19.3人の夕食
「たっだいまー!」
そう言って、元気よく克己が帰ってきたのは夕食のすぐ前だった。
「おかえり、克己。本部はどうだった?」
キッチンで克己を出迎えたるいざが、聞く。
「特に問題無く。て言うか、いい匂い。帰ってきたって感じがするな!」
「もうすぐ夕ご飯だから、荷物、部屋に置いて来たら?」
「そうする!」
そう言うと、克己は住宅ブロックへと行きかけて、戻ってきた。
「どうしたの?」
「いや、そーいえば憲人の具合はどうなった?」
どうやらずっと気にしていたらしい。
「目も覚ましたし、回復してきてるわよ。お昼もお粥と白菜の煮物を食べたわ」
「良かった。心配だったんだよな~。食欲が出てきたなら、もう大丈夫だな。んじゃ、荷物置いてくる!」
「いってらっしゃい」
克己は今度こそ住宅ブロックへと走って行った。
るいざはそれを見送ると、鍋の中身をかき混ぜた。今日は、ロールキャベツにしてみた。味付けは薄めのトマト味だ。憲人が食べるので、余り濃すぎない味にしてある。物足りない人はケチャップをつければいい。ついでに、コンソメのシンプルなリゾットも作ってみた。こちらはやわらかめにして、お粥がわりにどうかと思っている。
「そろそろサラダも盛り付けないとね」
普通の食事も忘れず用意する。特に、克己が戻ってきたので、ボリュームも必要だ。
るいざはサラダをボウルに盛り付け、カボチャのポタージュも用意する。
克己は多分、荷物を置いた後、シャワーを浴びてくるだろうから、もう少し時間がかかるはずだ。
「そう言えばチーズもあったわね。トッピングできるように、いくつか出しておこうかしら」
チーズなら腹にもたまるはずだ。
「それから、デザートも用意しなくちゃ」
こちらは麻里奈がそろそろ不満を訴える頃だと思われるので、重要である。幸い、今日は運ぶ人間が2人居るので、多少かさばっても問題無い。
「冷凍のアップルパイをオーブンで温めて、トッピングをたくさんにしてあげよう」
克己も譲も食べるだろうから、ホールで解凍しても足りないかもしれない。
まあ、足りない分は、農場のマリアさんのクッキーもあるし、大丈夫だろう。
そんな感じでバタバタしていたら、克己より先に、譲がテラスに姿を見せた。
「あれ? 早いわね」
「作業がちょうど、一区切りついたんだ」
「そうなのね。今用意するからちょっと待ってね」
「急がなくて良いぞ。俺は休憩してる」
「はーい」
譲が手伝わないのはいつものことなので、るいざも気にしない。
譲は椅子に座り、メガネを外すと、ぼんやりと中央に植えられている木を見ていた。
「お疲れ?」
「それなりに」
先に飲み物だけでもと思い、コーヒーを出すと、譲は礼を言って、コーヒーを飲んだ。
「後は運ぶだけか?」
「そうだけど、克己がまだだから譲は休憩してても平気よ?」
その言葉に、譲がるいざに聞いた。
「克己は戻ってきたのか?」
「さっきね。今部屋に荷物を置きに行ってるわ」
「そうか」
ここを管理している譲が、人の出入りを把握してないのはどうなのだろうとるいざは思ったが、真維が把握していれば問題無いのかもしれないと思い直した。それに、他でもない、克己である。きっと不審者なら、譲も気付くに違いない。多分。
と、そこに克己が戻ってきた。髪が濡れているところを見ると、やはりシャワーを浴びてきたようだ。
「お、譲。久しぶり!」
そう言うと、克己はテラスを通過してキッチンへとやってくる。
「手伝うよ。何すればいい?」
「ありがとう。とりあえず、テーブルを拭いて貰えるかしら?」
「OK。つか、譲はなんにもしないのか」
「なんだか疲れてるみたい」
「なんで? 何かあったのか?」
「特に何も無いはずなんだけど、ここのところ忙しそうなのよね」
「ふーん」
克己はチラリと譲を見ると、何も言わずに台拭きを手に取った。
その日の夕食は、久しぶりに賑やかだった。
克己が居ない間は、譲とるいざの2人だったので、自然と会話は少なく、ほぼ無言での食事だったのだ。まあ、それが苦かと言われるとそうでもないので、問題は無いのだが、どうせなら楽しく賑やかな方が良いとるいざは思う。
「で、福本さんと白石さんが、譲によろしくって言ってたぜ」
「そうか」
本部での出来事を克己が話し、譲が相槌を打つ。克己は昼は研究部での実験に参加し、夜は神崎に護身術の稽古をつけてもらってきたらしい。元気かつ、コミュ力の高い男である。
「神崎さんは強いな! 譲もあの人に護身術を教わったんだろ?」
「ああ」
「体格も良いけど、力だけに頼らないところが凄いよな」
「そうだな。俺でも実戦で使える戦い方を教えてくれるしな」
「俺もたまに本部に行って、稽古つけてもらおうかな」
克己はそう言うと、ロールキャベツを口に入れた。
「やっぱ、るいざの飯は美味いよな~。本部から帰ってくると余計にそう思う」
「本部のご飯も、味はわりと良いけどね」
「味はな。でも、味気ないんだよな」
「それは同意するわ」
克己に手放しで褒められ、るいざもまんざらでもない。それに、克己は量も食べるので、見ていて気持ちがいいのだ。
「たくさんあるから、好きなだけ食べてね」
「やった!」
克己から本部の話を聞きながら、るいざは一足先にデザートを食べる。早く憲人が良くなって、また5人でわいわい言いながら食事がしたいなと思いながら。