46.対アメリカ連合軍②
左の拠点の中央をややはずした場所に克己はテレポーテーションすると、張りっぱなしだったシールドを、即座に強化する。
敵は12名、小隊のようで、全員が銃を持ってはいるが、役割分担がありそうだ。
が、そんなことはお構い無しに、麻里奈が人が集中している場所目掛けて先制攻撃した。
「発火!」
勢い良く炎が吹き出し、6名を飲み込む。と、同時に銃や身に付けていたらしき武器が暴発して、更に2名を巻き込む。
「雷電!」
麻里奈ばかりに任せてはおけない。るいざは麻里奈と背中合わせになると、背後の敵に雷電を落としていく。が、思ったほどの威力は出ない。
暴発しないようにやや手加減はしたが、それ以上に、船の能力妨害装置の有効範囲がここまで届いているようだ。
手加減していたら、こっちが危ない。
そう判断した2人は、火力最大で敵をなぎはらう。
「能力妨害装置の範囲内みたい。克己も気を付けて!」
「マジか。広いな」
あっと言う間に左の拠点を全滅させ、次は右の拠点へ移動しようとした瞬間、目の前に背の低い少年がふわりと現れた。
船から文字通り、空中を飛んで来たことから、能力者であることが判る。
克己は麻里奈とるいざを後ろに守って、様子を見る。
と、少年はきょろきょろとした後、首を傾げて克己に聞いた。
「譲は?」
その余りに自然体の様子に、面食らいながら、克己は答えた。
「今日は留守番だ」
「えー? 居ないのか。残念」
がっかりした様子で呟く少年に、克己が聞いた。
「譲の知り合いか?」
「そうだよ。せっかくスカウトに来たのにな」
「スカウト?」
「そう。譲には日本みたいなちっぽけな国でぼんやり過ごしてるより、ウチみたいな大きな軍で、その力を遺憾なく発揮出来る方が向いてると思うんだ」
「……」
少年の言葉に、克己たちは黙る。
それは、全員思ったことがあったからだ。
譲は何故、日本に居るのだろうと。
譲の力なら、その気になれば世界征服も出来かねない。なのに、なぜ、敢えて窮屈な日本に居て、今の地位に甘んじているのか。
そんな克己たちの事は無視して、少年は地上に降りると、すっと手をかざした。
「まあ、せっかくだし、誰か1人くらいは潰しておこうかな」
少年はそう言うと、風を巻き起こし、それを克己たちへ向けた。
克己は咄嗟にシールドを全開にする。
が、次の瞬間、克己の右頬とかざした左手がスパッと切れた。
薄皮一枚どころじゃなく、やや深めの傷。まるで鋭利な刃物で斬りつけられたらような。
「ウソッ!?」
「克己のシールドを貫通するの!?」
いくら船の能力妨害装置が働いていると言っても、それはお互いさまだ。
ポタポタと、血が地面に落ちるが、構っている余裕はない。
相手は再度かまいたちのような風で攻撃をしてくる。克己はシールドだけに集中して、なんとかそれをやり過ごす。
形成が不利なのを悟って、麻里奈とるいざが克己の後ろから攻撃を試みる。
「発火!」
「雷電!」
が、少年はそれをひょいと避けてしまう。
「ふうん。こんなもんか」
少年はふわりと宙に浮かぶと、再びかまいたちで攻撃してくる。しかも今度は一点に集中して、だ。
「くっ!」
克己はなんとかかまいたちを防ぐが、完全には防ぎきれず、身体のあちこちが切れる。
「克己!」
「俺の影から出るな!」
今はるいざも麻里奈も、克己の後ろに居るから無傷だが、かまいたちの反れ方次第では2人も攻撃を受けるに違いない。
いや、そもそも――。
守るだけしか出来ないんじゃ、ジリ貧だろ。
克己は奥歯を食い締めて攻撃に耐え続けるが、こんなのがいつまでも続けられるわけがない。
ヤバいぞ。
手一杯の克己を見て、るいざが通信で譲に呼びかけた。
「譲! アメリカ連合軍にかまいたちを使う強い能力者が居るわ! 何か作戦は無い!?」
『かまいたち? 金髪の少年か?』
「そう!」
「この間の人よ!」
麻里奈が前回の事を思い出して、譲に伝える。
『沙月か。通信をスピーカーにしてくれ』
慌ててるいざは通信機を外して操作し、スピーカーモードにする。
と、会話を聞いていたらしい少年――沙月が、攻撃を止めた。
『沙月、あいにく今回は俺は居ない。今忙しいから、また今度にしてくれ』
淡々と、いつものペースで話す譲に、克己の力が抜ける。
が、そんなことは気にせず、沙月は通信機を見た。
「せっかくアメリカから来たのに、手土産も無く帰れって?」
『それはいつものことだろ。どうせ今回も俺のスカウトの他に、動いている部隊があるんだろ?』
「お見通しか。相変わらずだな」
沙月が嬉しそうに笑った。
『そっちを、根こそぎ潰されたくなかったら、引くんだな』
「……」
沙月が少し考える素振りを見せる。
その時だった。
「沙月!! 引くぞ!!」
船の甲板から沙月に呼び掛ける声が響いた。
沙月はそちらをチラリと見ると、不服そうな顔で言った。
「1人くらい潰していきたいんだけど?」
「目的は果たした。それに、目当てのヤツは居ないんだろう? なら、帰るぞ!」
そう言う男を見て、克己とるいざが目を見開く。
「あれは――!」
克己の気が逸れた瞬間、沙月は憂さ晴らしのように、かまいたちを克己に放つ。
出力が弱まっていたシールドでは、ほとんど防ぐことが出来ず、克己の身体のアチコチから血が吹き出し、がくりと膝を付く。
「克己!」
そんな克己にはお構い無しに、沙月は譲に言った。
「次は来いよ。待ってるからな」
沙月はふわりと宙に浮いて、船へと戻っていく。
「ちょっと待て!」
克己は、それをとっさに追いかけようとして、るいざに止められた。
「るい!?」
「克己、貴方、傷だらけなのよ!? それに、あの人は私たちの手に負える人じゃない!」
「でも、俺は――」
克己の視線は、沙月ではなく甲板に居る男に釘付けだ。
「アイツと話を――」
るいざは血に塗れるのもかまわず、克己の両頬をパシッと叩いた。
「撤退してくれるなら、任務完了よ」
それは克己も分かっている。
が、しかし、それ以上に甲板に居る男が気になって、再度そちらを見た。
すると、男も克己を見ていて、一瞬目が合う。
「――き」
名を呼びかけた瞬間、男の隣に女性が現れる。
その姿に愕然とした克己をよそに、次の瞬間、船は忽然と姿を消していた。