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16.地獄への招待

 人々が寝静まった午前3時、譲は引き継ぎの為に当直の工事部門のメンバーと共に、処理棟に居た。

 工事部門も研究部門も、退去の準備が優先で、急を要する案件以外はストップしているのだが、引き継ぎはやはりいくつかあり、こんな時間までかかっていた。


「以上、ですかね」


 工事部門のこの時間の責任者が、やっと終わったとばかりに息を吐いた。


「解った。こんな時間まですまなかったな。ありがとう」

「いえいえ。完成までこぎつけられなくてすみません」

「それはこっちの都合のせいだから、気にするな。むしろ心残りになって悪いな」

「ま、元はと言えば作業が遅れたせいですから仕方ないですよ」

「そうそう。妨害さえ無ければとっくに終わってたハズなんですから」


 それはその通りではあるが、譲も技術者である。仕事を中途半端にせざるを得ない無念さは分かる。


「所長はこれから次の引き継ぎですか?」

「いや、要請は今のところ無いから、念のために一回りして寝ることにするよ」

「そうですか。それじゃ、俺達はお先に失礼します」

「お疲れさまでしたー」


 口々に挨拶を交わし、メンバーは住居ブロックへと戻って行った。

 それを見送ると、譲はウィンドウをいくつか開き、引き継ぎ要請が無いか念のために確認するが、特に新しいものは無かった。


「それじゃ、もう一仕事するか……」


 誰も居ない事を確認し、処理棟のコネクトポイントまで移動しようとしたときだった。


「所長! 大変です!」


 突然、研究員の1人が走って来た。


「どうした?」

「白石さんがっ……、白石さんが、コンピュータールームに立てこもりました!」

「はぁ?」


 思わず間の抜けた声が出る。

 それもそのはずだ。コンピュータールームは確かにパソコン関係のメインの場所であるが、実際はいくつかの場所に分かれてシステムは置いてあるし、何より現在の技術では場所はほぼ関係無くシステムを同じように使うことが出来る。

 つまり、立てこもる意味が無いのだ。

 それは白石も解っている筈だ。

 だとすると、それ以外の目的があるのか……?


「解った。直ぐに向かう」


 息の切れている研究員は置いて、譲はコンピュータールームへと走り出した。

 走りながらウィンドウを操作し、神崎へと連絡を取る。すると、神崎の所へも研究員が来ており向かっている所だという返答が返ってきた。


「集めているのか……」


 おそらく白石が、特定の人間だけを集めているのだろう。だとすれば、後のメンバーは……。

 譲が中央回廊へ来たときに、同じく走ってきた克己と合流した。

 予想通りといった顔で譲は聞いた。


「2人はどうした?」


 すると、やや気まずそうに克己は言った。


「ちょっと走れねーから、歩いて来ると思う。二度寝してなければ」


 どうやら今夜も懇親会が行われていたらしい。なんとかため息を堪え、コンピュータールームへと繋がる連絡路を走る。

 コンピュータールームには神崎が先に到着していた。


「状況は?」

「扉に鍵はかかっていない。内部に居るのは複数名。入ってこいと言ったところだな」

「成る程」


 そう言うと、譲は扉に手をかけた。


「ちょっと待てよ!」


 克己が慌てて譲を制止する。


「コレっておびき寄せられてるんだろ? それをのこのこと入るなんて」

「虎穴に入らずんば虎子を得ずって言うだろ。それに――」


 そこに丁度るいざと麻里奈が到着する。


「丁重にお招きされているんだ。入らないと悪いだろう?」


 軽い音を立てて扉が、開いた。

 映画館のような巨大スクリーンの前に白石が立ち、いつもの笑みを浮かべている。他は研究員が数名コンソールでパソコンを操作し、数名の軍服の人間が、譲たちをぐるりと取り囲んだ。それぞれ銃を構えて狙いを定めている。


「こんな深夜に何の用だ?」


 譲が言った。


「それは君が一番良く解っているんじゃないか?」

「さてね」


 白石も、銃すら気にした様子もなく譲は言った。


「こんなくだらない事をしている暇が有るんだったら、退去の準備をしたらどうだ?」

「……くだらない、ね」


 と、突然白石が笑い出した。


「譲君、君の力はPKだったね?」


 白石がポケットから、機械のリモコンらしき物を取り出した。


「撃たれても平気だと思っているんだろう? 肉弾戦でも神崎が居るから問題無いと」

「……」


 肯定を返したような沈黙に、白石は愉しそうに言った。


「これでもそう言えるかな?」


 そうして、手に持ったスイッチを押す。

 と、同時に何人かの研究員が端末を操作する。

 キュインという音がして、何かが作動した。

 だが、目に見えては何も起こらない。


「な、何?」


 麻里奈が不安そうな声を出す。


「分からないか? 何が起こっているか」


 ニヤリと笑って、白石は告げた。


「これは、能力妨害装置さ」

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