23.サイキックバトル
船のすぐ側に飛んだ譲は、先制攻撃とばかりに船に向かってPKを飛ばした。
ドオンという大きな音をたてて、水しぶきが上がり、船が揺らぐ。
「何、今の!?」
麻里奈が聞くと、譲はしれっと答えた。
「船底に穴をあけた」
「それって、すぐに撤退するんじゃ?」
るいざが言うと、譲はそれを否定した。
「隔壁を下ろせば、しばらくは持つだろ。すぐに沙月が出てくるさ。麻里奈は能力妨害装置が無いかと、敵の動き方で能力者を探せ。るいざはテレパシーの感度を上げて、会話からも探すんだ」
「えっ!? でも、会話って英語よね?」
「そうだろうな」
「私、学校で習ったくらいの英語しか解らないわよ?」
「ああ、そうか」
当然と言えば当然だ。むしろ、なぜそれに気付かなかったのか。
「今回は解る範囲でかまわない。……帰ったら克己を講師にして、憲人と一緒に全員英語の勉強をしよう」
「ええ……。勉強嫌い」
麻里奈が嫌そうに言った。
戦闘中とは思えないのんびりとした会話をしていると、目の前に1人の少年が現れた。沙月である。
「来て早々、船に穴をあけることはないだろ?」
沙月は不服そうにそう言うと、譲を見た。
「で、今日は良い返事を聞けるのか?」
「残念だったな。諦めろ」
「ふうん」
沙月はそう言うと、かまいたちを譲へ向けて放つ。
譲はシールドを前面だけに集中して張り、それを防いだ。
「以前より強くなってはいるみたいだな」
沙月が楽しそうに言う。
「いつまでも、やられっぱなしでいるわけにはいかないからな」
譲は少し沙月の方へ歩み寄り、るいざと麻里奈との距離を取る。
2人を守りながら戦うのと、気にせず戦うのとでは戦略に天と地程の差が出る。
今回はとりあえず、船底に穴が空いているのは確実だから、敵の撤退までもたせられればそれで良い。
恐らく密輸の武器類はとっくに運び出しているだろうから、ここに残ってるのは単なるカモフラージュだろう。
「前回の男は、シールドだけで正直つまらなかったんだ。少しくらい遊んでくれよ」
そう言うと、沙月は連続してかまいたちを放つ。それを器用に最低限のシールドで逸らすと、譲は逆にPKを放物線で放つ。
沙月はそれをひらりと飛んで綺麗に避ける。
代わりに地面に複数の穴が空く。
「逃げてばかりか?」
譲が、着地した沙月を銃で撃つ。
咄嗟にシールドを張って銃弾を防いだ沙月に、譲は再度PKを左右から放物線を描いて放つ。
沙月は後ろに飛んでそれを避けたが、PKは更に方向を変え、沙月を捉えた。
全てではないが、幾つかは命中した感触に、譲は沙月との距離を詰める。
沙月はダメージを受けたわき腹を押さえながら、かまいたちを譲に放った。
至近距離でのかまいたちに、譲がシールドを展開する。が、同威力だったらしく、かまいたちとシールドは両方砕け散った。
その隙に、沙月が譲の手を捕る。
ぐいっと引き寄せられ、譲の身体がバランスを崩し沙月に抱き留められる。
が、譲もされるがままではない。沙月の懐から、銃を顎に突き付ける。
「撃ってもシールドに阻まれるだけだ」
「衝撃をどこまで吸収するか、楽しみにさせてもらおう」
「チッ」
舌打ちして、沙月が譲から離れる。
と、そこにテレパシーが響いた。
『そろそろ時間だ』
見つめ合う譲と沙月。下手に動けば、致命傷になりかねない。
数秒の睨み合いの末、沙月が両手を上げた。
「あーもー、今日は俺の負けだ。ここのところ勝ち続きだったのに!」
「そういつまでも同じだと思われたら心外だな」
「ま、だから譲とやり合うのは楽しいんだけどさ」
「迷惑極まりない」
「辛辣」
沙月は笑うと、譲に歩み寄る。
「また来る。ベストはアメリカ連合軍に入ってくれることだけど、こうしてやり合うのも楽しいからな」
そう言うと、沙月はすれ違いざま、譲に触れるだけのキスをして、ふわりと飛んだ。
譲の視線の先で、船の甲板へと降り立った沙月に、男が何やら話している。前回見たときに、どこかで見た気がした男だ。
『遅い。何遊んでるんだ』
『つい、楽しくて』
テレパシーの感度を上げて、会話を聞く。
そんな譲にるいざと麻里奈が駆け寄ってくる。
「譲、あの沙月と話してるのが、克己の弟さんよ」
るいざの言葉に、譲と麻里奈が納得する。
どうりでどこかで見たことがあると感じたわけだ。顔立ちが、克己に似ている。
と、そこに少女が現れた。
『今日は克己兄さんは居ないのね』
『居ない。て言うか、兄って言うな』
『……ごめんなさい』
少女は俯いて、船内へと入ってしまう。
「今のが妹のようだな」
「そうね」
簡単な英語だったため、聞き取れたらしいるいざが複雑な表情をする。
譲から、敵軍に克己の弟妹が居るとは聞いていたが、まさか本当に居るとは思っていなかったのだ。
克己の弟は、船に入る前に、ジロリと譲たちを睨み付けて、そのまま行ってしまった。沙月は彼を追うように船内へ入る。
そして数秒後、アメリカ連合軍の船はテレポーテーションでこつ然と消えたのだった。