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14.研究部①

 久し振りの外を、勢い良く車を走らせ、克己は本部へ向かっていた。約束の時間までは余裕があるが、同乗者が居ない車というのが久し振りだったので、誰に気にすることもなくスピードを出せる。普段なら瓦礫でガタガタするのに気を使わなくてはならないが、1人なら気にしなくても良い。コーナーを攻めて、横のGがかかるのも楽しい。

 そんな風に運転していたら、時間より早く本部に着いてしまった。


「やべ。早すぎた」


 約束の時間は14時だったが、まだ13時30分にならない。

 一応駐車場には入れたので、そこで指定された箇所に車を止める。

 今回は克己1人と言うこともあって、道案内代わりに、研究部の迎えが来る事になっていた。

 多分1人でも研究部までたどり着けないことは無いだろうが、本部は建て増しを繰り返しているせいと、シェルターゆえの景色の変わらなさとで、かなり迷いやすい。

 さて、どうしたものかと克己が車を降りると、駐車場と内部の通用口に、見知った顔を見つける。


「浩和?」

「あれ? 克己さん? どうしてここに?」

「それは俺も聞きたいんだけど?」


 なんと麻里奈の弟の浩和とバッタリ会ったのだ。


「俺は研究部へ派遣されて来たんだけど、浩和は?」

「北海道再建の定期報告に。でも、まさかこんな所で会うなんて思わなかったなー。実はこれからそっちに行こうかと思ってたんですよ」

「そうなのか。でも今は止めておいた方が良いぜ。あ、ちなみに麻里奈は超元気」


 克己の言葉に、浩和が不思議そうな顔をした。


「何かあったんですか?」

「んー、憲人がさ、例のウイルスにかかってダウンしてる」


 克己はやや声を落としてそう言った。憲人の事は、日再にはまだ報告していない。どこで誰が聞いているのか分からないから、念の為にだ。

 すると、浩和は成る程といった顔をした。この姉弟は表情が分かりやすいところがそっくりである。


「じゃ、寄るのは次回にしようかな」

「悪いな。帰ったら浩和と会ったことは麻里奈に伝えておくから」

「いえ、いいですよ。お互いもういい大人だし、また会えると思ってるから」


 素直な真っ直ぐな瞳でそう言った浩和に、克己も頷く。


「次回は歓迎するよ。ところで、麻里奈と浩和が例のウイルスにかかったときはどうだったんだ?」

「俺と麻里奈? ほとんど熱も出なくて、普段通り畑をやってたかな」

「そりゃすげぇ。症状が軽かったんだな」

「ですね。それじゃ、るいざさんの手料理、楽しみにしてます。俺はこれで」

「おう。またな!」

「また!」


 そう言うと、浩和は自分の車に乗って駐車場から出て行った。


「これから北海道かあ。遠いなー」


 道路の整備すらまだままなっていない現在、空路などあるわけもなく、電車も当然無い。浩和は北海道まで、自力で運転して帰るのだろう。

 克己が出口を見ていたら、今度は声をかけられた。


「おや、克己君。早かったね」


 声のした方を見ると、白石が白衣姿のまま通用口に居た。ちょうど今来たところのようだ。


「1人で車に乗るのが久し振りだったからさ、スピード出してたら早く着いたってワケ」

「成る程。それはさておき、久し振りだね。元気だったかい?」

「もちろん。白石さんは?」

「ボチボチといったところかな」


 克己は通用口を抜け、先導する白石について本部へと足を踏み入れた。


「今回は克己君1人と聞いて驚いたよ。譲君が他人に仕事を任せるのは稀だからね」

「あー。確かに、アイツそう言うところあるよな」


 自分でやった方が早いのと、説明が面倒なのとで、人に任せたがらない。それが、信頼出来ない相手なら尚更だ。


「そう考えると、克己君を随分信頼してるんだろうね」

「まあ、今回は誰でも良かったっぽいけどな」


 研究部のメイン事業に対して、誰でも良いと言うのはなんだが、譲は余り能力妨害装置の開発に熱心ではない。今回、たまたま克己が派遣されたが、単に都合が良かっただけだろう。

 白石にしてみれば、どちらにしてもあまり嬉しくない理由だろう。

 と、白石が思い出したように、白衣のポケットからゲストのカードキーを取り出した。


「これを渡しておくよ。行ける場所は主に研究部内だ。それと、後で案内するが、ゲストルームの鍵もそれだ。首から下げておくと、どこの所属かが分かりやすいから、無用な諍いが起きなくて良い」

「OK」


 渡されたカードキーはネックストラップが付いていたので、克己はそれを首にかける。


「食堂なんかは覚えているかい?」

「よく使った場所は覚えているよ」

「なら、案内は要らないね。もし分からないことがあったら、誰でも良いから聞いてくれ」

「OK。あ、そう言えば譲から、データを預かってるんだけど、白石さんに渡せば良いのか?」

「聞いてないな。取りあえず、貰っておこう」

「アイツ、本当に連絡が雑だな……」


 克己はメモリースティックを白石に渡す。特に誰に渡せとは指定されなかったので、白石でも問題ないハズである。


「後で端末で確認するよ。旧式過ぎて、今どうこうは出来ないからね」

「だよな。俺もそれ、久々に見たしな」

「メールで送ってくれれば事足りると思うんだけどね」

「本当にな。つか、今度言っておくよ。聞くかどうかはわかんねーけど」


 克己の言葉に白石は驚く。


「本当に、譲君と随分、親しくなったんだね」

「そりゃまあ、一年半くらい一緒に居るからなあ。それなりに親しくはなるよ」

「時間だけの問題でもないだろ?」

「確かにそうだけど。譲に関しては、俺が一方的に言ってるところもあるしな」


 克己も、未だに譲がどういう人間なのか、掴んでいるとは言い難い。凄い人間なのは分かる。が、背景が謎である。かといって、譲が隠しているのかというと、そういう感じもしない。まあ、譲の事だから、上手く隠しているだけかもしれないが。


「ほら。歩み寄らないと、近くはならないだろ? アイツから来ないのは確実だからな。仕事を円滑にするためにも、俺からぶつかるしか無いワケだ」


 克己の言葉に、白石は驚いた顔をしてから、笑った。


「なるほどな。一理あるね」


 そう言うと、白石は研究部の入り口のドアを開いた。

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