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日本再興機関ESPセクション ー虚空を超えてー  作者: 島田小里
第1.5章 日常とキャラクター紹介
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2.来瀬 るいざ

 来瀬るいざの朝は早い。

 早いと言っても、他のメンバーに比べて早いというだけで、とても早いわけではないが。

 朝起きたらまずは、部屋に備え付けられているキッチンでお湯を沸かす。その間に部屋の観葉植物のお手入をし、湯が湧いたら白湯をコップ一杯飲むのが日課だ。

 この施設に来た当初は1人で寝るのが不安で(それまでは大人数で寝る生活をしていた)、麻里奈に泊まりに来て貰ったりもしていたが、ひと月が経ち、この施設での生活にも慣れてきたところだ。

 メンバーは4人しか居ないが、今のところこれといった問題は無く、むしろ人間関係に恵まれている気すらする。

 白湯を飲みながらるいざは真維に話し掛けた。


「真維、もう誰か起きてる?」

『克己がジョギングを始めたところね』

「そう。それじゃ、着替えて朝ご飯を作りに行かなくちゃね」

『いつもお疲れさま』

「ありがとう」


 すっかり当たり前になっている日常だが、御礼を言われると嬉しくなる。挨拶はやっぱり大事なのだ。

 部屋を出て、朝の石畳を歩いていく。まだ薄暗く、肌寒い。これが冬と言うものなのだろうか? 地下生活が長い上に、地上は生態系が壊れていて、日本は常に夏である。ここに来るまで四季と言われてもピンと来なかったるいざは、上着を申請しなければと思った。






 テラスにはまだ、誰の姿も無かった。

 そのままキッチンに入り、冷蔵庫の中身を確認する。朝ご飯に昼ご飯、夕ご飯までのメニューを考えつつ、足りなくなりそうな物があれば、麻里奈に頼んで収穫してきて貰うか、または日再へ申請する。基本的にこの施設は自給自足出きるようになっているが、それでも手に入りにくい物もある。そういうときは日再から取り寄せる。ちなみにそれとは別に住居ブロックにコンビニがあり、そちらはコンピューターで管理されていて、いつの間にか自動で補給されている。

 実際のところ、食事も配給頼みにする事もできるのだが、るいざは、出来れば作りたい派だった。そして1人分作るのも4人分作るのも変わらないからと、食事係をかってでている。

 と、キッチンのカウンターから克己がひょこっと顔を出した。


「おはよーさん」

「おはよう」

「今日の朝飯何?」

「昨日のシチューの残りがあるからポットパイがメインで、後はサラダと、克己はスクランブルエッグもね」

「朝から豪華でラッキー」

「住居ブロックが寒かったから、暖かい物が食べたくなっちゃって」

「わかる! 寒くなってきたよなー。じゃ、シャワー浴びて汗流してくるな!」


 そう言うと克己は走って住居ブロックの方へと消えた。


「さて、準備しなきゃ」


 時間のかかるポットパイから支度に取りかかる。

「もう一品くらい何か作りたいわね。何にしようかしら」


 呟きながらるいざは朝食の準備を始めた。






 るいざが準備を終えてテラスを覗くと、そこには克己が座ってウィンドウを眺めていた。


「ご飯出来たわよ。何見てるの?」

「自分のプロフィール。そーいや、見てなかったなと思って」

「そう言えば、私も自分の見て無いわ。ちょっと見せて」

「はいよ」


 克己がウィンドウを操作して、るいざの情報を表示する。


名前:来瀬(らいせ) るいざ

所属・役職:特殊能力課

年齢:24歳(2136年4月1日現在) 誕生日:8月24日 性別:女

身長:158cm 体重:44kg 血液型:B

髪:黒髪 瞳:黒目

特記事項:特殊能力として、予知、雷電を持つが不安定である。

挿絵(By みてみん)


