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35.憲人の能力反応

「そう言えば、今日の予定は?」


 恒例の譲のスケジュール発表が無いので、麻里奈が聞くと、譲はミネストローネを飲みながら言った。


「少し待ってくれ。さっきの憲人のメディカルチェックの解析結果次第で変わる」

「それって……」


 麻里奈が目を丸くして聞いた。


「憲人が能力者の可能性があるって事?」

「そうだ」


 短く肯定した譲に、るいざは目玉焼きを食べながら聞く。


「でも、能力反応……だっけ? の数値は、ウイルス感染時には上がるものなんでしょ?」

「ああ。普通はウイルス感染時に一時的に高くなって、症状が治まると下がる。だが、能力者の場合、その数値が一定の高さで止まるんだ」


 その言葉に、憲人がトーストを呑み込んで聞いた。


「それで、さっきのメディカルチェック?」

「そうだ。もうそろそろ結果が出てくる頃だろ。まあ、どちらにしてもそろそろ憲人の日再への登録をしようと思ってたところだったし」

「日再に登録するの?」


 麻里奈が驚く。確かに成長が収まってきたら登録する話はしていたが、こんなにすぐだとは思っていなかったのだ。


「そろそろ著しい成長も収まってきたからな。登録しておいた方が、憲人の身分も保証される。ここに居るつもりならしておいた方が良い」

「確かにそうね。日再を誤魔化すにも限度があるし」

「いつまた、ドイツとの交流の話が出るか解らないしな」

「創平ちゃんみたいに、黙っていてくれる人ばかりじゃないものね」


 創平も、タダで黙っていてくれているワケではないが、それは言わないでおく。

 と、ふわりと真維が現れた。


『おはよう、みんな』

「おはよう、真維」

「おっはよー」

「おはよ」


 三者三様の挨拶が返る。譲のみ無言だが、そんな事は気にせず、真維はウィンドウを開いた。


『分析結果が出たわよ』

「結果は?」


 譲が端的に聞く。


『能力反応はボーダーより、やや上で安定しているわ』

「やっぱりそうか」

『それと、成長の早さの方だけど、ここしばらくは人並みね。86%くらいの確率で、このまま人並みの成長になると思われるわ』

「そうなのね」


 今度は麻里奈が返事をした。どことなく、ホッとしたような顔をしている。

 多分、憲人の寿命について気にしていたので、安心したのだろう。

 すると、憲人が首を傾げて聞いた。


「能力反応がボーダーより上ってことは、俺も能力が使えるってこと?」

「そうなるな。何か心当たりはあるか?」

「全然無い」


 憲人が首を横に振る。まあ、そうだろう。

 能力に目覚めて、それが自分で解って使いこなせるなら、ESPセクションは必要無いのだ。


「とりあえず、今日の午前中は憲人のトライアルをする。基礎体力もついでに図るから、運動し易い格好でトレーニングルームに来るように」


 そう言った譲に、麻里奈が聞いた。


「見てても良い?」

「OK」


 その会話を聞きながら、るいざは少し考えて言った。


「私は克己の様子を見てくるわ」

「……好きにしろ」


 克己と一番付き合いが長いのはるいざだ。それに、一番近しいのもるいざだ。何か思うことがあるのかもしれないし、無かったとしても、個人の行動を阻止する権利は譲にはない。

 るいざは頷くと、真維に聞いた。


「克己がどこにいるか解る?」

『コンピュータールームに居るわよ』


 その言葉にるいざが驚く。


「てっきり部屋に戻っているかと思っていたわ」

『あそこは時間の感覚が狂うから、そんなに長い時間経ってるとは思ってないかもしれないわね』

「ああ。確かに、あそこは時計くらいしか時間の解る物が無いからな」


 コンピュータールームがあるブロックは、基本的に薄暗く、間接照明と観葉植物が廊下にはあり、部屋に入るとモニターを見やすくするために、更に暗くなっている。

 そして、それは24時間変わらない。一応時計はあるのだが、それもメインモニターの他の表示とまとめて映し出されているため、目に入りにくい。

 自分の殻に閉じこもってしまっている克己なら尚更だろう。


「それじゃ、私は差し入れを作るわ」


 るいざは食べ終わった皿を重ねて、キッチンへと運んでいった。

 譲は多分克己は食べないと思うと言い掛けたが、そんな事はるいざの方が百も承知だろう。無駄になっても構わない。そう思うし、自己満足と言われればそうだと答えるくらいの気持ちでないと、差し入れようとは思わない。

 るいざは冷凍されていたご飯を出すと、お出汁がきいたおじやを作ろうと、昆布と鰹節を土鍋に入れた。






 るいざがコンピュータールームへ来ると、ドアは閉まっていた。

 少しだけ躊躇してから、るいざはそのドアを開ける。すると、部屋の中央付近に克己は座っていた。ドアが開いた時に、軽い音を立てたが、ピクリとも反応しない。

 るいざは入ってすぐのテーブルに、土鍋の乗ったトレイを置くと、克己に近寄った。


「克己」


 名を呼ばれて初めてるいざが居ることに気付いたらしく、克己の肩がビクリと震えた。


「そっちに行っても良いかしら?」


 るいざが聞くと、克己はしばらく沈黙した。

 そして、小さな声で答えた。


「今は……まだ……。悪い」

「そう」


 るいざはそう言うと、踵を返した。

 克己の負担になりたい訳じゃないのだ。


「ここに差し入れ、置いておくから、良かったら食べてね」

「……」


 克己は俯いたまま、返事をしなかった。

 けれど、気にせず、るいざはトレイを置いて部屋を出た。

 あんな克己を見るのは久々だ。いや、正しくは二度目だ。

 病院にアメリカ連合軍が乗り込んできて、克己が大怪我を、おったあの時以来。

 心配だけれど、克己自身が拒絶している今は、るいざに出来ることは何もない。

 もどかしいけれど仕方がない。


「歯がゆいわ……」


 テラスに戻りながら、るいざは呟いた。

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