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7.克己の過去

 15歳の春、克己は日本へ来た。

 理由は簡単で、日本人だった母親の故郷を見てみたかったのが半分、ちょうど父親が仕事の関係で一時的に日本に居たからというのが半分だ。

 克己はアメリカに住んでいたが、父親は生粋のアメリカ人で、母親は日本人のハーフで、アメリカと日本の二重国籍だった。

 今はウイルスによる能力を得たときに起こる、外見上の変化のため、髪の色はピンクになってしまったが、元々は母親譲りのブラウンの髪に、父親譲りの緑の瞳の少年だった。

 そして、5つ下に弟が1人と、そのふたつ下に妹が1人居た。

 それなりに頭が良かった克己は、一学年スキップしていて、中学校を早く終えたため、半年程日本語学校に通い、日本の高校のスタートに合わせて日本へと留学した。

 父親はカメラマンで、当時は日本で仕事をしていたので、そこに転がり込んだ。

 日本での生活は順調で、明るい克己はまだ日本語が不自由ながらも、友達は多く、学生生活を楽しんでいた。

 それから3ヶ月程して、今度は父親が仕事に集中したいと言ってきた。克己の父親は、元々は戦場カメラマンで、今までは心臓の弱い母親と、子ども達を気遣ってカメラマンの仕事をしていたのだが、やっぱり戦争の悲惨さを世界に伝え、世界平和へと繋がる仕事をずっとしたかったのだ。

 克己はその話を聞いたとき、両手を上げて賛成した。克己自身、戦争はそんなに身近ではなかったが、父の考えは良く解ったし、そんな父を誇りにも思った。戦場に行くという事を良く解っていなかったということもある。

 反対する弟と妹、そして、反対はしないまでも、心配そうに賛成した母に背を押され、父親は戦場へ旅立った。

 それからの克己は、高校生で一人暮らしという生活を心の底から楽しんでいた。

 高校生らしい、小さな悪さもしたし、一人暮らしという立場をいかして、夜まで外で遊んだりもした。が、結局は、根が真面目な克己は、高校に通いながら友達とバイトをして、趣味に使う金を稼ぐという、普通の生活を楽しんでいた。

 その間、母親とはたまに通話をしたが、弟と妹とは特に連絡は取らなかった。

 そんなある日、戦場に行っていた父が、帰らぬ人となった。

 その連絡を受けたのは、弟だったらしい。

 そして、克己は母親からその連絡を受けた。母親は気丈に振る舞っていたが、ショックを隠しきれない様子で、しかし、覚悟はしていたのか、独りで父親を迎えに行き、そしてそのまま、帰らぬ人となった。彼女の心臓は、愛する夫の死に、耐えきれなかったのだ。

 克己は、どうして一緒に迎えに行かなかったのかと後悔したが、時すでに遅しだ。

 しかも、当時日本にいた克己は全てをリアルタイムで知ることが出来たわけではない。

 全ての連絡は、弟――叶が全て受けた。当時12歳の子供だった叶が。

 克己は、叶からの電話で事態を知ったが、当時は克己とて子供である。どうすることも出来ずに、泣き、克己を罵る叶の言葉を聞くことしか出来ず、何も出来ないまま、次に連絡を受けたのは、葬儀も全て終わった後の事で、叔母からの電話でだった。

 結局、克己は、父親はおろか、母親にすら会うことが出来なかった。

 その後、叔母が叶と詩愛を一時的に引き取る話を聞いた。克己がアメリカに戻り、2人を育てようとも思ったが、まだ未成年でただの学生の克己に、それが出来るとは思えず、叔母に全てを任せるしかなかった。

 幸い、克己に関しては、バイトをしていたのと、父親の残した克己名義の貯金があったため、生活に困ることは無かった。

 が、今までのような裕福な暮らしが出来るわけもなく、克己は一人暮らしのアパートへ引っ越した。

 その後、高校を卒業した克己は日本の大学へと進学した。肝心なときに、何の役にも立たなかった自分は、弟と妹に合わせる顔が無いと思った。それに、お互い引っ越しが重なったせいか、連絡先も分からなくなっていた。

 一度、叔母にかけた電話は繋がらず、手紙は宛先不明で戻ってきた。

 弟と妹の事が気にかかりながらも、克己は新しい生活に慣れるのに必死だったし、また、好きな学問を学べる大学生活は楽しくもあり、2人のことは後回しになっていた。

 そして、そんなある日の事だ。第三次世界大戦が起こったのは。

 初めは新たな遺跡発見のニュースだった。

 が、その研究が進み、植物が発見されると、情報統制が行われたのか、一般人には何の情報も得られなくなった。

 しかし、緊迫した雰囲気だけは伝わってきた。それは、シェルターの作成であったり、輸出入や国の出入りの規制であったり。

 そして、核が使用された第三次世界は起こった。

 克己は、近くのシェルターに避難し、そしてその外見から、差別的扱いを受け、いくつかのシェルターを転々とした。

 当時はまだ日本再興機関は無く、自衛隊が日本の防衛をしていたため、克己も何度か自衛隊に志願したのだが、国籍を理由に却下されていた。

 それとほぼ同時に、世界的な謎のウイルスが流行る。

 そんな中、克己はとある病院のシェルターで警備員の仕事を見つけ、そこでるいざと出会う。その病院は人種差別は無く、ただただ、純粋に、医療を提供している珍しい場所だった。

 そこでの暮らしに慣れた頃だ。アメリカ連合軍が攻めてきたのは。そこで、何の因果か、弟である叶と再会することになる。もちろん敵同士でだ。

 話をしようとする克己をよそに、叶は克己を攻撃し、大怪我を負わせる事になる。その時の叶の目は、克己を憎んでいるもののそれだった。

 結果として、アメリカ連合軍の奇襲は失敗し、克己は一命を取り留めた。

 それから少し経った頃だ。譲が現れたのは。

 譲はやる気なく、克己とるいざに日本再興機関の特殊任務課への勧誘をすると、帰って行った。克己に取ってはチャンスだった。

 日本を守る事よりも、戦争を終結させるために、戦いたいと思った。そこには、父親の意志を継ぎたいという思いもあったのかもしれない。

 平和な世界を作りたい。

 戦争も差別も無い、平和な世界を。

 そのための力が欲しかった。

 克己は迷わず、日本再興機関へ行くことを決めた。

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