仲良く頷き合う。

 そして、譲はウィンドウを立ち上げた。


「それはともかく、憲人のトライアルの結果はいつ出る?」

『もう少しかかるわ。初回だから、データの幅が大きくて』

「それは仕方ない。じゃあ、俺は憲人の登録作業を先にする」


 譲がそう言うと、はじめは目を輝かせて譲のそばに寄った。


「何するの?」

「憲人の存在を、日再に登録するんです」

「どうやって?」

「一応、新規スカウトという形で。そうしないと、突然増えることになってしまいますからね」

「麻里奈ちゃんが産んだっていうのは、無理があるものね」


 思わずその様子を想像して、譲が吹き出した。

 その様子をしげしげと見て、はじめは言った。


「譲君でも、吹き出すことあるのね」

「突然面白い事を言われれば吹き出しますよ。普通の人間なんで」

「普通かどうかは謎だけど、思ったより喜怒哀楽はあるのね」

「人を何だと思っているんですか……」


 譲はため息を吐くと、日再のデータベースへアクセスした。

 麻里奈の遠縁の子ども、『柚木憲人』を登録するために。

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