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37.過去②

 克己が様子を見ていると、男たちが二手に分かれた。見張りに2人が廊下に残り、他の4人が倉庫に入っていく。

 克己は病院内の見取り図を思い出していた。

 あの倉庫はそれなりに広く、暗い。そして、外の音がほとんど聞こえない造りになっている。

 今はドアを開けたまま男たちは侵入しているが、多分、資材を運び出すために、あるいは撤退するために、必ず全員揃う瞬間があるはずだ。

 克己は心の中でカウントする。

 そして、倉庫に入った4人が、奥までたどり着いたと思われるとき、廊下を走り出した。

 走ってくる克己に、直ぐに気付いたのはドアの左に立っていた男だった。

 直ぐに銃を構え、隣の男を呼ぶ。

 が、彼が銃を撃つより、克己が彼を蹴り飛ばす方が早かった。


「まず1人」


 と、隣の男が克己に銃を撃つ。

 サイレンサー付の銃だったらしく、音はそんなに大きく無かった。克己は回避出来ないと悟り、シールドを展開する。集中しないと大した防御力は無いが、間近で撃たれた銃弾くらいなら止められる。


『能力者――!?』

『ちょっと黙ってて貰おうか』


 克己は相手の銃を掴み、撃てない状態にしてから、肘で相手の顎に一撃お見舞いした。

 脳震盪を起こした相手が倒れるのを確認して、同じ警備を担当しているメンバーに、無線で呼び掛ける。


「食料泥棒だ。相手はアメリカ系の人間て残り4名。既に倉庫に入っている」

『了解。すぐ行く』

『こっちは騒ぎが起こっていて、手一杯だ。少し遅れる』

「OK」


 どうやら他の場所でも騒ぎが起こっているらしい。そっちをカモフラージュにしたかったんだろうが、そうは上手くいかなかったようだ。

 克己は倉庫の中を伺う。すると、ちょうど、黒髪の男が資材庫のロックを解除したところだった。

 中に入っていく3人。残る1人は見張りで残るようだ。

 ここに居た男たちを呼ばれれば面倒な事になる。

 克己は倉庫に入り、ドアを閉めた。


『誰だ!?』


 見張りが声を上げた。

 ドアを閉めたことにより、暗さに紛れて相手は克己を見つけられないようだ。もっとも、克己もここから逃げられないという欠点もあるが。

 すると、資材庫の中から何やら話している声がする。それに、見張りの男が答えた。


『突然ドアが閉まったんだ。誰か居るに違いない』


 また何か声がする。

 が、話している隙を見逃す克己ではない。

 棚の間を縫って男に近寄り、手刀を首に叩き込む。

 ドサリと男が崩折れる。

 と、同時に異変を感じた男が資材庫から顔を出す。

 克己は咄嗟に銃の持ち手で相手のこめかみを強打し、意識を奪う。

 残る敵は2人。

 黒髪の男と、恐らく特殊能力者。

 先手必勝とばかりに、克己が資材庫へ突入した。同時に、向こうも外の敵へ一撃お見舞いしようと、走ってきた。

 あわや、ぶつかる寸前で、男は足を止める。

 その顔に、克己は目を見開いた。

 まだ成長途中の身体、高い身長、そして緑の瞳にブラウンの髪。

 相手も同じように克己を見て、目を見開く。


『まさか――』


 そこに居たのは、アメリカに居るはずの克己の弟、叶だった。


『叶……? なんでここに』


 克己が戸惑った瞬間、叶は克己を憎々しげに睨みつけると、勢い良い銃の引き金を引いた。

 咄嗟のことに、克己は反応出来ない。

 立て続けに三発撃たれ、克己がガクリと膝を付く。腹のあたりが痛い。いや、痛いと言うより熱い。


『まさかこんな所で会えるなんて』


 叶は吐き捨てるように言った。

 すると、黒髪の男が叶に話し掛けた。


『知り合いか?』

『――ああ。殺したい相手だ』


 叶はそう言うと、克己の顎を蹴飛ばし、転がった克己の頭を踏みつけた。


『……なん、で?』

『何でだって? ヘドが出る!』


