21.久しぶりの農場
翌日、麻里奈は克己に憲人を任せて、張り切って農村ブロックへ行った。
「うーん、土と草の匂いが懐かしい!」
離れていたのは数日なのだが、懐かしさを感じて感動してしまう。
久しぶりの農場だけあって、やりたいことは山のようにあった。だが、今日はとりあえず最低限、確認しておかないといけないことだけをやって、終わりにする予定だ。
農村ブロックの入り口から、中央の家までは意外と距離がある。譲に聞いた話だと、農村ブロックは2km×1kmの長方形をしていて、縦は50m程あるらしい。まあ、その内の何割かは土が入っていたりするので、総てが使えるスペースではないが。そのため、中央に位置する農家までは単純計算で1kmあることになる。実際は、道が曲がっていたり、石畳だったり土だったりで歩きにくい事も含めると、1kmとは言え、それなりの時間がかかるのだ。
麻里奈は久しぶりの道を歩きながら、キョロキョロと辺りの農産物を確認する。
「どの子も元気そうね。ジョンのお陰かしら」
天気も良いし、久しぶりに身体を動かしたので、気持ちも良い。
「あ、ソフィア!」
遠くにソフィアの姿を見つけて、麻里奈は大きく手を振った。すると、声が聞こえたソフィアも手を振り返してくれた。
『麻里奈さん、久しぶりー!』
「久しぶり! 元気だった?」
『うん! 麻里奈さんは?』
「私も元気よ! 憲人はちょっと体調崩してるけど、良くなってきたところ」
『そうなんだ! それで最近会えなかったんだね』
「そうなの。それで、今日はとりあえず、農作物の様子をこの目で見たくて、1人で来ちゃった」
『麻里奈さん、農作物を大事にしてるもんね。大丈夫。麻里奈さんが来れない間は、農場はお父さんが、上のフロアは私がちゃんと管理してたから!』
「安心はしてるけど、一応ね。自分の目で見たいなと」
『その気持ち、わかる! 麻里奈さんが私たちを信用してくれてるのは知ってるから、遠慮なく確認していって! 私はお父さんとお母さんに、麻里奈さんが来たって言ってくる!』
「ありがとう。ジョンは今どこに居るの?」
『畑に居る!』
「じゃあ、ジョンとは直接会うから伝えなくていいわよ」
『分かったわ。お母さんに伝えてくる! お土産期待してね!』
「楽しみ! 嬉しいわ」
『久々だからお母さんも私も、張り切っちゃう!』
そう言うと、ソフィアは走って家に入っていった。
麻里奈は家を通過すると、畑がたくさんあるゾーンへ歩いていった。
畑は沢山あるが、この時期背の高い物は余りないので、ジョンの姿はすぐに見つかった。
「おーい! ジョン! 久しぶりー!」
『やあ、麻里奈ちゃん。元気だったかい?』
「ええ、元気よ!」
麻里奈はジョンの方へ歩いていく。
ジョンはカボチャを収穫している最中だった。
「ちょうど良いサイズのカボチャね!」
『甘味もあって、水分もある、良いカボチャだよ』
「そう言えば昨日、るいざがポタージュにしてくれたけど、美味しかったわ」
『そうかい。そう言われると張り合いもあるってもんだ!』
「畑の具合はどう?」
『どれもいい感じに育っているよ。大丈夫』
麻里奈は辺りを見渡すと、満足そうに頷いた。
「さすが、ジョンね。管理が完璧だわ」
そこから麻里奈はジョンに軽トラを借りると、農村ブロックを一周見て回った。そして、上のフロアも全て問題無い事を確認すると、最後に農家へ寄った。
「おじゃましまーす」
『麻里奈さん!』
『麻里奈ちゃん。いらっしゃい!』
ソフィアとマリアが出迎えてくれる。
「すっごくいい匂い! 何を焼いてるの?」
『今はスコーン!』
『他にも、クッキーとパンプキンタルトに、ジャムもあるよ』
「すごーい! 豪華すぎて、持ちきれないかも!」
『軽トラで入り口までは送るよ。誰かにそこまで取りに来てもらったらどうだい?』
「そうするわ」
麻里奈は帰るときに克己に連絡を入れて、迎えにきて貰うことにして、キッチンのテーブルについた。
『紅茶で良いかい?』
「もちろん!」
出してくれる物に文句は言わない。
そんな麻里奈の前に、アイスボックスクッキーが置かれる。
「美味しそう! いただきまーす!」
麻里奈は早速、クッキーへと手を伸ばした。
一方その頃、今日もコンピュータールームにこもっていた譲の元に、緊急メールが届く。
「ん」
一旦作業する手を止めて、譲はメールを開いた。すると、メールは一條からの、緊急出動要請だった。
「アメリカ連合軍……か。意外と遅かったな」
そう呟いて、譲はるいざと麻里奈にウィンドウを繋ぐ。
『はーい?』
るいざは憲人の部屋に居たらしく、背後に克己と憲人が映っている。
『今おやつ中なんだけど、何?』
モゴモゴしながら麻里奈が言った。
譲は1つ大きなため息を吐くと、るいざと麻里奈に言った。
「緊急出動要請だ。相手はアメリカ連合軍。出発はすぐ。準備が出来次第、ゲートフロア集合だ」
『分かったわ』
『えー……、はーい』
ハキハキ答えるるいざに対して、久しぶりの癒やしの時間を邪魔された麻里奈は不服そうながらも、しぶしぶ返事を返した。そしてウィンドウを閉じると、今度は克己から通話が入りウィンドウが開く。
「却下だ」
『まだ何も言ってないんだけど!?』
「言わなくても分かる。行きたいとでも言うんだろ?」
『う……そうだけど』
「却下」
『そこを何とか!』
「無理だ。足手纏いだ。それに、今憲人を1人で留守番させる気か?」
その言葉に、克己が言葉に詰まる。
『くっそ~……。痛いとこ突きやがって』
「大人しく留守番しておけ」
と、今度は麻里奈から克己へと通話リクエストが届く。
『あーもー、わかったよ!』
そう言うと、譲との通話は切れた。
今回は克己が諦めたが、何か対処を考えないといけないなと、譲は思った。克己の能力はテレポーテーションだ。その気になれば1人で現地に行ける。そうなる前に、何か手を打たないといけない。
「まあ、後か」
とりあえず、出撃すべく、譲はコンピュータールームを出てゲートフロアへ向かった。