12.シールドの種類
憲人はダウンしているとは言え、他のメンバーは元気なので、麻里奈を除いてほぼいつも通りの予定だ。と言うわけで、午前中は克己のトレーニングだった。
かと言って、全開で動くのは無理があるので、前回のアメリカ連合軍との戦闘で明らかになった、シールドの展開方法についてである。
「シールドを張ると一口に言っても、色んな張り方がある。主には、いつもお前が使っている面で張る方法、それから、網のように張る方法、小さな面をつなぎ合わせてモザイクのように範囲にして展開する方法だな」
「へえ。色々あるんだな」
譲の説明に、克己が驚く。無意識に使っていた力なので、分析などしたことが無かった。
「ちなみにどれも一長一短だ。面で張る方法は、広く守れる代わりに、強度は分散される。網は強度は増すが、穴は出来る。モザイク方式が一番強度は出るが、いかんせん範囲が狭いな」
「沙月の攻撃は一点集中型で、攻撃力が高い上に、どこに来るのか分からない強みもある。厄介だな」
克己が呟いた。
それに、譲が呆れた顔をした。
「確かに、一点集中型だが、どこに攻撃が来るかは、分からない訳じゃないぞ」
「え?」
「沙月が使うのはかまいたちだ。基本的に、沙月から相手に向かってしか発動しない。つまり、前からしか来ないんだ」
「横とか後ろは?」
「風を曲げる過程で、ロスが出て威力が落ちる。ここぞと言うときには使わないな」
「成る程」
譲の分析力には頭が下がる。
「じゃあ、モザイク方式が一番相性が良いのか」
「念の為、網か面も張って、二重にするのが一番だな」
「二重! 思いつかなかった!」
「そこは真っ先に気付けよ」
前回の戦闘中に気付いていれば、もっとマシな戦いが出来たのにと、悔やまれる。やはり、現地に譲が居ないのは、大幅な戦力ダウンになる。
「とりあえず、シールドの張り方を練習しよう。複数の張り方を覚えておいて損は無い」
「OK。なあ、これを使いこなせるようになったら、アメリカ連合軍との戦……」
「却下だ」
克己は残念そうな顔をしたが、すぐに切り替えて、久々のトレーニングへ準備する。
譲はウィンドウを立ち上げて、何か操作した。
「これで、シールドが見えるはずだ」
「シールドって見えるように出来るのか!?」
驚いて聞いた克己に、譲は淡々と答える。
「出来る。空気の密度を上げているようなものだからな。光の屈折率を利用して……まあ、それはいい。とりあえずいつものシールドを張ってみろ」
「OK」
克己はシールドを展開した。
昼食を食べていると、譲の所にメールが来た。譲は箸を止めて、メールを開く。
ちなみに今日の昼食は、餡掛け豆腐に炊き込みご飯、ぶり大根、きんぴらごぼう、鶏の照り焼きに、白菜の味噌汁だ。
「研究部から、職員の派遣依頼だ」
「そう言えば、前回協力してから、随分経ってるわね」
るいざが思い出したように言った。
研究部では現在、能力妨害装置の研究が進められている。
「前回、理論からやり直しになったからな。時間がかかったんだろう」
「今度は性能良いのかな?」
「さあな。行ってみないと分からないが、今回は俺は行けそうもない」
「なんで?」
譲の言葉に克己が聞いた。
「憲人を放って行くわけにもいかないしな。それに、アメリカ連合軍が多分近々来る」
「そうなのか?」
「多分な。前回、別部隊で動いてた奴らが、人員不足に陥ったようだから、増援に来るはずだ」
「そう言や、別部隊が居るようなことを言ってたな」
譲はどこからそんな情報を手に入れるのか。
譲は味噌汁を飲みながら、克己に言った。
「研究部の方、1人で頼めるか?」
「俺で何とかなるか?」
「不安ならるいざと2人でも良いが」
「私!?」
不意に話を振られて、るいざが驚く。
「て言うか、それ、いつの話なの?」
「早ければ早い方が良いそうだ。明日か明後日だな。で、泊まりで3日間だ」
その言葉に、るいざは難色を示す。
「麻里奈が心配だから、出来れば行きたくないわね」
もっともである。
憲人が元気ならいざ知らず、今の憲人と麻里奈を放って行きたくはない。
「だよなあ。しゃーねー。1人で行ってくるか」
「そうしてくれ。先方には、その旨返信しておく」
「おう」
克己は鶏の照り焼きにかぶりつき、ため息を堪えた。本部に行っている間にアメリカ連合軍か来たらと思うと、落ち着かない。が、今のままではどちらにしても留守番だ。
「なあ、譲」
「何だ?」
「アメリカ連合軍との戦い。本当に、俺が出ちゃダメなのか?」
「くどいな」
「引けないだろ」
譲は大きなため息を吐いた。
「ダメなモノはダメだ。せめて、何か理由を
持って来い。俺を説得出来るだけのな」
「それが出来ないから直球で行ったんだけど」
「阿呆か」
悔しいが、何も言い返せない。
譲を説得出来るだけの理由なんて、克己には思い浮かばなかった。
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