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8.いつもの朝食

 翌日、るいざが朝食を用意していると、一番に克己が姿を見せた。


「Morning」

「おはよう。傷はどう? 平気?」

「昨日より随分良いよ。つか、ずっと部屋に居たから、早く外に出たくてさ」

「克己はアウトドア派だものね。病院に居たときも、外に出たい出たいって言ってたし」

「ずっと地下のシェルター暮らしだったんだぜ? それも、ここみたいに景観に配慮している施設ならともかく、本当の戦時中に一時避難するようなシェルターだったし」

「まあ、あれは気が滅入るわよね。私でもたまに外に出たいーって思ったもの」


 克己は見た目はいつも通りの長袖シャツにジーパン、ランニングシューズ姿で、パッと見は怪我をしているようには見えない。が、頬と手のひらの傷にシートが貼ってある事から、彼の怪我が夢ではない事を知らしめる。


「これ、運べば良いのか?」

「怪我人は大人しく座ってて」


 そう言うと、るいざは克己が運ぼうとした皿を取り上げてしまう。


「少しくらい平気だって」

「克己の平気は譲の次にアテにならないわ。グラスに麦茶を入れてあげるから、それ飲んで大人しくしてなさい」

「譲の次って、かなり信用無くね?」

「その通りよ」

「つか、せめてコーヒー淹れてくれ。さすがにカフェインまでは制限されてないんだし」

「そう? 本当に平気なの?」

「譲が特に何も言って無かったんだから、平気だよ」


 確かに、食事関係について、食べ過ぎ注意以外、譲は何も制限していなかった。

 るいざは克己のマグカップを取ると、サーバーからコーヒーを注いで克己に渡した。


「お砂糖はテーブルにあるから、自分で入れてね」

「おう。Thanks」


 克己はマグカップを受け取ると、テラスのいつもの場所に座る。

 1日ここに来なかっただけなのに、なんだか久しぶりな気がしてしまう。

 テラスは、中央の大木に陽光のような光が溢れ、まるで外に居るような気分になってしまう。

 克己はテーブルに用意された砂糖を、スプーンに一杯、コーヒーに入れ、くるくるとかき回し、一口飲んだ。

 無意識に肩に入っていた力が抜けていく。鳥のさえずりが聞こえるような気さえしてしまう。

 目を閉じると、微かに空気が流れるのを感じる。それから、パンケーキの焼けるいい匂いに、るいざが支度をする物音。


 やっぱり今俺の居る場所はここだな。


 克己はそう改めて感じると、目を開けた。

 そうしてしばらくすると、麻里奈と憲人がテラスへやってきた。


「おはよー、克己。具合はどう?」

「おはよー」

「はよー。かなりマシになったよ。心配かけたな」


 克己がそう言うと、麻里奈は胸を張って答えた。


「本当よ! すっごく心配したんだから! でも、顔色も良さそうだし、安心したわ」


 麻里奈の隣で、憲人もコクコクと頷いている。どうやら、結構心配させてしまったらしい。


「傷は痛む?」


 憲人が、まだシートの内側に血が付いているのを見てそう聞いた。


「いや。もう塞がってるみたいで、痛み止めが無くても痛みは無いな。血はシートの内側だから、最初のがそのまま残ってるだけだよ」

「そうなんだ」

「そういえば、後でシートを貼り替えるって、譲が言ってたわよ」


 大皿にパンケーキを山盛りにしたものを持って、るいざが言った。


「そりゃ助かる。ついでに話もするか」


 いつまでも血が見えていると、克己はともかく、周りが落ち着かないだろう。

 すると麻里奈が、やや気まずそうに聞いた。


「話って、アメリカ連合軍に身内が居た件?」

「ああ。そうだけど」

「ごめんね。譲から聞いちゃった」


 済まなそうに言う麻里奈に、克己は笑って言った。


「こっちこそ悪かったな。黙ってて」

「あの状況じゃ、言う暇なんて無かったから仕方ないわよ」


 麻里奈はどうやら、病院の件は知らないらしく、単にアメリカ連合軍に克己の身内が居たとだけ聞いているようだった。だとすると、確かに気付いたのは沙月との交戦中だし、言う暇は無かった。

 そこまで譲が考えて言わなかったのかは分からないが、克己もあえて訂正はせず、そのままにする。


「でも、あの沙月相手に克己のシールドが使えないのは痛いわよね」

「俺のシールドも貫通してきたけどな」

「まあ、それはそうなんだけど」


 沙月のかまいたちは、おそらくその名の通り、風による攻撃だろう。だとすると、とてつもなく鋭利で、一点集中だと思われる。

 克己のシールドは今は面で張っている。だから相性が悪いのだ。せめてどこに攻撃されるかが分かれば、その部分だけ、より強固なシールドを貼れば良いのだが。


「麻里奈、憲人。そろそろ食べるわよ?」


 話してる間に朝食の準備が整っていた。

 今日はパンケーキにバター、ハチミツ、生クリーム、アイス、グリーンサラダにハム、ウインナー、チーズ、目玉焼き、ツナマヨ、ミネストローネ、フルーツの盛り合わせだ。


「手伝えなくてごめんね!」


 話に夢中になってしまい、手伝えなかったことを謝ると、麻里奈と憲人は手を洗い、いつもの席についた。


「それじゃ、いただきまーす」


 4人は手を合わせると、早速食べ始めた。


「いやー、やっぱここで食べる方が美味く感じるな」


 克己はあっと言う間に、パンケーキを一枚完食し、2枚目に手を伸ばす。


「分かるわ。私も風邪の後、同じ事思ったもの」

「るいざのメシはどこで食べても美味しいんだけど、気の持ちようでもっと美味くなるな」

「そうなのよね!」

「2人とも、褒めても何も出ないわよ?」


 るいざが照れ臭そうに言う。

 と、そこにようやく譲が姿を見せた。


「おっはよー、譲!」

「おはよー」

「おはよう」

「Morning」

「……」


 いつも通り無言で挨拶を受け、譲はいつもの席に座り、取り皿にパンケーキを取った。

 克己が居るというのに、全くのマイペースだ。というか、まだ半分寝ているのではないだろうか。


「譲、今日の日程は?」


 麻里奈がパンケーキの上に生クリームとアイスをトッピングし、フルーツを乗せて聞くと、譲はカフェオレを一口飲んで答えた。


「午前中は克己の治療。午後は麻里奈のトレーニング。るいざは1日、憲人の勉強を見てやってくれ。場所はいつも通り、コンソールルームだ」

「OK」

「了解」

「わかったわ」

「はーい」

「克己は食事が終わったら医務室へ来い」

「OK」


 すっかり普段通りのやり取りに、憲人は意外そうな顔をして2人を見る。


「ケンカはどこに行ったんだろ……?」

「聞かない方が良いこともあるのよ」


 小さな声で呟いた憲人に、麻里奈が小さな声で言った。

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