「これだけ?」

「これだけ」


 もっと色んな情報が見られると思っていたるいざは、拍子抜けした。


「まー、この情報は日再全員共通で見られるみたいだし、こんなもんじゃね?」


 そう言うと克己はウィンドウを切り替え、レーダーチャートを表示した。


「これは?」

「最初の能力の測定記録。ほら、引っ越し終わったあと、譲が色々測定したことがあったろ?」

「あったわね」


 何を測定しているかサッパリ解らず、測られる側としてこれで良いのか、何かした方が良いのかわからなかった測定があった。


「あれを分析したのがコレだそうな」

「ちゃんと測定出来てたのね」

「これは、ここの中の人間しか見れないらしい」

「そうなんだ」


 るいざのチャートを見ると、予知と、特殊の二カ所が実用レベルを超えて大きな数値になっている。また、それとは別に安定度や持久力などのレーダーチャートもある。


「凄いわね」

「だな。まあ、俺からすれば毎日飯作ってくれてるるいざも十分凄い訳だけど」

「おだてても何も出ないわよ。準備できたから取りに来て」

「OK。そろそろ麻里奈も来るかな」

「譲も来る頃ね」


 2人で出来上がった朝食をテーブルへ並べていると、譲と麻里奈がちょうど良く到着した。


「はい、コーヒー」


 サーバーとミルクを譲に渡す。麻里奈はまだ半分寝ぼけているようだ。

 やがて、全員が席につきいただきますの挨拶をして、朝食が始まる。普段は微妙に時間がズレたりするので全員揃うのは珍しい。


「そう言えば、部屋の鍵だが、好きな形に加工出来るけどどうする?」


 不意に譲が言った。


「好きな形って、何でも良いのか?」


 と、克己がアップルパイを食べながら聞く。


「大抵の物ならイケる」

「じゃあ、ピアスとかってどうよ?」

「できる」

「マジで? じゃ、俺はそれで」


 すると、麻里奈も少し考えて言った。


「私はロケットペンダントが良いわ」


 すると克己が不思議そうに聞いた。


「ロケットペンダント?」

「知らないの? 写真を入れられるペンダントよ」

「いや、それは知ってるよ! 俺が疑問なのはお前が誰の写真をいれるかっつーとこだ」

「そりゃ、恋人のに決まってるじゃない」

「恋人!? お前に恋人が居たのか!?」

「居るわよ、恋人くらい! 寂しい独り身の克己とは違ってね!」

「騙されてるんじゃなくて? マジで?」

「大マジよ!」


 ヒートアップしそうな2人に、譲が溜め息を着く。


「るいざは?」

「え……っと、それっていつでも出来るのよね?」

「ああ。今じゃなくても構わないしそのままでも問題無い」

「じゃあ、ちょっと考えさせて」

「了解」


 歯切れの悪いるいざの言葉に、譲は違和感を感じたが、特に深く追及はしなかった。


「で、トレーニングは午後1時から、全員揃ってやる」

「場所は?」

「トレーニングルームだ」

「OK」

「はーい」

「わかったわ」


 三者三様の返事をし、朝食が再開される。


「るいざ、私にもアップルパイちょうだい」


 メインを食べ終わった麻里奈がデザートに入る。るいざは麻里奈の分を大きめに取り分け、バニラアイスをトッピングする。


「譲も食べる?」

「ああ」


 ここの男性陣は甘い物も普通に食べるので、作りがいがある。一足先に食べていた克己も、おかわりとばかりに空になった皿を差し出した。


「そーいや、住居ブロックがかなり寒くなってたけど、もっと寒くなるのか?」

「ああ、まだ初冬と言ったところだな。そのうち雪が降る予定だ」

「雪!」


 驚いて3人が目を丸くする。


「住居ブロックの3階はスイスのフォンタナとイギリスのコッツウォルズをかけ合わせた雰囲気にしてあるから、冬は寒いぞ。日再のカタログで好きな服を頼んでおくと良い」

「カタログは見たけど、気に入る服が無かったのよね……」


 麻里奈が不満そうに言った。


「なら、真維に頼むと良い。真維は全世界、ジャンル問わずで監視しているから、気に入ったデザインを探して、農場の女将さんに仕立ててもらうと良い」

「やってみるわ!」

「そんな手があったのか」

「お前等も気に入ったデザインが無かったらそうすると良い」


 と、譲が話しているそばから、麻里奈が真維にこんな感じの服と伝えて、古いファッション雑誌を見せて貰って歓喜している。


「私もそうしようかしら」

「どうせなら気に入った服の方が良いだろ。ついでに普段着も作って良いぞ」

「俺もあとでジョギングシューズ頼もう」


 大戦以降、食べるにも不自由を感じることが多いこのご時世だというのに、待遇が雲泥の差だ。


「日再って凄いのね」


 感心したようにるいざが言うと、譲がそれを否定した。


「日再が凄いんじゃない。『真維』が凄いんだ」

「そうなの?」

「あとは特殊能力課が優遇されているのもある」

「大人の事情ってヤツね」

「まあでも、大半は真維のおかげだ。この施設に関することは特にな」


 『真維』は確かに凄いが、『真維』の事を話すときの譲はどこか誇らしげな気がする。けれど、自分のプログラミング能力を誇っているかと言えばそうでもない気がする。


「譲にとって、『真維』は特別なのね」


 るいざがそう言うと、譲は驚いたように目を見開いた。そして、少し考えてから頷いた。


「まあ、そうだな」


 るいざは深く聞かなかったため、その話はそこで終わってしまった。


「ねぇ、るいざ! 凄く沢山服の種類があるわよ!」

「私にも見せて」


 興奮して声を上げる麻里奈に、るいざも一緒にウィンドを覗き込んだ。克己はそんな2人を見ながら片付けを始める。

 そんな3人をよそに、コーヒーを飲む譲はどこか遠くを見ていた。

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