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1.目覚め

 点滴に流していた睡眠薬の量を減らすと、すぐに克己は目を覚ました。


「あ、あれ?」


 とっさに起きあがろうとして、譲に手でストップされる。


「動くな。傷口が開く」


 そう言われて、克己は意識を失う前のことを思い出していく。


「ああ、そっか。俺、怪我して――」


 そこでまたはっとしたように起き上がりかけて、痛みにベッドに逆戻りする。


「いってええええー」

「だから動くなと言っているのに」


 譲は念のため、傷が開いていないか確認する。が、傷口に貼ったシートのおかげで、開いた傷は無さそうだった。


「いや、つい。るいざと麻里奈はどうした? 怪我はしてないか?」

「2人ともかすり傷程度だ。すぐに治る」

「良かった~。女性に怪我させたんじゃ、シールドの意味が無いもんな」

「お前は怪我してるけどな」

「俺はいいんだよ。どうせいまさらだし」


 そう言うと、克己はひらひらと手を振った。麻酔が効いているのもあって、多少の動きなら問題無いらしい。

 と、そこで自分が医務室のベッドに素っ裸で寝ている事実に気付いたようだ。


「ちょ。俺、裸なんだけど!?」

「治療の邪魔になるから服は切った。どうせ血塗れだったからもう着れないだろうしな」

「裸でベッドに寝てて良いのか!?」


 気にする所はそこなのかと、譲は突っ込みたいのを抑えて答えた。


「血が付いても構わないベッドだから問題無い」

「ああ。そっか。俺、血だらけだもんな」


 手のひらをかざし、しげしげと血の付いた手を見ている。一応掛け布団のようなシートはかけているので、全裸を晒すことにはなっていない。

 克己が落ち着いたのを見て、譲は椅子を移動させ、克己の隣に座った。


「気分は悪くないか? のどが渇いたり、吐き気がしたりは?」

「ちょっとクラクラする感じがあるくらいだな。後は喉が渇いた」

「貧血をおこしているんだろう。輸血はしたが、最小限に抑えたからな」


 そう言うと、譲は机に置いてあったペットボトルと、ストローを取り、ベッドを操作し軽く克己の上半身を起こした。


「ここにセットしておく。好きに飲め」

「Thanks」


 譲がベッドに付いているアームにペットボトルをセットしてくれたので、克己はストローでゆっくりそれを飲む。


「これ、水じゃないのか」

「栄養剤だな。吸収しやすいように常温の。文句は受け付けない」

「いくら俺でも、この状況で文句は言わねーよ」


 克己は大人しく栄養剤を飲んで、ひと息ついた。

 その隣で譲はいつも通り、ウィンドウを展開して、克己の具合を調べている。


「なあ。食事は普通のヤツが食えるのか?」

「内臓は傷ついていなかったから、問題無い。ただ、食べ過ぎない方が良い。傷に触る」

「ちなみにトイレは行って良いのか?」

「構わない。後で着るものも渡す。今すぐ行きたいのか?」

「今は大丈夫。でも、そうしていると、お前、本当に医者みたいだな」

「医師免許は持っていないが、経験値は増えている気がするな」


 克己のバイタルデータはイエローからグリーンの境目に上がってきている。この分だと、明日には問題無く動けるようになるだろう。


「今夜はここに泊まれ。点滴もまだあるから、終わったからって、勝手に針を抜くなよ」

「解った」

「夕食は2人分運んでもらうよう、言っておく」

「あ、俺が言うよ。麻里奈とるいざの顔も見たいし」

「なら任せた」


 あっさりと任せて、譲は作業の続きをしている。

 克己はウィンドウを開くと、るいざに繋いだ。


『克己!? 大丈夫なの!?』

「おー。なんとか無事」

『そう言うのは無事とは言わないの!』

「確かに。るいざはどうなんだ?」

『少し傷はあるけど、譲が手当てしてくれたわ。残らない程度の軽い傷よ』

「なら良かった。麻里奈は?」

『ここに居るわよ』


 そう言うと、るいざは麻里奈を写す。


『克己、具合どう? 痛い?』

「いや、今は痛くないな。多分麻酔が効いてるんだろ」

『そっかー。なら良いんだけど。……ん? 良いのかな?』

「ははっ。笑わすなよ。痛くなる」

『それはともかく、克己は普通の食事で良いの? お粥でも作る?』

「ああ、それなんだけど、普通の食事で良いって。でも、そっちに行けなそうだから、譲のと2人分、こっちに運んで貰えるか?」

『良いわよ。じゃ、また後で届けるわね』

「頼む。んじゃな」

『はーい』

『ちゃんと安静にしてるのよ』

「OK」


 最後に付け足されたるいざの言葉に返事をして、克己はウィンドウを閉じた。


「で?」

「で?」


 唐突に譲に聞かれて、思わずオウム返ししてしまう。


「それで、何があったんだ?」

「何って?」

「お前がこれだけの怪我をするくらいの何かがあったんじゃないのか?」


 そう聞かれ、克己はやや気まずそうな顔をした。


「いや、予想以上に敵の――、なんだっけ。あの小僧」

「沙月か?」

「そう! ソイツが強くてさ!」

「……」

「お前の知り合いなんだろ? どういう関係なんだか知らないけど、スカウトに来たって言ってたぞ」

「いつもの事だ。スカウトは口実で、アメリカ連合軍の目的は他にもあるはずだ」

「そうなのか? スカウトはマジだと思うけどな」

「本気だとしても、受ける気は無い。俺は今の状況で満足してるんだ」


 珍しく譲が本音を漏らしたので、思わず克己は固まってしまう。


「それで、沙月だけか? 他には何も無かったのか?」

「――無いよ。つか、他の2人に聞いたんじゃないのか? 通信も聞いてたんだろ?」

「聞いてたし聞いた。が、報告を纏めるからには、全員から話を聞くべきだと思ったんだ」

「それはそうだな。でも、他は何もないぜ?」


 克己は普段の調子でそう言うが、譲にそれは通じない。

 克己の言葉に隠された嘘を見抜いてしまう。

 が、本人に言う気は無いらしい。


 これは無理矢理にでも聞き出すしか無いな。


 そう判断し、譲は一旦引いた。


「解った。報告はこれで上げておく。夕食まで少し休むといい」

「ああ。そうさせてもらう。――あ、片付けとかは……」

「あの2人がしてくれた。後で礼を言っておくんだな」

「うわー。俺、情けねえー」


 ため息を吐く克己を横目に、譲は一旦医務室を出た。

 今は聞き出すタイミングではない。

 タイミングをミスると、意固地になりかねない上に、不信感を持たれて次のチャンスは無い。

 譲はひとまず、ガウンでも用意するかと、住居ブロックのコンビニへ向かった。

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