47.対アメリカ連合軍③
「消えた……?」
麻里奈が呟く。
「多分、テレポーテーションで飛んだのよ。それより、早く克己を治療しないと!」
「あっ! そうだった! でも、どうしたら……」
車までは距離がある。それに、まだ拠点の制圧も全ては出来ていない。こんな状況で海軍の助けも期待出来ない。
と、近くの拠点から突然、銃弾が飛んでくる。
「きゃあ!?」
驚いた麻里奈が悲鳴をあげるが、克己のシールドに阻まれて事なきを得る。
が、シールドも長くは続かないだろう。
「出血が激しすぎる……」
るいざが眉をひそめて言うと、通信機から譲の声が響いた。
『克己、車まで飛べるか?』
「いや。悪い、ちょっと無理そうだわ……」
荒い息を吐きながら、克己が言った。
「発火!」
麻里奈は咄嗟に、近くの拠点へ火を放つ。
これで少しでも時間が稼げれば、譲が何とかしてくれるに違いないと、麻里奈は思ったのだ。
『分かった。海軍の車を回すよう手配するから、少しだけ待ってくれ。シールドはもつな?』
「もたせるしかないだろ?」
苦笑した克己に、譲は少し安心する。時間との闘いではあるが、今すぐにどうこうという問題ではないらしい。
『るいざと麻里奈は周りから攻撃を受けないよう、遠距離攻撃していてくれ』
「了解!」
「あっ! 克己のバイタルデータのゲージが黄色になった!」
コンピュータールームで椅子に座っていた憲人が、立ち上がり言った。
「何かあったな」
おそらく、沙月の置き土産だろう。それにしたって、克己のシールドでここまでのダメージは無いはずだ。
「何かに気を取られたな」
「譲! 克己は大丈夫なの!?」
克己のバイタルデータはイエローからオレンジへ変わる辺りで止まっている。
心配する憲人に、譲は言った。
「今すぐどうこうってことは無いだろう。ただ、時間がかかるとマズいな」
敵の母艦がテレポーテーションで飛んだと言うことは、増援は無いと言うことだ。そして、沙月の攻撃も。
譲は海軍に車を回して貰うよう手配しつつ、通信を入れる。
「克己、車まで飛べるか?」
『や。悪い、ちょっと無理そうだわ……』
予想通りの答えが返ってきた。譲は海軍へ至急、車を回すよう依頼し、通信を続ける。
「克己君のシールドを突破するとはね」
創平が愉快そうに言う。譲は通信を終わると、ウィンドウを一気に開いた。
「創平、残りはこれで全部か?」
「ああ。でも、克己君の方は良いのかい?」
「すぐに終わらせるから問題無い」
譲は小さく息を吐くと、ざっとウィンドウの中身を把握し、一気に仕上げてしまう。
「さすが、本気になった譲は違うね」
創平は苦笑しつつも、内容を確認し、動作チェックをかけていく。
憲人はそんな2人のやり取りに、やきもきしつつ、メインモニターの克己の体力ゲージを見ていた。克己の体力ゲージは、少しずつ、だが確実に減っている。そして、麻里奈とるいざのゲージも僅かずつだが、減ってきている。
「譲……」
「少し待っていろ。憲人」
そう言われ、憲人は黙り込む。憲人には、譲がどうしてそんなに冷静なのか解らなかった。
「OK」
「了解。テストプログラムを流すよ」
譲が言うと、即座に創平はテストプログラムを流す。そして、結果が出るより先に、海軍の車が克己たちの元へ到着したようだった。
発火と雷電で敵を減らしていると言っても、ゼロに出来ているわけではない。たまに銃弾が飛んでくる。しかも克己の集中力も限界が近いのか、ほとんどの弾はシールドで弾かれるが、たまに通過する物も出始めた。
このままでは危ない。
そう思った瞬間、海軍の車が敵からの攻撃を遮るように横付けされた。
「お待たせしました! 自分は海軍第3部隊所属、岡田清澄少尉であります! 陸軍拠点までの送迎の任務で参りました!」
運転席の男がそう自己紹介する。
「乗ってください! 拠点は海軍が殲滅します!」
