22.るいざの怒り
ゲートフロアに揃った3人は、そのまま駐車場へ行き、譲の運転で出撃した。
「場所はどこ?」
「前回と同じ、新橋だ」
るいざが後部座席から聞くと、譲が答えた。
それを聞いて、同じく後部座席に座っていた麻里奈がなにやら鞄をゴソゴソしはじめた。
「じゃあ、到着まで少し時間がかかるわよね? 良かった~。こんな事もあろうかと、マリアのクッキーを持ってきたのよ」
車内にバターの良い香りが充満する。
「……遠足じゃないんだぞ」
「そんな事言って、譲だって食べるんでしょ?」
そう言うと、麻里奈は運転中の譲の口元にクッキーを差し出す。
食べるまでそのままになりそうな予感がして、譲はクッキーに噛み付いた。
「ほら。るいざもどうぞ」
「じゃあ、遠慮なく。あ、でも喉が渇いちゃうかな?」
「心配無く。紅茶もちゃんと持ってきてるわ」
「なら安心ね」
何が安心なのか良く解らないが、どう見てもこれから任務に向かう車内とは思えない。
譲はクッキーを咀嚼すると、麻里奈に聞いた。
「そう言えば、さっき克己に連絡していたが、憲人の事でも頼んだのか?」
譲との通話が終了する前に、麻里奈から克己へ連絡が入っていたのが気になっていたのだ。
すると麻里奈はあっけらかんと言った。
「違うわよ。マリアとソフィアが沢山お菓子を作ってくれたから、取りに行くように頼んだの」
「……」
思わず譲が無言になる。
が、その沈黙はるいざが破った。
「今日は何を作ってくれたの?」
「クッキーにパンプキンタルトにスコーン! スコーンが焼けたら、克己に手伝ってもらって運ぼうと思ってたんだけど、任務が入っちゃったから」
「そっか。それで、クッキーがサクサクなのね」
「そうなのよ。これを置いてくるなんて出来なくて、つい持ってきちゃった」
全く悪びれずに麻里奈はそう言うと、クッキーを食べながら譲に聞いた。
「それで、今回もアメリカ連合軍なんでしょ? 立て続けだけど、何かあるの?」
「あると言えばあるな」
「何その含みのある言い方?」
譲は運転しながら後部座席の中央にウィンドウを開く。そこには、武器の密売記録が記載されている。
「前回、上陸してきた時に、アメリカ連合軍の部隊の内、約半数が日本国内へ武器を持ち込んだんだ」
「え、なにそれ?」
「持ち込んだ武器は、種類は多いが纏まった数じゃない。が、どうやらそれをサンプルとして、日再や反日再の組織に売りつけたようだ。それで、受注が取れたから、今回は納品ってところだな」
「じゃあ、特殊能力者は何しに来たの?」
「カモフラージュだろ。アメリカ連合軍的には、日再と反日再の組織で潰し合ってくれればありがたいからな。表立って武器を売りさばきはしないさ」
るいざが眉をひそめて言った。
「じゃあ今回もカモフラージュ?」
「だろうな」
「……そんな事の為に、克己はあんな怪我したの!?」
るいざが怒る。
が、怒るべき相手はここには居ない。
「派手にやればやるほど、カモフラージュとしては成功だからな。それに、ついでに能力者を始末できればお手柄だろ」
「許せないわ!」
「そう思うなら、直接相手に言ってくれ」
譲は前回止めた、陸軍の駐車場へ車を止めると、車から降りた。
「ここからは、海軍の車に乗って行く」
「テレポーテーションが無いと、地味に不便ね」
麻里奈が呟く。
「もう少しトレーニングすれば、俺の力でも飛べそうだけどな」
「いつも思うんだけど、譲はいつトレーニングしてるの?」
「毎日少しずつ」
「譲と努力って言葉が結びつかないのはなぜかしら……」
そこにちょうど、海軍の車が到着した。運転手は前回お世話になった岡田である。
「迎えに参りました! 海軍第3部隊所属、岡田清澄少尉であります!」
「特殊能力課、縣だ。よろしく頼む」
「お噂はかねがね。どうぞ、乗ってください」
そう言われ、3人は車に乗り込んだ。
「それでは、発進します」
岡田が車を発進させると、助手席に乗り込んだ譲が口を開いた。
「今回も、拠点が作られてるのか?」
「いえ。今のところその気配はありません」
「相手の目的は聞いているか?」
「いえ、わかりません。上官からは、前回同様に船が突然現れたため、特殊能力課の管轄になるとしか。あ、でも、バックアップはするように言われています」
「そうか。分かった」
譲は会話をテレパシーに切り替え、麻里奈とるいざに言った。
『武器の密売については、極秘事項だ。知らない事にしておけ』
『了解』
『はーい』
船が近くなってきた時、譲は車を止めさせた。
「ここでいい」
「しかし、まだ距離がありますが……」
「ここからなら飛べるから問題無い。それに、ここからは相手の射程圏内だ」
「こんな遠くから、ですか?」
譲が車を降りると、それに倣って麻里奈とるいざも降りる。
「どうするの、譲?」
るいざが聞いた。
「船の近くに飛ぶ。多分、沙月が出てくるから俺が相手をする。2人は他の能力者を探してくれ。恐らく、船に克己の弟妹が乗っている筈だ」
「わかったわ」
「今日はシールドが無いから気を付けるように」
「そうだったわね」
「攻撃は最大の防御よ!」
麻里奈が物騒な事を言う。が、るいざもまだ怒っているようで、コクリと頷いた。
「それじゃ、飛ぶぞ」
譲はるいざと麻里奈の肩に触れると、船の側へテレポーテーションした。