 叶はすっと右手を上げると、氷の氷柱を作り出す。そして、うつぶせに転がったまま動けない克己の背中にそれを突き刺した。


「ぐああああっ!!」


 克己が悲鳴を上げる。しかしそんな事はお構いなしに、叶は再度氷柱を作り上げ、克己を串刺しにする。


『お前が俺達を見捨てたせいで、俺達が味わった苦痛に比べればこんなもの!!』


 血と水と氷が散らばる中に、克己は倒れたまま動けない。指先から冷えていく感覚が妙にリアルに感じられて、ああ、このまま自分は死ぬんだと覚悟した瞬間――。


「そこに居るのは誰!?」


 複数の足音と共に、るいざの声が響いた。


『チッ』


 叶が、克己から飛び退く。

 扉から入ってきたるいざたちが、克己を発見して息をのむ。

 その隙に、叶は黒髪の男を回収して、テレポーテーションした。


「あっ! 待ちなさい!!」


 るいざが叶に叫ぶが、声は届かず、叶達は克己に倒された男たちを残したまま消えた。

 るいざは叶を追おうとして、足下の水溜まりに滑り転ぶ。

 それは、克己から流れ出る血と、氷柱が溶け出した水だった。


「克己!? 平気!?」


 るいざが血に塗れるのも構わずに克己の手を握り、顔を覗き込む。


 平気だよ。だからそんな顔するなって。


 そう言いたかった。

 しかし、克己の口から言葉は出ず、克己はそのまま意識を失った。


「克己!? 克己!!」

「るいざさん、克己君をストレッチャーへ! すぐに手術室へ!」


 すぐに警備員の男たちが、倉庫からストレッチャーを出してきて、克己を乗せる。

 泣きながら克己の手を握り呼び掛けるるいざは、克己と一緒に手術室へと走る。その手に握る克己の手は、とても冷たく、ストレッチャーから落ちる血と、背中の傷に、るいざは最悪の事態を考えずにはいられなかった。

 さすがに手術室の手前でるいざは克己と引き離され、ドアの前でへたり込んでしまう。


「克己……。私の予知がもっとちゃんと使えていたら……」


 るいざは朝からしていたいやな予感が、どんどん膨れ上がり、居てもたっても居られずに克己を探していたところだった。

 ちょうど近くにいた警備員のスタッフが、無線で克己と話しているのを聞いて、嫌な予感は一気に膨れ上がった。

 きっと克己に何かあると確信して、警備スタッフと共に、資材庫へ向かったのだ。


「こんな、中途半端な力、役に立たないじゃない……!」


 るいざは唇を噛んで、地面を叩いた。

 使いこなせない力に意味なんか無い。

 結局るいざは、祈ることしか出来ない。


「克己……、どうか助かって……!」


 結局、手術中のランプはなかなか消えなかったが、るいざの祈りが通じたのか、はたまた克己の普段の行いが良かったのか、克己は一命を取り留めた。ただし、背中に傷は残るらしかった。今の医療技術をもってしても、完全に治すことは出来なかったのだ。

 後日、話せるようになった克己に、病室でるいざは聞いた。克己があんなに傷付く事があるなんて、るいざには信じられなかった。だから、何か理由があったに違いないと思ったのだ。

 すると克己は、ポツリと、言った。


「弟だったんだ」


 るいざは目を丸くした。言われてみれば、るいざが見た彼は、どことなく克己に似ていた。特に、緑色の瞳が、克己のそれと同じだった。

 仲の良い兄弟ばかりではないことは知っているが、それにしたって今回の事は限度を越えている。

 しかし、るいざそれ以上深く聞く前に、克己は眠ってしまった。もしかしたら、さっきのつぶやきも、無意識のものかもしれない。

 るいざは、眠る克己が苦しそうではないのを見て、少しだけ安心すると、その頬にキスをした。


「ゆっくり休んでね、克己」


 どうか、早く治りますようにと、るいざは祈ると、自分の仕事をするために病室を出たのだった。

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