「ありがとう!」
るいざはお礼を言うと、克己に肩を貸し、車に乗せる。そして、自分も車に乗り込む。麻里奈はこれで最後とばかりに、思い切り炎をお見舞いして、2人に続いて車に乗った。
「飛ばします! 気を付けてください!」
「了解!」
言葉通り、岡田はアクセルを勢い良く踏むと、拠点と銃弾の間をかいくぐり、陸軍の拠点へと最短距離で向かう。
「麻里奈、車の運転、頼んでも良い?」
るいざは自分たちの車に戻った後の事を、麻里奈と打ち合わせる。
既に敵の拠点からは距離が出来ている。陸軍の拠点からESPセクションまではおそらく安全だろう。だとすると、自分がすべき事は。
麻里奈は頷いて、銃を仕舞う。
「運転は任せて。るいざは克己の止血をお願いね」
「ええ。でも、傷が深いから、止血仕切れないかもしれないわ」
「わかったわ。出来るだけ急いで運転する」
「お願い」
話してる間にも、陸軍の拠点が見えてきた。
克己は出血が多いせいか、すでに意識が曖昧になっているようだ。
岡田は陸軍の拠点へ勢い良く突っ込むと、ESPセクションの車の隣に横付けし、ぐったりしている克己を運ぶ手助けをしてくれた。
「岡田さん、ありがとう!」
「いえ! これが仕事ですから! では私は戻ります。ご無事を祈っております!」
「ありがとう!」
そう言うと、岡田はまた車を飛ばして先ほどの戦場へと戻って行った。
麻里奈は運転席に乗り込むと、シートの位置を調節して、エンジンをかけた。
「るいざ、準備はいい?」
「いいわ! 飛ばしちゃって!」
「了解! いっくよー!」
麻里奈は勢い良くアクセルを踏んだ。
岡田が3人を送迎している間に、テストプログラムは問題無く終わった。
「完璧だね。さすが、譲だ。最初からあの早さで手を出してくれても良かったんだよ?」
「やだね。それはアンタの仕事だろ。それより、そろそろ時間だ。見送りは無いが、構わないな?」
「ああ。今はそれどころじゃないだろうしね。プログラム、ありがとう」
「どーいたしまして」
譲に手を振ると、創平はコンピュータールームを出て行った。
譲はウィンドウを1つ開いて、創平の監視用にする。
それと同時に、車に乗ったるいざへと通信を繋ぐ。
「るいざ。後ろの荷物の中に救急箱がある。それで止血をしてくれ。大きい傷は手前を縛って圧迫して、血流を緩やかにしてからシートを貼れ」
『傷が多いのだけど、どれを優先したら……?』
「血の色が鮮やかな赤のところだな」
『力いっぱい縛って平気? 壊死しちゃったりしない?』
「克己は筋肉があるから、るいざの力なら大丈夫だろ。内蔵が出たりはしてないか?」
『た、多分それは無い、と、思う……』
さらりと告げられた質問に、るいざだけでなく憲人も驚いて目を見開く。
『とりあえず止血するわ』
「こっちの準備はしておくから、気負わなくて良いぞ」
『……うん』
るいざは少し落ち着いた声で返事をした。
その間にも、一度部屋に戻った創平は荷物を持って車に向かう。
「今回はすんなり帰ってくれるようだな。憲人、医務室に移動するぞ」
「え!?」
譲はウィンドウをいくつも開いたまま、コンピュータールームを出て行く。
憲人は慌ててそれを追った。
「譲の頭の中ってどうなってるのさ……」
平行で色々な事が進みすぎて、憲人はついて行けない。
譲が医務室で克己を迎え入れる準備を始めると、ちょうど創平が車で出て行った。それを確認して、譲は1つウィンドウを閉じた。
残りは克己たち、3人のバイタルデータと通信機からのデータやらなんやらである。
「沙月が相手と言うことは、かまいたちだろうから、上手く塞げば輸血くらいでいけるか?」
譲は呟きながら手洗いをして、消毒用の薬剤や縫合用の糸と針、固定用テープを出していく。
そうして、準備が終わると、憲人を医務室に残して、譲は駐車場へと移動した。