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3.ケンカ

 医務室を出ると、そこでバッタリ、るいざと会った。


「きゃ!?」

「おっと!」

「なんだ、克己か。びっくりしたあ」

「なんだって。つか、るいざは何してるんだ?」

「遅かったから、お皿を下げに来たの」

「ああ。美味かった。Thanks」

「どういたしまして。ところで、克己は何してるの?」

「トイレ行くところ」

「ふうん。もう立って平気なの?」

「今は、麻酔が切れてきてるみたいで、ちょっと痛いけどな。でも、すぐそこだし」

「そうね。早く行ってくるといいわ。私は片付けしちゃうから」

「おう」


 そう言って、克己がトイレに向かった瞬間、るいざがふと聞いた。


「そう言えば、譲に弟さんのこと、聞かれなかった?」

「え?」

「今日の任務のこと、聞かれたかと思って」

「任務の事……は、聞かれた、な」


 克己の言葉の歯切れが悪くなる。

 少し、頭がぼんやりする。

 先程までの会話が、断片的にしか思い出せない。


 確か、譲の義理の姉の話をしていて――。


 しかし、そんな克己の様子には気付かず、るいざは言葉を続けた。


「私も任務の事を聞かれたんだけど、克己の弟さんの事は言って良いか解らなくて、克己に直接聞いてって、譲に言ったの」

「叶の……?」


 俺はさっき、譲と何を話していた?


『船に乗っていたんだ。アメリカ連合軍の船に』

『弟は能力者だ。妹は解らない』


 脳裏に自分の発言が、まるで他人のセリフのようにこだまする。


「だから、克己が聞かれたんじゃないかと思ったんだけど――、克己? どうしたの? 顔色が悪いわよ?」


 るいざがようやく、克己の様子がおかしい事に気付く。


「傷が痛むの? それとも――」


 るいざの言葉を最後まで聞かずに、克己は医務室のドアを勢い良く開いた。傷口が痛んだが、そんな事はどうでもいい。


「譲!」

「早かったな。どうしたんだ、血相変えて」


 譲は普段通りの調子で、克己を見た。

 医務室に入ってきた克己は怒り心頭の様子で、譲に詰め寄ると、襟首を掴む。


「お前、さっき俺に能力を使っただろ!?」


 譲は思ったより早く気付かれた事に内心驚いたが、克己の後ろにるいざの姿を見つけて、何となく事態を察する。


「……だからなんだ。傷口が開く。大人しくベッドへ戻れ」

「そんなんどうでも良い! 他人の事情を無理矢理聞き出して、どういうつもりだよ!?」


 ギリギリと、克己の手の中で布地が音をたてる。

 譲はため息を吐いて、言った。


「正直に報告しないからだ。通信は繋がっていたんだ。何かあったのは分かり切っているのに、『知らない』で済むわけが無いだろう」

「だからって、他人の事情に土足で踏み込んで満足か!?」

「それが俺の仕事だからな」


 激昂する克己に、淡々と譲は返す。そして、オロオロするるいざに部屋から出るよう合図して、克己の手を払った。


「仕事ならお前は、他人のプライバシーにまで踏み込むのか!?」

「今回の件は把握しておいた方が良い内容だ」

「それは結果論だろ!」

「結果論かどうかは、聞かないと解らないんだから仕方ない」


 再度克己が譲に手を伸ばすが、譲はその腕を掴むと、克己の身体をベッドへ沈めた。


「今回は、お前に関係有る事、アメリカ連合軍が相手だった事、通信で拾ったお前の言葉から、重要事項だと判断した」


 譲に後ろから押さえ込まれて、克己は抵抗が出来ないまま、譲を睨みつける。


「ついでに言っておく。お前は、これ以降、アメリカ連合軍絡みの任務からは外す。これは決定だ」

「なんでっ!?」

「なぜ? それはお前が一番良く解っているだろう?」

「……っ!」


 克己は悔しそうに唇を噛んだ。

 身内が敵に居るだけでも、外される理由には十分な上に、今回の報告の件だ。

 そしてなにより、克己は情に厚すぎる。

 譲は沙月と顔見知りだが、お互いビジネスライクに敵対する事も可能だ。だが、克己が身内に対してそうできる可能性は限り無く低い。それは、病院時代に大怪我をしたという話からも解る。

 いざという時、躊躇う人間は必要無い。

 悔しそうな顔をして、無理な態勢で抗う克己を、譲はPKを使って押さえ込むと、用意していた痛み止めの代わりに、麻酔を点滴に繋いだ。

 克己の意識は一気に暗転し、身体の力が抜けた。

 譲はため息を吐くと、克己をベッドへと寝かせて傷口を確認する。


「いくつか開いてるな」


 面倒くさいが、さすがに放置は出来ず、譲はテープを剥がすと、再度傷口を処置する。

 その時になって、るいざがまだ部屋の隅に居たことに気付いた。


「ああ。食事のワゴンならそこに――」

「あ、うん。そうなんだけど、そうじゃなくて、……なんかごめんなさい?」

「いや? るいざの責任じゃないだろ」

「でも、私が余計な事を言ったからじゃない?」


 恐らく、譲の能力が切れかけていた時に、会話の内容を反芻するような何かをるいざが言ったのだろう。だが、元を正せば、無理矢理聞き出した譲に原因がある。


「気にするな。遅かれ早かれこうなる事は分かっていた」


 今回は聞き出すために、かなり強く能力を使ったため、必ずバレるとは思っていた。それが予定より早かっただけの話だ。


「とりあえず、るいざが気にする事はない。が、気になるなら、ワゴンの片付けを任せても良いか?」

「あ、うん。それはもちろん!」

「助かる」


 責任を感じているるいざに、少しでも罪悪感を減らすよう、用事をすり替えて頼み、譲は痛み止めと抗生物質を克己に点滴する。


「あ、るいざ」


 と、ふと譲が部屋を出ようとしたるいざを呼び止めた。


「なに?」

「もう一つ頼みたい事がある」

「?」


 るいざは首を傾げて、譲のところへ歩いていった。

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