17.目を覚ました憲人
「ん……」
小さなうめき声とともに、憲人の目蓋が上がる。それを見て、うとうとしかけていた麻里奈は、飛び起きた。
「憲人!?」
突然の大声に、憲人がぼんやりとそちらを見た。すると、枕元に居るのは心配した表情の麻里奈だった。
「麻里奈……? あれ、俺……?」
頭がぼんやりしていて、重い。そして、暑いような寒いような複雑な感覚。声も出しにくい。喉は痛くはないけれど、からからに渇いている感じがする。
「憲人? 大丈夫?」
「うん……。喉、渇いた」
「ちょっと待ってね。今お水持ってくるから!」
麻里奈は慌てて部屋のキッチンへ行き、常温のペットボトルとコップをお盆に乗せ、憲人の部屋へと戻る。このペットボトルは譲が事前に用意してくれた、栄養剤と水分補給の両方ができるという、液体だ。麻里奈が味見しようとしたら、医療用らしく、吸収しやすいように、常温で憲人に飲ませるように注意されてしまった。
部屋に戻ると、麻里奈はコップに液体を注ぐ。そこではたと、憲人が横になったままではコップから飲むのは難しい事に気付く。が、部屋にストローのストックなどはない。
麻里奈は憲人の身体を起こすと、枕と布団で背もたれを作り、コップを差し出す。
「持てる?」
憲人は手を持ち上げたが、力が上手く入らないようで、首を横に振った。
仕方なく、麻里奈が憲人の口にコップを持って行き、ゆっくり飲ませてやる。
少し、口の橋から零れたが、憲人は喉を潤せて満足したようだった。
疲れたようにまた横になると、憲人は麻里奈を見た。
「俺、風邪、引いたの?」
「風邪より悪いわよ。例の特殊ウイルスにかかったのよ」
「ああ。あの」
憲人はぼんやりしながらも納得したようだ。
「それより、大丈夫? お水、もっと飲む? 苦しくない?」
「大丈夫……。なんかぼんやりするけど」
「まだ熱があるから仕方ないわ。今はゆっくり休んで、少しでも元気が出たら食事をしましょう?」
「うん……」
そう言うと、憲人はうとうとし始めた。
麻里奈は邪魔をしないように、テーブルにお盆を置くと、ウィンドウを立ち上げる。
『どうした?』
ウィンドウに譲が表示され、麻里奈に聞いた。
「今、ちょっとだけ憲人の意識が戻ったの」
『そうか。何か言っていたか?』
「えっと、喉が渇いたって。後、風邪引いたのかなって。だから特殊ウイルスにかかったのよって話したんだけど」
『受け答えは割とマトモだな』
「ぼんやりはしてるみたいだったけど。それに、お水飲んだらまたすぐに寝ちゃったわ」
『身体が回復しようと必死なんだろ。とりあえず、様子を見に行くから』
「うん。お願いね」
ウィンドウを閉じると、麻里奈は憲人の布団からはみ出している手をしまい、ズレてしまった氷嚢の位置を戻す。
「でも、無事乗り切れそうで良かったあ」
麻里奈は心底、安心したような声を出した。
譲は荷物を持って、麻里奈の部屋に訪れた。
「何その荷物」
「麻里奈の部屋には無さそうなモノだ」
特に扱いに注意が必要な物では無いようで、さっさと渡される。麻里奈が中を見ると、水分の他に、栄養補給ゼリーや、ストロー、レトルトの粥などの看病グッズが揃っていた。
「譲、気がきくのね!」
「というか、コンビニで揃うから、次からは自分で準備しろ」
「はーい」
麻里奈も、普通の風邪ならここまで動揺せずに看病出来たのだろうが、今回は相手が特殊ウイルスである。
いや、しかし、麻里奈も浩和も既にかかっているはずなのだが。
「ちなみに、お前と浩和は、特殊ウイルスにかかったとき、どうだったんだ?」
「私と浩和? ほとんど熱も出なくて、普段通り畑をやってたわよ?」
「そうか」
個人差があるとは言え、症状か軽いにも程がある。
譲は憲人の部屋に入ると、椅子に座って憲人の手首にバンドを巻き、メディカルチェックを始める。
「まだ起きたりは辛いかもしれないな」
「さっきは手に力が入らないみたいだったわ」
「だろうな。横になったまま飲めるように、ストローが入っているから、使ってやれ」
「ありがとう。さっきはコップだったから少し零しちゃって」
「ストローも無かったのか」
「だから持って来てくれたんじゃないの?」
「俺のは念のためだ」
呆れて譲が言い、ウィンドウを開いた。
メディカルチェックの内容が次々と表示されていく。
「熱は大分下がってきたな。この分だと、起き上がれるようになるのもすぐだろう」
「ホント!?」
「ああ。だが、しばらくは安静にしていた方が良いな」
「それはもちろん」
「食事も、しばらくしてないから、るいざに消化しやすい物をリクエストしておく。今日、何か食べたがったらコンビニで何とか凌いでくれ。明日は、食事を少しずつ始めよう」
譲はデータを見ながらそう言う。
ふと、譲の視線がウィンドウの一点で止まる。
「何かあった?」
「いや。まだわからん」
「?」
麻里奈に聞かれたが、譲は特に何とは言わなかった。麻里奈も、深くは追求しなかった。
譲はウィンドウを閉じると、メディカルチェックの道具を片付け、麻里奈に言った。
「多分、もう大丈夫だとは思うが、急変する事もある。あまり目を離さないようにな」
「こんな状態の憲人を置いて、どこかに行ったりしないわよ。安心して」
「それじゃ、俺は行くから」
「うん。ありがとう」
そう言うと譲は部屋を出た。
そして、もう一度ウィンドウを開き、項目を確認する。
「やっぱり高いな……」
先ほど譲の視線が止まった項目、それは能力反応の数値であった。
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